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S’s~暁の鐘  作者: 祖父江直人
6.影喰い
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6.影喰い

第六話です。

『Lighting』

http://www.youtube.com/watch?v=l2bPl13h6y4

 影喰いを倒す剣が手に入ってから一ヶ月、二人は暁の街を地道に探索した。

 夜明けの塔を中心として、南の二色駅、東の『東洋フィルム』工場、西の国道まで歩くと、その先は街並みがぷっつりと途切れ、何もない暗闇が広がっていた。何が起こるのかは分からないため、足を踏み入れることは控えた。

 同様の理由で、北にある“森”にも入らなかった。薄暗闇の世界で、さらに光の閉ざされた場所に踏み込むのは後回ししようということになったのだ。

 こうしたフィールドワークで、地図を作製した。結果、この街は二色市二色町の範囲にしかない箱庭のような世界であることが分かった。

※※

 影喰いに関しても調べた。サイズは大きくて大型犬程度で、影喰い同士で意思の疎通が取れているようだった。

 外形は四種類のタイプに分かれており、俊敏で噛みつき攻撃を行う四足歩行の犬型、同じく素早いが猿のような準二足歩行で、前脚でひっかく攻撃も行う猿型、六本の節足がはえている昆虫型、それより足の本数が多く、最も小さなクモ型。

 数が多いのは犬型で、単独/群れ問わず町中に分布している。

 次点は昆虫型。こちらは単独でいることが多く、積極的にこちらを襲ってはこない。

 猿型は主に駅方面にいる。数および素早さは犬型ほどではないが、高い跳躍力と凶暴さで、さらに群れを成していることが多いため、厄介だった。

 クモ型は、どうやら北の森を縄張りにしているらしく、そこ周辺以外で見ることはない。小さいが、それだけにすばしっこく捉えにくい、数を相手にすると最も厄介な敵になりそうだった。

「まぁ、空を飛ぶ奴がいないだけ良かった」

 敵の分類を終えた後、そう晃陽が漏らした。

※※

 時間が止まっていて疲労しないことをいいことに、探索に使う時間が体感で十時間以上に及ぶことも多かった。そういときは、神社の社殿内を休憩所とした。さらに、社殿には影喰いが入ってこられないことを知り、暁の街の滞在時間はより増えていった。

「これからは信心深くなるかもしれないな」と言って黎が笑う。

「ひょっとして、この明の半身に不思議な力があるのかもしれない」晃陽が、また怪しげな妄想を膨らませようとしているのを制して、黎が「そろそろ行くか」と言った。

「そうだな。リベンジだ」

※※

―――工場。

「本当に、ここから声がしたのか」

 影喰いの声が聞こえたり聞こえなかったりする時があることが、ずっと分からなかったが、あれは影喰いの声ではないのではないか、と考えた時に思いついたのだ。

「あれは影喰いの唸り声なんかじゃない、明の半身が助けを呼ぶ声だったんだ」

 思い出すと、剣を手に入れた時もそうだ。声がした影喰いを倒したら、そこに“体”があった。

「ただの妄想じゃない分、信用できるな」

 何か言いたそうな晃陽を無視して、すたすたと進んでいく黎。道中、何体かの影喰いと出くわすが、難なく倒していく。

「だいぶ慣れてきたな」

「もう三体くらいなら、一度に相手にできる」

 学校の放課後に自主トレーニングをやったり、剣道部で竹刀を振ったりしていた。ただし、剣道と剣術は違うものらしく、得物を振ることを覚えた以外は完全な自己流で戦っている。

「来たぞ、犬型が三体」

 影喰いと戦うときの鉄則は、後ろを取られないことだ。常に二人のうちどちらかが後方に気を配り、必ず影喰いを正面で迎えるようにしていた。

 黎の声に晃陽が出る。黎は後ろに下がりボウガンを構えた。

「来い、デイブレイカー」

 そして、いざ戦闘になると、晃陽が剣で影喰いを倒すのを、黎がボウガンで援護する。もう無闇に突っ込んでいくことはしない。周りに仲間がいないか気を配りながら、じっくりと間合いを詰めていく。

