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第1話「姫との出会い」(挿し絵あり)

 魔王が倒されて100年。

 世界は魔物が未だに存在するが、それなりに平和を取り戻していた。




 アルクラン暦1101年 4月。


 俺、『イブキ・ユーフレット』が村を出てから、一ヶ月が過ぎた。


「この道、さっき通ったっけ?」


 当たりを見回すと、同じような木がたくさん生えている。


「いったいどこにドラゴンがいるんだよ……」


 俺は、ドラゴンが住むという『心竜の森』の森の中を彷徨っていた。

 そもそも、なんでこんな所にいるかというと……。


『俺は、竜騎士になるんだ!!』


 そう言って、村を飛び出したのが一ヶ月前だ。

 竜騎士というのは、俺の住む『アルキメス王国』にいるドラゴンに乗って戦う騎士の事だ。

 ドラゴンと契約した者だけが、試験を受ける事ができ、合格すると王国から竜騎士の資格をもらえるのだ。


 竜騎士は、100年前の魔王との戦争で活躍したらしいのだが、その戦いでドラゴンがたくさん死んでしまい、100年経った今でもドラゴンの数は減少したままらしい。

 そのせいで、今はドラゴンと契約できる人間も少なくなってしまった。


 聞いた話によると、王国の騎士学院で優秀な成績を出した者は、国から竜騎士になるためのドラゴンを手配してもらえるらしいのだが、俺みたいな田舎の人間が騎士学院なんて入れる訳もないので、自分でドラゴンを探して契約する事にしたのだ。


