表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

第8話「シズクの秘密」(挿し絵あり)

 目を覚ますと、そこはベットの上だった。


「あれ、いつの間にか眠ってたのか……」


 部屋の中を見回すと、隣のベットでイーリスが眠っていた。

 コハクは、イーリスの大きなお腹の上で気持ちよさそうに眠っている。

 部屋の時計を見ると、午前二時を少し過ぎたくらいだった。


「確か、食堂で飯を食ってから部屋に戻って……」


 部屋に戻って、すぐに眠ってしまったらしい。

 いろいろあったから、疲れていたのかもしれない。


「トイレ行こう……」


 俺は、イーリス達を起こさないように、そっと部屋から出る。

 トイレで用を済ませ、部屋に戻る途中の廊下で、宿屋の店員に出会う。


「お客さん、まだ起きてたんですか?」

「ああ、早く寝たせいで目が覚めて……」


 俺がそう言うと、店員はにっこり微笑み。


「それなら、露天風呂に入ってきてはどうですか?」

「露天風呂?」

「はい、外にあるお風呂です」


 昔、村長に連れられて、亜人の里の山奥にある温泉に行ったことがある。

 あれみたいなモノだろうか?


「この宿には露天風呂があるんです、あまり大きくはないですが……今日はお客さんも3人だけですし、この時間なら誰にも気にせず一人で入れると思いますよ」


 汗もかいてるし、入ってみるのもいいかもしれない。

 それに、どんな風呂なのかちょっと気になる。


「それじゃあ、入ってみるかな」

「はい、それではご案内しますね」


 俺は店員に案内されて、露天風呂の扉の前まで移動する。


「それでは、ごゆっくりどうぞ」

「案内ありがとう」


 俺を案内すると、店員はどこかに行ってしまった。

 目の前の扉を見ると、『混浴』と書かれた紙が張ってあった。


「混浴ってなんだ?」


 意味はわからないが、どうせ中には誰もいないだろうし、気にしなくても大丈夫だろう。


「まあいいや」


 扉を開けると、中は脱衣所になっており、その奥にある扉の向こうが露天風呂になっているようだ。

 俺は、服を全て脱ぐと置いてあった籠の中に入れる。


「よし、入るか」


 露天風呂への扉を開くと、天井には屋根が無く、外灯の変わりに月明かりが辺りを照らしていた。

 少し歩くと、大きな風呂があり湯気の向こうに人影が見えた。


「あれ、誰かいるのかな?」


 あの店員は、誰もいないって言ってたけど……。

 とりあえず、近づいて確認してみる。


「えっ……」


 人影の正体は、全裸のシズクだった。

 小柄で胸もお尻も小さいが、引き締まった綺麗な体をしている。

 ほんのりと膨らんだ胸に、思わず目がいってしまいそうになるが、それ以上に気になる部分があった。

 彼女の頭には、二本の小さな角が生えていたのだ。


挿絵(By みてみん)


「キミは……」


 シズクは、俺に気づくとこちらに向かって歩いてくる。


「ご、ごめん!!」


 俺は慌てて顔をそむける。

 彼女が何者だろうと、女性の裸を見るのはよくない。

 とりあえず、ここを出よう。

 そう思って、後ろを振り返った瞬間……。


「……待て」


 後ろから、いきなり手を引っ張られる。


「うわっ!?」


 床が濡れていたせいで足が滑り、俺は体制を崩してしまう。


「危ない!!」


 すると後ろから、シズクに抱きしめられる。


「大丈夫かい?」


 風呂で温かくなったシズクの体温と一緒に、背中に柔らかい感触が伝わってくる。


「お、おう」


 抱きしめてきたシズクの手を見ると、普通の人間よりも、鋭い爪をしていた。

 だが、それよりも今は、背中の感触の方が遥かに気になる。


「と、とりあえず、いろいろと当たってるから離してくれ!!」


 この状況は、なんというか色々と危険だ。


「そういえば、キミは男の子だったな」


 察してくれたらしく、シズクは俺から体を離した。


「最初に会った時に、男だってちゃんと言っただろ」


 シズクの方に振り返り、文句を言う。


「ふむ……確かに、男の子のようだな」


 俺の下半身に視線を向け、シズクが納得した顔をする。


「ど、どこ見てんだよ!!」


 思わず大事な所を手で隠してしまう。


「ふふっ、かわいいな」


 なんか遊ばれてる気がする。

 シズクは、俺に裸を見られて恥ずかしくないのだろうか?