 晃陽が右手一本で剣を構える。“デイブレイカー”と名付け、使っているそれは軽く、晃陽程度の筋力でも片手で扱えた。

「動きがよくなったな、晃陽」

「そうか!」

「ああ、体の硬さがとれて、かなり落ち着いた戦い方ができるようになってるぞ」

 黎の感心した声に、晃陽は気を良くし、影喰いに向かっていく。

「≪デイブレイカー・ランダマイズフォーム≫邪悪な影よ、我が剣技の前に倒れよ」

「これさえ無けりゃ、もっと手放しで褒められるんだけどな」

 戦い方に幅ができていくのと比例して、妙な“技名”も増えていた。

「うるさいな、やるぞ、黎。撃て!」

 こちらに飛び掛かってくる気配を察した晃陽からの指示で、黎が矢を放つ。影喰いが怯むと同時に、晃陽が地面を蹴り、横一列に並んだ三体の、右端の影喰いを切り伏せる。間髪入れず、隣の敵も。

「左だ!」

 黎の声に、素早く何も持っていない左手を振る。飛び掛かってきた影喰いが切断され、消滅した。晃陽の左手には、最初右手にあったはずの剣が握られていた。

「闇へと還れ、漆黒の―――」

「やめろ、中二の中二野郎」

 黎が中二の中二野郎を小突く。

「なぁ黎、やっぱり決め台詞は二人で言わないか?」

「次は“誤射”するぞ。それにしても―――」

 晃陽曰く≪ランダマイズフォーム≫。剣が右手にも左手にも呼び出せることを利用した戦法。どちらの方向から攻撃されるのか分からないのだから、敵の知能が高いほど惑わされる。