 しかし、そんな簡単に契約できるドラゴンが見つかるはずもなく……。

 気づいたら一ヶ月が過ぎていた。


「本当に、この森にドラゴンなんているのかな?」


 俺が今いる『心竜の森』は、100年前に『レジェンド級』のドラゴンが棲息していたと言われる場所だ。

 ちなみにドラゴンには階級があって……。


 一番上が『レジェンド級』次が『ギガント級』『オメガ級』『タンク級』『ミニマム級』と五つの階級があり、『飛行型』と『地上型』の二種類が存在する。

 レジェンド級のドラゴンは、100年前までは存在したらしいが、魔王軍との戦争で死んでしまったらしい。


「『レジェンド級』がいないなら、やっぱり『ギガント級』と契約したいよな」


 まあドラゴン自体がいないので、契約のしようもないのだが……。

 そんな事を考えていると、前方の草むらから獣の鳴き声が聞こえてくる。


「グルルル……」


 俺は背中に背負っていた、槍を構える。

 すると草むらから、勢いよく凶暴そうな狼が出てきた。


「キラーウルフか」


 この森に棲息しているモンスターだ。

 普通の狼とは違い、見るからに凶暴そうで、歯茎をむきだしにして大きな牙が生えている。


「ガウゥ!!」


 キラーウルフは、唸りながら俺に向かって突撃してくる。


「よっと!!」


 俺はその攻撃を軽々避けて、横っ腹に槍を突き刺す。


「ギャウン!?」


 痛そうな鳴き声を上げながら、キラーウルフはその場に倒れた。


「どんなもんだ」


 これでも村では、子供の頃から狩りをしていたのだ。

 この程度のモンスターに負けたりしない。


「毛皮を剥いでる時間もないし、牙だけでも取っておくかな」


 せっかく倒したので、価値のある大きな牙を抜き取って、鞄に入れておく。


「さてと先を急ぐか……」


 そう思った時だった、背後の草むらからたくさんの気配を感じる。


「「「グルルル……グルルル……グルルル……」」」


 俺が後ろを振り返ると、十匹のキラーウルフが姿を現した。


「こいつらいつの間に……ってか、さすがに一人で十匹は無理だ!!」


 全速力で、その場から走って逃げ出す。

 するとキラーウルフ達も、俺を追いかけてくる。


「ちくしょう、逃がすつもりはないってか!?」


 その時、足元にあった木の根につまづいて転んでしまう。


「うわぁぁ!!」


 受身を取ってすぐに立ち上がるが、後ろから来たキラーウルフ達に追いつかれてしまう。


「「「ガウガウ!!ガウガウ!!ガウガウ!!」」」

「これは絶対絶命ってやつか……いいぜ、やってやろうじゃねえか!!」


 俺は槍を構えて、覚悟を決める。


「俺はこんな所で死ねない……俺は竜騎士になるんだ!!」

「「「ガウゥ!!」」」


 飛び掛ってきた、二匹のキラーウルフを同時に槍でなぎ払い、次に突進してきたキラーウルフを蹴り飛ばす。

 続けて三匹のキラーウルフが同時に襲い掛かってくる。

 急いで回避しようとするが……。


「くっ、間に合わない!!」


 キラーウルフの牙が俺の体に届きそうになった、その瞬間……。


「危ない!!」


 突然、背後から現れた女性の槍によって、キラーウルフ達は吹き飛ばされる。


「ここは私にまかせて、下がっていてください」


 そう言うと、女性は綺麗な金色の長い髪をなびかせながら、襲い掛かってくるキラーウルフ達の攻撃を槍を使って華麗に避け、次々と吹き飛ばしていく。


「す、すごい……」


 その動きに思わず、俺は関心してしまう。


「……って、俺も戦わないと!!」


 女性の横に並び、俺も槍を構える。


「無理しないでいいんですよ?」


 近くで顔を見ると、金色の綺麗な髪がよく似合う、白い軽鎧を着けたどこか気品のある美人だった。


挿絵(By みてみん)


 こんな状況でなければ思わず、見惚れてしまっていたかもしれない。


「女性を一人で戦わせるなんて、かっこ悪いことできないんでね」

「あら、かわいい顔して男らしいんですね……わかりました、一緒に戦いましょう」


 俺達は、互いに背を向け合い、襲ってくるキラーウルフ達を向かい討つ。


「姫様、ここでしたか~」


 気の抜けた声と同時に、炎の球が飛んできて近くにいたキラーウルフが焼き殺される。

 声のした方を振り向くと、杖を持った老人が立っていた。


「まったく、一人で突っ込まないでくださいよ」


 その後ろから、鎧を着て斧を持った中年男性が現れる。


「テンパス、ガルドン!!」


 背後の女性がそう叫ぶ。

 どうやら二人の名前のようだ。


「まずは、そいつらをさっさと倒してしまいましょうや!!」


 ガルドンと呼ばれた中年男性は、キラーウルフ達に近づくと大きな斧を振り回す。


「おりゃぁ!!」


 するとキラーウルフ達は吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。


「「キャウン、キャウン」」


 それを見ていた残りのキラーウルフ達は、草むらへと逃げていってしまった。


「どんなもんだい、俺様の敵じゃねえな!!」

「調子に乗るでない」


 テンパスと呼ばれた老人は、ガルドンの頭を杖で叩く。


「二人とも、助かりました」


 槍を持った綺麗な女性は二人に近づいていく。


「いや、姫様なら一人でもなんとかなりましたよ」

「そんなことはないです、二人の援護が無ければ無傷ではすまなかったかもしれません」

「ふぉふぉふぉ、姫様は謙虚じゃのう……」


 二人は、女性の事を姫様と呼んでいる、もしかしてこの人は……。


「そう言えば自己紹介がまだでしたね……私はイーリス・アルキメス、アルキメス王国の第二王女です」

「王女って……ええっ!?お姫様!!」


 なんでこんな所に、お姫様なんかがいるんだ?