「ふん、シズクは体を隠さなくていいのかよ?」

「ここは混浴だ、気にする必要はないだろう」


 そういえば、ここに来る前の扉にも、そんな事が書いてあった気がする。


「混浴ってなんなんだ?」

「なるほど、知らなかったのか……混浴というのは男女が同じ浴場で入浴することだ、つまりキミとワタシが一緒に入っても問題無いということだ」

「なん……だと……」


 そんなモノが存在していたなんて、知らなかった……。

 だけど、やっぱり女性と一緒に風呂に入るなんて問題がある。


「でも、やっぱりダメだ!!」


 そういうのは、恋人とか夫婦とか大人の店でするものだって、ブライアンが言ってた。


「真面目だね……わかったよ、それならワタシが先に上がろう」


 シズクは露天風呂の扉に向かって歩き出す。


「あっ、おい!!」

「風呂から上がったら、私の部屋に来てくれ……話がある」


 そう言うと、シズクは扉を開けて出て行ってしまった。


「俺、シズクの部屋がどこか知らないんだけど……」


 とりあえず、風呂から上がってから考えることにしよう。





 露天風呂を出た俺は、シズクの部屋を探していた。

 すると扉の取っ手の部分に、鈴がついてる部屋をみつける。

 おそらく、シズクが自分の部屋だと俺にわかるように、目印を付けたのだろう。

 とりあえず、ノックしてみる。


「どうぞ」


 中からシズクの声がした。

 この部屋で間違いないようだ。


「入るぞ」


 扉を開けると、シズクがベットの上に座っていた。

 今は、ちゃんと服を着て、帽子を被っている。


「あの鈴はやっぱり、シズクのだったか」

「部屋の場所がわかるように、故郷の鈴を目印にさせてもらった」

「シズクの故郷って、どこなんだ?」


 服装を見る限り、この辺りの出身では無いだろう。


「『魔国アビスフレイム』にある村だよ」

「それって、魔族が住んでるっていう……」


 それじゃあ、やっぱりシズクは……。


「ワタシは鬼人オニビト……人間達に鬼と呼ばれる者だ」


 シズクは俺の目を見て、はっきりとそう答えた。


「シズクが鬼?」


 その時、イーリスとの会話を思い出す。


『鬼って、人間に似てるのか?』

『見た目は人間に近いですが、頭に角が生えていて強靭な肉体を持っています……中身は残虐非道で邪悪な化け物ですが』


 しかしシズクは、イーリスが言っていた鬼とは、かなり違う気がする。

 小柄だし、全然強靭な体に見えない。

 普通に会話もできるし、角や爪を隠していれば、人間の女の子と同じだと思う。


「そうだ」


 だが、シズクの目は嘘を言ってるようには見えない。


「でも、イーリスが言ってた鬼と全然違うし、普通のかわいい女の子にしか見えないぞ」

「そ、そうか……」


 シズクは、なぜか頬を赤らめる。


「だが、キミも本当のワタシを知れば、きっと……」


 シズクが俺から目を逸らす。


「どういうことだ?」

「いや、なんでもない……それよりもワタシの事は、他の人間には話さないでもらいたい」

「ああ、わかった」


 村の人間に話したら、きっと俺達が村に来た時みたいに追い出されるだろうから、黙っておこう。

 イーリスも鬼を嫌ってるみたいだし、教えない方がいいだろう。


「随分あっさりだね……ワタシは鬼なのに本当にいいのかい?」

「鬼の事はよくわからないけど、シズクは悪いやつじゃなさそうだからな」


 こうやって俺が宿屋に泊まれているのは、シズクがイーリスを人間だと証明してくれたからだ。

 それに俺には、やっぱりシズクは普通の女の子にしか見えない。


「そうか、ありがとう」


 だが、シズクには一つだけ気になることがある。


「でもシズクが鬼なら、なんで他の鬼を退治する必要があるんだ?」


 この村を襲っているのは悪い鬼なのかもしれないが、それをわざわざシズクが退治する理由って何だろう?