「その頭の柔らかさが、なんで残念な方向に行ってしまうんだろうな」

「何か言ったか、黎」

「いや、わざわざ呼びかけなくても出せるんだったら、あの掛け声もやめにできないのか、と思ってな」

「やめない」

「ですか」

『―――!』

「―――聞こえた。この工場の中だ」

 晃陽と黎が向かったのは『T-4』と書かれた工場の中だった。扉を開け、中に入る。この世界は、不思議なことに屋内が外同様の明るさがある。

「これも誰かの策略なのかな」晃陽が訊く。

「どうだろうな」

 高さ十メートルはある機械のある場所に出た。これでフィルムを作っているようだが、晃陽らではよく分からない。

「さて、どこにいるんだ?“体持ち”の影喰いは」

 黎と背中合わせになり、影喰いを探す晃陽に、黎が「いた」と、答える。

「そうか、もう見つか……」

 振り返った晃陽は、しばらく言葉を失った。

 目算で体高五メートル、体長八メートルの犬型が、こちらを見下ろしていたのだ。

 声もなく二人そろって逃げ出す。しかし影喰いは、素早く二人を飛び越え、退路を断った。

 仕方なく、さらに奥へと逃走を図り、『ボイラー』と書かれた部屋の中に飛び込む。

「行き止まりか。参ったな」

 黎が頭を掻く。影喰いはドアを難なく破壊し、狭い入口に体を差し入れようとする。

「くそっ」焦る黎を尻目に、晃陽は深く深呼吸をして、この局面を打開する方法を考えた。

 手元にあるのは、手に、いつでも呼び出せる剣。なら―――

「黎、下がれ、奴を倒す」

 晃陽は剣を逆手に構えた。そして大きく振りかぶる。

「≪デイブレイカー・ジャベリンフォーム≫喰らえ!」

 槍投げのように、剣を投擲する。小回りの利かない部屋に入ろうとする影喰いの頭部に突き刺さった。

「まだだ!来い、デイブレイカー!」

 かざした右手に剣を戻し、再び投げる。二撃目が喉元に、三撃目も首に決まり、たまらず大型影喰いが横倒しになった。

「うおりゃあ!!」

 そして、すかさず頭部を切断し、とどめを刺した。

 大型の影喰いは、その後ろ脚に“体”を持っていた。それも切り取ると、消滅した。

「まさか、剣を投げつけるとはな」

 黎が恐れ入ったという様子で声をかける。あれほど切羽詰った状況で、よくぞ思いつくものだ。

「ところで晃陽、影喰いを倒した時のセリフは言わなくていいのか」

 茶化すように言う。

「あ、そうだった。……深淵にひそむ邪悪なる影よ、夜明けの光に滅せよ―――」

「さっきと違うぞ!せめて統一しろよ!」

 決め台詞は、日ごとに変わっていった。

※※

 ―――二色駅前。

 晃陽が、襲ってきた猿型を剣で斬り伏せる。ややあって影喰いは消滅した。

 このように、倒した影喰いはどこかに消え、またどこからともなく現れるのだが、そのメカニズムは今もって不明だった。

「深淵に潜む―――」

「とっとと行くぞ」

 晃陽の後口上を無視し、駅構内へと入っていく黎。好戦的な猿型は、すぐに集まってくる。早く片付ける必要があった。

 駅ナカのショッピングモールを進んでいく。入り組んでおり、不意打ちに気を付けながら進んでいく。

『―――!』

「いたぞ、黎。デカい猿型だ」

 物陰に隠れ、その姿を確認した晃陽が言う。工場にいた個体より一回り小さいものの、それでも巨体である。それを支える二本の脚の右側に、人の足と思われるものが見えた。

「またデカい奴か」

 “体”を持っているから大きいのか、元々大きな個体が“体”を持っているのかは不明だが、恐らく前者だろう、と、晃陽は推察していた。

「中ボス戦だ。面白くなってきた!」

 黎はこの状況を楽しむ友人に苦笑しながら、自らも高揚した声で作戦を伝える。

「単独でいるうちに片を付けるぞ。俺が奴の注意を引き付けるから、待ち伏せて倒せ」

「おい、黎、また……」

「自主トレを積んでるのはお前だけじゃないんだぜ晃陽」

 ボウガンの扱いにも慣れてきていた。ダメージは与えられないが、怯ませた隙に逃げることはできる。

「仲間を呼んだら逃げる。その時は、神社で落ち合うってことにしよう」

「―――分かった」

 晃陽の返事と同時に飛び出して行く黎。

『―――!』

「よし、反応した。頼むぞ、晃陽!」

 声がこちらに近づいてくる。晃陽は剣を中段で構え、通路の角で集中する。―――来た。

 影喰いが現れる。巨躯にたじろぎそうになるが、臆病を抑えつけて踏みとどまる。黎の作ってくれたチャンスを無駄にはしない。

 腕を下げ、剣を横に倒す。襲い掛かってくる爪をかわし、すれ違いざまに、薙ぎ払う。

 確かな手応えがあり、振り向くと、影喰いが胴のあたりから真っ二つにされていた。

「やったな、晃陽」

 黎が晃陽を労う。

「ああ。さぁ、“体”を取り戻すぞ」

 下半身の方に近づいていく。―――しかし、

「晃陽!まだ生きてる!」

 黎の叫びを聞いた時には、もう遅かった。影喰いの上半身が前脚で起き上がり、晃陽の右手に噛みつき、そのまま前脚で這うようにして連れ去っていった。

「くそ、来い!デイブレイカー!」

 改札を超え、階段を昇ってホームに差し掛かるところで剣を左手に呼び出し、影喰いの頭に突き立てる。

 右腕が解放され、線路の上に投げ出される。起き上がり、見ると、右腕の肘から先が透けていた。

(黎の時のように、時間が経てば治るんだろうが―――)

