第13話「心竜の少女」(挿し絵あり)
「パパ、朝だよー」
目を覚ますと10歳くらいの少女が、裸で俺に馬乗りになっていた。
「……なんだ夢か」
俺は、目を閉じてもう一度眠りにつこうとする。
「パパ、寝ちゃダメだよー」
俺の体の上に乗りながら、少女が体を揺らす。
すると俺にも、その振動が伝わってくる。
「う、うーん……」
どうやら、これは夢ではないようだ。
とりあえず、目を開けて起き上がる。
「あ、パパ起きた」
やっぱり、目の前には裸の少女がいる。
白銀の長い髪に、蒼くて大きな瞳をした、かわいらしい顔をしている。
おそらく将来は、かなりの美人になるだろう。
だが、今はそんなことは関係ない。
とりあえず……。
「誰だ、おまえっー!?」
思わず、叫んでしまった。
「ぴゃう!!」
少女は、驚いた様子でベットから飛び降りる。
「イブキ、朝からうるさいですよ……ってその娘、誰ですか!?」
隣のベットで寝ていたイーリスが、少女に気づいて飛び起きる。
「あっ、ママおはよう」
少女はそう言って、イーリスの大きなお腹に抱きついた。
「えっ、いったい何を言って……」
「ママ~♪」
イーリスの大きなお腹に、少女は顔を擦り付けて甘えている。
「ママのお腹、柔らかくてとっても気持ちいい……」
どうやらイーリスに懐いているようだ。
それにイーリスの事をママと呼んでいる。
つまりこの少女は……。
「なるほど、その娘はイーリスの子供だったのか!?」
「違います!!なんでそうなるんですか!!」
どうやら違ったようだ。
「えっと、私はあなたのお母様じゃないですよね?」
イーリスは、普段よりも優しい声で少女に問いかける。
「イーリスは、あたしのママだよ」
少女は、満面の笑みでそう答えた。
「やっぱりそうだったのか!?」
イーリスに子供がいたなんて、なんだかショックだ……ちょっと横になるわ。
「そして、イブキはあたしのパパ」
俺がベットに横になった瞬間、少女はそんな衝撃的な発言をする。
「つ、つまり……あなたは私とイブキの子供ということですか?」
「うん、あたしが生まれたのは、パパとママのおかげだよ」
少女がそう答えると、イーリスの顔が真っ赤になる。
「いつの間に私とイブキはそんな関係に……まさか眠っている時にイブキが!?いえ、それはないですね……だとしたら知らない間に私の欲望が暴走してイブキを」
イーリスは、一人でよくわからない事を言い始めた。
「とりあえず、おまえの名前を教えてもらってもいいか?」
「ん?何言ってるの……あたしはコハクだよ」
当然のように、少女はそう答えた。
「えーと、ちょっと待ってくれ……」
部屋を見回すと、コハクの姿が見当たらない。
「コハクがいない……」
「だから、あたしがコハクだよ」
目の前の少女をよく見ると、耳は人間より長いし、耳の上の辺りから角が生えている。
それにお尻には、トカゲみたいな白い尻尾が生えていて、なんとなくコハクの面影を感じる。
もしかして、この少女は本当に……。
「おまえ、本当にあのコハクなのか?」
「うん、そうだけど……あっ、もしかして、この姿だからわからなかったの?」
「この姿って……なんでおまえ人間になってるんだよ!?」
俺が寝る前は、コハクはドラゴンの姿だったはずだ。
「うーん……よくわかんないけど、朝起きたらこの姿になってたの」
心竜というのは成長すると人の姿になるんだろうか?