「……わかった、話そう」


 すると、シズクは冷静な顔で静かに語りだした。


「7年前、ワタシの住んでいた村は、とある鬼人によって滅んだ」

「えっ!?」


 それはあまりに、予想外の内容だった。


「その鬼人は、ワタシ以外の村の鬼人をすべて殺して姿を消した……ワタシは、その鬼人を見つけ出して、殺さなければならない」


 表情は変わらないが、シズクが怒っているのが俺にも伝わってくる。


「そのためにアルキメス王国に来て、情報を得るために冒険者になり、鬼を探している」


 だから冒険者ギルドで依頼も受けずに、直接この村まで来たのか。


「シズクの村を滅ぼした鬼人っていうのは、どんなやつなんだ?」


 少し間を置いて、シズクが答える。


「ワタシの……兄だ」


 一瞬、聞き間違えかと思った。


「ワタシは一族の生き残りとして、兄を……あの男を殺さなくてはならない」


 シズクの目は本気だった、本気で自分の兄を殺そうとしているのだ。


「でも、だからって……」


 本当にシズクは、それでいいんだろうか?

 シズクの気持ちが俺にはわからない。


「理解する必要は無い、してもらおうとも思わない……ワタシは自分の目的を果たすだけだよ」


 俺が何か言う前に、シズクに拒絶される。


「つまらない話をしたね……もう遅いし部屋に戻った方がいい」


 部屋の窓から外を見ると、明るくなっていた。


「シズク……」


 何を言えばいいのかわからない。

 ただやるせないような、悲しい気持ちだけが、俺の中に広がっていた。


「ワタシの事情はキミには関係の無いことだ、だからキミがそんな顔をするな」


 手を伸ばし、シズクは俺の頭を撫でる。

 その手はとても優しくて、さっきまで自分の兄を殺すと言っていたのが嘘のようだ。


「ワタシには、兄の他に妹がいたんだ」

「妹?」


 その妹もシズクの兄に殺されたのだろうか?


「妹は、村が滅ぼされる1年前に亡くなったんだ……」


 死んだのは、シズクの兄が原因では無いようだ。


「キミが妹に似ているせいで、つい話さなくていい事まで話してしまったようだ……」


 正直、妹に似てるなんて男として複雑だが、今は文句は言わないでおく。


「シズクは、妹が好きだったのか?」

「ああ、もちろんだ」


 優しい笑みを浮かべながら、シズクは即答する。

 本当に妹のことが大好きだったのだろう。


「それじゃあ、お兄さんのことは?」

「それは……」


 即答できないシズクを見て、俺は理解する。

 シズクは兄の事を、本気で憎んでいる訳ではない様だ。

 それがわかっただけでも、良かった気がする。


「キミは意地悪だな……だが、そういう所も妹に似ているよ」


 そう言って、シズクは苦笑する。


「それじゃあ俺は、自分の部屋に戻るよ」

「ああ、それではまたな」


 シズクの部屋を出た俺は、自分の部屋へと戻るのだった。







 イブキが部屋を出て行った後、ワタシはベットに横になる。


「何をやっているんだ、ワタシは……」


 昨日、出会ったばかりの少年に、ワタシはいったい何を話しているんだろう……。

 イブキを見ていると、妹の……シグレの事を思い出してしまう。


「今さら何を考えているんだ……もう終わったことだ」


 もうシグレはいないし、兄上も村を滅ぼして去っていった。

 あの頃にはもう戻れない、考えても無駄なことだ。


「兄上……」


 ワタシは、故郷の鈴を握り締める。

 そして目を閉じ、眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