「姫様が突然走り出した時は、どうしたのかと思いましたが……まさかこんな所に子供がいるとは」


 ガルドンのその言葉にイラッとくる。


「俺は、子供じゃねえよおっさん!!もう竜騎士の試験だって受けれる年齢なんだ!!」


 ちなみに竜騎士の試験は15歳から受けることができる。


「誰がおっさんだ!!俺はまだ36だ!!」

「十分、おっさんじゃろ……」


 テンパスのツッコミが入る。


「まあまあ……二人とも落ち着いてください」


 そんな俺達の間に、姫様が割り込んでくる。


「あなたのお名前を、教えてもらってもいいですか?」

「俺は、イブキ・ユーフレット……さっきは助けてくれてありがとな、姫様」

「いえいえ、どういたしまして」

「そっちのじーさんとおっさんも、ありがとな」


 助けてもらったから、ちゃんと礼は言っておかないとな。


「ふん、一応礼くらいは言えるみたいだな……俺は、ガルドンだ」

「口は悪いようじゃが、まあいいじゃろう……わしはテンパスじゃ」


 そう言って、二人は名前を名乗る。


「姫様と一緒にいるって事は、二人は王国の騎士なのか?」

「おう、騎士様だぜ」


 ガルドンが偉そうに答える。


「もしかして、竜騎士?」

「残念じゃが、わしらは普通の騎士じゃ」

「そっか……」


 竜騎士だったら、いろいろと聞いてみたい話があったんだが……。


「それで、イブキはどうしてこんな所にいたんです?」

「竜騎士になる試験を受けるために、契約するドラゴンを探してたんだ」


 そう答えると、姫様はとても言いづらそうな顔で……。


「えっと……この森は、王家の人間以外は立ち入り禁止なんです」

「えっ、そんな話聞いてないぞ!?」


 そんな事、村では誰も言ってなかった。


「その顔を見ると、本当に知らなかったようじゃな」

「見るからに、田舎臭いガキだから知らなかったんだろ」


 確かに俺の育った村は田舎だけど……。


「まあ決まったのは今から30年前ですし、場所によっては伝わっていない可能性はありますね」

「なんで立ち入り禁止になったんだ?」


 30年前に何かあったんだろうか?


「この『心竜の森』では30年前に、ドラゴン狩りが行われていたのです……魔王戦争で少なくなったドラゴンを捕まえて、高く売っていたそうです」

「そんなことがあったなんて……」


 全然知らなかった。


「そのせいで、この森のドラゴンはほとんどいなくなってしまったんじゃ……まあ姫様や坊主が、生まれる前の話じゃがな」


 だからこの森は、いくら探しても全然ドラゴンがいなかったのか……。


「それじゃあ、姫様達はなんでこんな森にいるんだ?」


 もし姫様達もドラゴンを探しに来たのなら、ドラゴンがいないこの森には来ないはずだ。


「それは、私達も契約するドラゴンを探しに来たからです」

「えっ?でもこの森にドラゴンはいないんじゃ……」


 ドラゴン狩りで、激減したってテンパスがさっき言ってたはずだ。


「すべてのドラゴンがいなくなった訳ではありません、僅かですが生き残ったドラゴンも存在しています」


 それなら探せば、契約できるドラゴンがいるかもしれない。


「それにこの森にいた『レジェンド級』のドラゴンがいなくなって100年……もし卵を残していたなら、その子供がいてもおかしくないでしょう」

「姫様、そんな大事な事をこんなガキに話さなくても……」


 もしかしたら、レジェンド級のドラゴンの子供がいるかもしれないって事か……。


「だったら俺も連れて行ってくれ!!」

「はぁ?ダメに決まってんだろ、ガキは大人しく帰って家で勉強でもしてろ!!」

「いえ、連れていきましょう」


 その発言に驚いたガルドンが、姫様の方を振り向く。


「姫様!?」

「このまま一人で帰すのは危険です、ここから引き返すとなると森を出るのに1日はかかるでしょうし、一緒に行動した方が安全です」

「まあ姫様の言うとおりじゃな、一緒に戻るにしても、時間の無駄が多すぎる」

「テンパスの爺さんまで……ったくわかったよ」


 どうやら一緒に連れて行ってもらえることになったようだ。


「ありがとう、姫様」

「ただし『レジェンド級』のドラゴンがいた場合、私が先に契約させていただきます」


 姫様も『レジェンド級』のドラゴンとの契約を狙っているようだ。


「ってことは、姫様も竜騎士を目指してるのか?」

「はい、母のような竜騎士になるのが私の夢なんです」


 その目には、俺にも負けないくらいの強い意志が感じられた。


「へぇ、姫様の母親って竜騎士なのか」

「ええ、とても強くて優しくて、素敵な方でした……」


 そう言った姫様は、なんだか少し悲しそうな顔をしていた。


「姫様?」


 すると、テンパスが話しかけてくる。


「姫様、そろそろ参りましょう」

「そうですね、そろそろ行きましょうか」


 それから姫様達と一緒に、森の中をしばらく歩き続ける。

 姫様達は、いったいこの森のどこに向かっているのだろうか?


「どうやら着いたようです」


 周りが大きな木に囲まれていてわかりにくいが、そこには大きな穴が空いており、洞窟の入り口になっていた。


「ここはいったい……」

「ここは、レジェンド級のドラゴン『心竜』がいたと言われる洞窟です」


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