「ほ、本当にコハクなんですか?」
イーリスも信じられないという顔をしている。
「うん、そうだよママ」
「でも、なんで俺とイーリスがパパとママなんだ?」
俺とイーリスは、別にコハクを産んだわけではない。
「だって、あたしを卵から目覚めさせたのは、パパとママだから」
どうやら、契約の時の事を言っているようだ。
「でもパパっていうのはな……」
「私もまだママという歳では……」
俺はまだ15歳だし、イーリスだって17歳だ。
イーリスの年齢なら子供を産んでいる人もいるだろうが、こんな大きな子供はいないはずだ。
「もしかして……パパやママって呼んじゃダメなの?」
コハクは、悲しそうに瞳を潤ませながら俺達を見てくる。
なんだ、この罪悪感は……胸が苦しくなってくる。
「も、もちろん、いいに決まってるじゃないですか!!ねえイブキ?」
「お、おう、当たり前だろ!!」
イーリスの問いに、俺は当然とばかりに答える。
「えへへ、ありがとう……パパ、ママ♪」
嬉しそうなコハクの顔を見ていたら、呼び方なんて気にならなくなってきた。
「でも、なんでコハクは人間の姿になったんだろうな?」
どうしてコハクが人間の姿になったのか……やっぱりそこが疑問だ。
「それは確かに気になりますけど、今はコハクの服をどうにかしましょう」
イーリスはそう言うと、コハクの体に毛布をかけた。
確かに、コハクを裸のままにしておくわけにはいかない。
「でも、コハクが着れる服なんて持ってないぞ」
「無いなら買いに行くしかありませんね……私達の服もボロボロですし、新しい服を買った方がいいかもしれません」
俺の服は結構穴が空いてしまっているし、イーリスの服も元々サイズが合っていないせいか、破けている箇所がある。
イーリスの言うとおり、新しい服を買った方がいいだろう。
「そうだな、それじゃあ朝飯を食べたら、服を買いに行こう」
俺とイーリスは朝食を食べてから、宿屋の店員に服が売ってる店の場所を聞き、コハクを連れて外に出る。
宿屋の店員には、一人増えたと言って追加で料金を払っておいた。
「下から風が入ってきて、なんだかスースーするね」
裸のまま外に連れ出すわけには行かないので、コハクには俺の上着を着せている。
とりあえず大事な部分は隠れているから、問題無い……と思う。
「コハクの下着もちゃんと買った方がいいですね……私に合うサイズの物も売っていればいいんですけど」
もしかして、イーリスって今まで下着をつけていなかったんだろうか?
じゃあ俺を抱きしめたあの時も……。
「パパ、なんだか顔が赤いよ?」
「な、なんでもない!!それより早く行こう!!」
まったく、何を考えてるんだ俺は……。
変な事を考えてないで、気持ちを切り替えよう。
「あっ、なんだか人がいっぱいいるね」
コハクの声に顔を上げると、建物の前に人が集まっているのが見えた。
「うちの子はまだ見つからないんですか!?」
「早く、あの子を見つけてください!!」
集まっているのは十人くらいで、20~30代くらいの女性ばかりだ。
「あの看板は、冒険者ギルドですね」
建物の看板を見ると『冒険者ギルド テルミロ支部』と書かれていた。
「冒険者ギルドって、冒険者が依頼を受けるところだよな……ってことはあそこに集まってる人達は依頼者か?」
集まっている女性達は、武器も持ってないし、戦闘をするような格好には見えない。
「おそらく依頼の関係で、何かトラブルがあったのかもしれませんね」
それにしては集まってる人数が多い気がする。
「へくちっ!!」
その時、コハクが小さなくしゃみをした。
もしかしたら、俺の上着だけじゃ寒いのかもしれない。
「気になりますが、今はコハクの服を買いに行きましょう」
「そうだな」
俺達は、気になりつつもその場を後にした。
それから少し歩くと、宿屋の店員から聞いた店を見つけた。
「ここが宿屋の店員さんが言っていた店だと思います」
「よし、入ってみよう」
店の中に入ると結構広く、服だけでなく鎧等の防具も置いてあった。
「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」
入り口の近くにいた女性の店員が俺達に話しかけてくる。
「この子の着れる服が欲しいんですけど」
そう言って、イーリスがコハクの肩に手を置く。
「子供服ですね、でしたらこちらにどうぞ」
店員に案内された売り場に行くと、小さいサイズの服がハンガーに掛けられてたくさん売っていた。
「思ったより、いっぱいあるな……」
これだけあると選ぶのも大変そうだ。
「コハクは、どんなのが着たいですか?」
「うーんとね……」
コハクは、首を動かしてキョロキョロと辺りを見回し始める。
「お嬢様には、こちらのピンクや白のワンピースなどどうでしょう?」