 利き手が使えないのは辛い。逃げ出したいところだが、二番線の線路上に上半身だけとなった影喰いが降りてきたところで、腹を決めた。

「やるしかないようだな」

 左手一本というハンデはあるが、向こうも上半身だけで、体つきも半分になっている。落ち着いて戦えば―――

 見ると、大型のもの以外の猿型もいた。大型に集まってくる。

「おいおい」

 影喰いが、影喰いを取り込み、さらに大きくなっていくのを見て、声が漏れる。

「面白く、なってきた……」

 気が萎えそうになるのを必死に抑え、言う。

「いいだろう、闇へと還れ、邪悪な影よ。我が―――」

 しかし、影喰いは言い終える前に襲ってきた。

「貴様ぁ!人が名乗りを上げる時は自重しろ!」

 怒りながら攻撃をかわす。黎という邪魔者が居ないので、今回は最後まで言えると思っていたらしい。図太い男である。

「許さん!絶対にここで倒してくれる」

※※

 意外な場面で萎みかけた戦意を取り戻した晃陽が張り切っていたころ、黎は隠れていた。

 二色駅の大改装を推し進めた中心人物は、義理の父親だった。あの頃はまだ、親子の関係は良好だった。

否、自分が父親に逆らわなかっただけだ。彼は養子と自社で雇っている社員を同列に扱う人間だった。

 とはいえ、今はそんな人間の息子であったことがプラスに働いているわけだから、人生何が起こるか分からない。孤児の里親が社長になったり、その親に愛想をつかされたり、色々だ。

 連れ去られた晃陽を、黎はすぐさま追いかけようとしたが、数秒も経たないうちに影喰いが集まってきた。上手くやり過ごし、駅ナカの死角に隠れることができたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。晃陽を助けに行かなければ。

 小学生の頃、父に何度も連れられてきたおかげで、ここの地形は熟知している。

「さぁ、かかってこい影ども」

 黎は、ボウガンに新しい矢を装填し、呟いた。

※※

 しばらく増援は望めないことを知る由もない晃陽は、苦戦していた。

 ほかの個体を取り込み、体長が四メートルに達した影喰いは、上半身で這い回ることしかできないものの、意外と素早く、牙や爪で執拗に攻撃を加える。

 片や晃陽は右手が使えないため、いつものような変則的な戦い方を封じられ防戦一方だった。

「とっとと戻れ、このクソ右腕!」

 自らの体に八つ当たりしたところで、影喰いの腕が剣を掴んだ。一瞬、動きを封じられ、牙が襲ってくる。

「くっ!」

 無我夢中で何とか防御し、剣から手を放して距離を取る。高架線路の上を走り、十分に離れたところで剣を呼び戻し、振り返る。

 影喰いが迫っていた。退路は無い。どうする。

(考えろ。考えろ)

 工場でやったように、剣を投げつけるか。いや、利き腕ではない左では命中する確率が低いし、あれは元々狭い場所限定の戦法だ。せめて右手が使えれば―――右?

