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気ままに。

僕と族長兄妹

作者: 咲坂 美織

 気がついたら1人だった。

 小さい子供にとって守ってくれる親がいないというのは死活問題である。

 今となっては自分でも不思議なのだが、僕は2歳のころから既に自我があった。冷静に自分が置かれている環境を見つめ、冷静に判断した。

 ああ、僕は独りなんだ。

 別に寂しいとも悲しいとも思わなかった。ただ、それを客観的事実として受け入れた。

 ただひたすらぼーっと目の前の森を眺めていると、突然上から少女が降ってきた。突然のことに目をぱちくりとする。

「あなたどうしてこんなところにいるの? 兄様ー! 大変!! 男の子が1人でいるー!!」

 突然現れ、突然騒ぎ出した自分より少し年上の少女を冷めた目で見つめる。我ながらかわいくない。

「カラン、一体どうしたの? ……君、親は? 1人?」

 うるさい少女の次に現れたのは少女の兄と思われる落ち着いた少年。無言で首を縦に振る。

「兄様、この子1人みたい。連れて帰ってもいいでしょ?」

「んー、確かにここに1人で残すよりは集落に一緒に連れていく方がいいとは思うけど」

「やったぁ!!」

 少年の言葉に飛び跳ねて喜ぶ少女。意味が分からない。

「さあ、早く帰りましょ。今日から私がお姉ちゃんなんだから!」

 少女に手を引かれて立ち上がり、歩き出す。うるさいと思いながらも何故かその手を振り払うことは出来なかった。

 そう、僕は彼女の手を振り払うことなんて最初から出来なかったんだ。






「ミカゲー? どこー?」

 それを言ったらかくれんぼの意味が無いじゃないか。内心ため息をつきながら木のうろに潜り込んで身を縮める。

 僕が少女、カランに拾われてから1年が経った。相変わらずカランはうるさい。その反面、彼女の兄、リュウセイはとても大人だった。僕の憧れだ。

「あ、ミカゲ見っけ!!」

 そう言いながら僕が潜むうろを覗き込むカランの顔には満面の笑みが浮かんでいた。こんな顔をさせるなら悪くもないかと、ちょっとだけ自分の顔も弛んだ。

「カラン! ミカゲ! そろそろ帰るぞ」

「はーい!」

 リュウセイの言葉に元気よく返事をするカランは、そのまま走り出した。僕も慌ててうろから這い出す。カランを追いかけようと数歩進んだところでカランは急に立ち止まり、引き返してきた。

「ミカゲ、一緒に帰ろ」

 そう言って手を差し出す仕草が初めて会った時と重なって、ほんの少しだけ顔がゆるんだ。

 リュウセイに追いついたところでカランとは反対の手を握ってもらって僕はご満悦だった。なんだかんだ言いながら、僕はこの兄妹のことを大好きになっていた。

「ミカゲ、いっぱい遊んだか?」

 リュウセイの問いに僕はこくりと頷く。ただ、僕の顔には表情というものがなかなか浮かばないらしいので心もち大きく首を振るようにする。これだけでこの兄妹は僕の気持ちをほぼ正確に悟ってくれる。2人は僕を見てにっこり笑ってくれた。

 3人で並んで日が沈みかけた森の中を歩く。木々の葉っぱが赤い光の中に黒く浮かび上がってとてもきれいだ。黒は僕たちの色。とても安心する色だった。

「ねえ、ミカゲ。笑う練習をしましょうよ」

 突然カランが訳の分からないことを言い出した。見上げると、リュウセイも不思議そうな顔をして妹を見ていた。

「ミカゲったら私たちと住むようになってからほとんど喋らないのよ? 表情だってほとんど動かないのに。ここはお姉ちゃんとして1つ指導してあげないと!」

 は? お姉ちゃん? 3つしか違わないのに指導? それ以前より僕より精神年齢年下のくせに僕に対して指導するというのか? そもそも指導という言葉の意味を分かってるのか?

「ふ、ふふ。あはははは!!」

「え、ミカゲ? ミカゲが笑ったのか?」

「ちょっと、なんでそこでいきなり笑いだすのよ。しかも笑うの初めてじゃない! なんで初笑いをそこで出すのよ!!」

「ミカゲは大物になるかもなぁ」

「兄様までなんでそこで感心するの!!」

 盛大に拗ねだしたカランを見てまた笑いがこみあげてくる。初めてと言ってもいい笑いの衝動を抑える方法を僕が知っているわけもなく、さらに大きな笑い声をあげる。それを見たカランがさらに拗ねて僕がさらに笑うという悪循環に陥った。

「ほら、ミカゲ。そろそろ落ち着け。呼吸がちゃんと出来てない。カランもお姉ちゃんならもう少し落ち着け」

 気がつくとリュウセイがその場にしゃがみこんで僕とカランの頭を優しく撫でていた。その優しい手に僕たちはだんだん落ち着いていった。さすがリュウセイである。

「落ち着いたか? だいぶ遅くなっちゃったし、急いで帰るぞ」

「はい、リュウセイさん。カラン、行きましょう」

「ちょっ、ミカゲ! なんで兄様にはさんづけで私は呼び捨てなのよ!!」

「貴女はそんけー出来ないからです」

 僕がさらりと返すとカランは顔を真っ赤にして怒った。こんな顔も可愛いと思った。

「ミカゲは実は毒舌だったのか」

 リュウセイさんが苦笑しながら僕たちを見ている。

「ほら、行きますよ」

 まだむくれているカランに手を差し出す。カランはむくれながらも僕の手を取ってくれた。


 まだ幼い僕だけど、貴女の手を取ることは出来るから。貴女の手を振り払うことは出来ないから。

 だからずっと僕には手を差し伸べ続けてほしい。僕の味方であり続けてほしい。

 だって貴女は僕の……


「大切な、尊敬するお姉さまですから」

 




今回はミカゲと師匠たち兄妹の出会いをミカゲ視点からでした。いかがでしたでしょうか。

これで残る番外編はリュウセイ編のみです。頑張ります。

願わくばこの物語が貴方の心に何か残せるものでありますように。

読んでいただき、ありがとうございました!


美織

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