店員がヒラヒラした感じのかわいらしい服を持ってくる。
だが、コハクは店員の持ってきた服には目もくれず、横を素通りして行く。
「あたし、これがいい!!」
コハクが手に掴んだのは、ピンクでも白でもなく黒いワンピースだった。
「黒がいいんですか?」
「うん、この色が好き」
白いドラゴンのくせに、コハクは黒が好きなようだ。
「本人が気に入ってるなら、それでいいんじゃないか?」
「そうですね……それではこの服をください、それと子供用の下着もお願いします」
売り場に置いてあった下着を手に取って、イーリスが店員に渡す。
「それでは、会計をするのでレジにどうぞ」
レジに移動して、黒いワンピースと子供用の下着を購入する。
「すみません、こちらで着替えさせてもいいですか?」
イーリスは、この店でコハクを着替えさせていくつもりのようだ。
いつまでも俺の上着を着せておくわけにもいかないし、服があるなら早く着替えた方がいいだろう。
「はい、構いませんよ、それでは試着室を使ってください」
「ありがとうございます、それではコハク行きましょう」
「うん」
イーリスがコハクを連れて、試着室に入っていく。
一緒に入るわけにはいかないので、俺は近くで待つことにする。
すると店員が俺に話しかけてきた。
「待っている間お暇でしたら、お客様もお洋服を見ていてはどうでしょう?」
「そうだな」
俺の服もボロボロだし、新しい服を買っておきたい。
「こちらのお洋服の組み合わせなど、お客様くらいの年齢の方には人気があるんですよ」
店員が見せてきた洋服は、下の服がスカートになっており、あきらかに女性用だった。
「いや、俺は男なんだけど……」
「そ、そうだったんですか!?申し訳ありません!!」
どうやら女と間違われていたようだ。
うーん、そんなに俺って女みたいな顔をしているんだろうか?
「でも、似合うと思うので試着してみませんか?いえ、きっと似合いますから!!」
瞳を輝かせ期待の眼差しで店員が俺を見てくる。
「絶対に断る」
「うぅ、そうですか……わかりました」
店員は、肩を落として残念そうにしていた。
少しかわいそうな気もしたが、付き合ってやるつもりはない。
「それよりも動きやすくて、冒険者っぽい感じの服とかないか?」
「それでしたら、冒険者用の服がこちらにあります」
店員に案内された場所は、冒険者用品の売り場になっていたので、そこで自分の体に合う動きやすそうな服を選んで買ってみた。
「良かったら、お客様も着替えて行きますか?」
「ああ、頼む」
せっかくなので、俺も試着室で着替えさせてもらう。
少しして試着室から着替えて出ると、店員が話しかけてきた。
「とても似合っていて、かわい……かっこいいですね!!」
絶対この店員、今かわいいって言おうとしたな。
「そろそろコハクも着替え終わってるかな……」
着替えて元の場所に戻ると、試着室からイーリスと黒いワンピースを着たコハクが出てきた。
「パパ、この服どうかな?」
コハクは俺のそばに駆け寄ってくると、見せ付けるように、その場でくるりと一回りする。
ワンピースの黒色が白銀の髪と対照的で、似合ってる気がした。
「ああ、よく似合ってる、かわいいよ」
「えへへ……パパに褒められちゃった♪」
コハクの尻尾が嬉しそうに揺れる。
「コハク、あんまり尻尾を動かすとスカートが捲れて下着が見えてしまいますよ」
イーリスがコハクを注意する。
「あっ、そうだった……女の子はパンツを見せたらダメって、ママに言われたもんね」
コハクは尻尾を動かすのをやめて、スカートの中にしまった。
「その格好、イブキも新しい服を買ったんですね、かわい……じゃなくて、かっこいいですね!!」
今、絶対かわいいって言いかけてた気がする。
「待ってる間に買っておいたんだ、イーリスも新しい服を買ってきたらどうだ?」
この店なら、イーリスが着れるサイズの服もありそうな気がする。
「そうですね……他にも買う物があって時間がかかると思うので、イブキは別の場所で持っていてください」
「他に買う物ってなんだ?」
鎧や盾でも買うつもりなんだろうか?
「えっとコハクの靴とか……私の下着とかです」
そう言って、イーリスが頬を赤らめる。
「そ、そうか……」
イーリスが下着をつけていない事を思い出し、顔が熱くなってくる。
「なんで二人とも顔が赤いの?」
俺達を見ていたコハクが不思議そうな顔で聞いてくる。
「み、店の中が暑いせいかもなー」
「そうなんだ」
コハクが素直なおかげで、誤魔化せたようだ。
「それじゃあ俺は適当に町の中を見てくるよ、二時間後くらいにまたここに戻ってくるから」
「わかりました」
「パパ、また後でねー」
イーリス達と別れた俺は、店を出て町の中を歩くことにした。