 先程の攻防で、妙なことがあった。影喰いが自分の剣を掴み、牙で攻撃を仕掛ける。それを何とか防いで―――

 ()()()()()()?どうやって―――

 まさか―――だが、このままではどちらにしろ、埒が明かない。

「試してみるか」

 晃陽は意を決し、左手から剣を落とした。無抵抗を決め込んだような晃陽に向かって、影喰いが目前まで迫る。口の辺りが開かれ、牙を剥く。

 瞬間、左で右腕を持ち、突き出す。半透明の右腕が、影喰いの牙にガッチリと咥えこまれる。痛みは、無い。

「ようやく捕まえた。深淵に潜む、邪悪なる影よ―――」

 決め台詞は、しかし、またも途中で遮られた。影喰いの爪がのびてきたからだ。さっさと首を斬り落とす。影喰いが消滅する。

 よし、今度こそ完全に倒したな。では気を取り直して「夜明けの光に滅し―――」

「おーい、晃陽!大丈夫か!!」

「だぁー!もう!」

 友人が無事だったにも関わらず怒る晃陽。右手も、元に戻っていた。

※※

「もっと短い言葉にすればいいだろ」

 帰路につく途中、黎が言った。

「これでも、かなり削ったんだ」

「……そうですか」

※※

―――国道。

 二色町は二色市の中心にある街だ。地方都市としてはまずまずの規模を持つが、十年前の合併で、さらに大きくなった。

 以前は隣町を隔てるような形で通っていた南北にのびる国道に、黎と晃陽は立っていた。

「なんだ、あれは」

 片道四車線、中央分離帯を挟んで八車線の道の南方面から入った晃陽は、思わず取り落としそうになった剣を握り直しながら言った。

「あれも影喰いなんだろうな。アメーバ、いや、スライムか」

 国道の北端、最初は山だと思っていたが、あんなところに山があるはずはないことを思い出し、行ってみたら、これを見つけたのだ。

「デカすぎるだろう。どうやって倒せっていうんだ」

 小高い丘くらいはありそうな影喰いの塊を見ながら、晃陽が泣き言を言うものの、黎は落ち着いていた。

「倒す必要はない。俺たちの目的は“体”を取り戻すことだ。まずはあのデカブツが“体”を持っているか確認する。行くぞ」

 そう言うと、車道を走り出す。晃陽も続く。

「晃陽、デカブツの子分みたいなのが道々にいる。頼んだぜ」

 小さな黒い塊がいた。動きは遅く、こちらを襲ってくる気配すらない。

「目の前にいる連中以外は相手にするな。突っ切るぞ!」

 晃陽を先頭に走る。攻撃手段を持っているのかは不明だが、足元に転がってきた個体だけを切って捨てていく。

 そうしているうちに、国道の―――暁の街内での―――最奥にたどり着いた。今まで見たことも無い形のそれは、ブヨブヨとした巨大アメーバのように鎮座しており、道にいた“子分”を吐き出していた。

「近くで見ると、ますますデカいな」

 “夜明けの塔”ほどではないが、見上げると首が痛くなるほどの巨大さだ。

 しかし、全く動かない。思い出したように小型の影喰いを吐き出すものの、晃陽がその都度素早く始末する。

「ふん、ウドの大木だな。黎、確かにこいつから声がするぞ。何か見つかったか?」

 真っ黒な塊の中に人の腕があれば、目立つはずだった。

「……見つかった」

 しかし、言った黎の顔は曇っている。

「どうしたんだ、黎」

 黎が目の前の巨大な黒い物体を指さしながら言う。 

「このデカブツの中に漂っているんだ。どうやって取り出す?」

 晃陽は、黎の言いたいことを察した。試しに剣でアメーバ型影喰いを斬りつけてみるが、びくともしない。

 さらに、投げつけてみる。

「喰らえ、≪デイブレイクス・シュート≫!」

「やめろ!技名つけんな!!」

 剣先が届くと、影喰いがわずかに揺れた―――だけだった。

「来い、デイブレイカー」

 力のない声で、晃陽が呼び戻す。

「どうしよう」と、黎を見る。

「それは、出てくるのを待つしかないだろ」

「……うむ」

 黎の、観念したような声に、晃陽も頷くほかなかった。

※※

―――(体感で)一時間後。

「黎、知ってるか。ゲームには、やたらと体力ばかり多くて、倒すことが作業のようになってしまう敵が出てくることがあるんだ」

 かつてHP1000万という隠しボスがいたゲームを思い出しながら、晃陽が言った。

「それは随分なクソゲーだな。あ、また出てきたぞ」

「よし」

 晃陽が面倒くさそうに剣を振るう。

 それからさらに二十時間あまり、二人は影喰い(小)をプチプチと潰し続けた。そして、いよいよ本命の“体持ち”が出てきたら、訳も分からず小一時間泣いた。

「―――ゴホン。まさか、こんな強敵がいるとは思わなかったな」

 取り乱したことを恥じるように、晃陽が言う。

「そうだな」

 しかし、一つまた新たな推測が立てられた。全ての影喰いの大元がこの超巨大アメーバなのではないか、ということだ。

 つまり、この影喰いを消滅させることができれば、新たな影喰いを生み出させない、ということもできる。

「で、やるのか」

 黎が答えは分かっているという風に訊く。

「やるわけないだろう。めんどくさい。あと、疲れたから俺は今日学校を休む。皆勤賞など知ったことか」

 そうして元の世界に戻った晃陽は学校を休み、昏々と眠ったが、見る夢が雑魚スライムを倒すゲームを延々とやり続けるというものだったので、かなりうなされた。

※※


≪着々と真実に近づいていく少年。選択の時は、近づいている―――≫

別にFFⅹをディスっているわけではありません。

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