The third day【D】
ウェクセルは鎌の切っ先に魔法を集中させて、風をまとわせると攻撃してきた。
「真空双破斬ッ!!」
鎌を振ると、風が物凄い勢いで飛んでくる。
レイスは何とかそれを避けたが、後ろにあった木に風が当たったのを見て驚く。
木に風がぶつかると、その木は当たった所から切断されてしまった。
おいおいマジかよ;
「ほらほら、よそ見していると危ないですよッ!!!」
ウェクセルの方へ顔を向きなおすと、こちらへ向かって刃のような切れ味の風達が完全に姿を見えるようになって飛んできている。
レイスも負けじと魔法で攻撃もする。
奴が風を熾して飛ばしてくるならこちらも熾して飛ばすだけだ!
先ほどより炎を大きくして、ウェクセルの風にぶつける。
すると、強い風がはじけた。
吹き飛ばされるような強い風が。
「くッ…;」
「腰が引けてますよッ!!」
ウェクセルが鎌を片手に大きく後ろまで振りながら迫ってきた。
「させるかッ!!」
二人が鎌と剣をクロスさせるその瞬間、声が飛んできた。
「やめませんか?そういうの。僕は、争いは一番嫌いなんだ。」
誰なのだろうか。
よく分からないが、二人は誰かの声で魔法が掛けられたように動きが止まった。
と、言うより、体が動かない。本当に魔法を掛けられているようだ。
一体誰だ?セシルじゃないことは確かなんだが…
上から影が降りてきた。
その影はウェクセルの鎌の切っ先に立っているようだ。
そちらへ視線を送ると…
柔らかめにツンツン立っている水色の髪の毛がそよ風に揺られている。
手には何やら携帯のようなものを持っている。
「すみません。魔法を掛けて動きを静止させました。」
一風変わった服。どこか子供っぽい服装である。
「アンタは誰?」
かろうじて動く口を開いてレイスは聞いた。
青年は微笑みながら
「シオンです。」
と、言い、ゆっくり舞い降りた。
「だめですよ、喧嘩はいけないと思います。しかも魔法で」
「なぁ、ちょっ…魔法解いてくれない…?」
「二人とも、もうしませんか?」
「「あぁ。誓うから早く。」」
「仕方ありませんね。」
二人から反省の色が見えたのだろう。シオンは魔法を解いてくれた。
「ふぅ…ところで、シオン…さん?だったっけ?アンタも魔法使いなの?」
「魔法使い…と、言うより亡霊ですがね。」
「亡霊?」
携帯を開いて、それをウェクセルに向けるとシオンは微笑みながら言った。
「さて、貴方から仕掛けたこの戦い。意味は?」
「…意味?」
「僕は知っていますよ、貴方が何故この戦いを仕掛けたのか。さぁ、この方にちゃんと言って謝ってください。」
シオンはウェクセルの肩を掴み、レイスの方へ体を向けさせる。
「意味…ね。俺はアンタとセシルの力がどれほどのものか知りたかっただけなんだ。」
「力なんか知ってどうするつもりなのさ?」
「…一人って…寂しいんだよ。」
ウェクセルは視線を地面に落として震えるような声で言ってきた。
「…ウェクセルは俺達と一緒に居たかったの?」
「………あんた等がこの街に魔法使いとして姿を現すまで、俺は一人で寂しかった……魔法使いはこの都に俺一人で仲間が一人も居ないから、生まれて初めて仲間を見て、うれしかった。そして、他の魔法使いがどんな力を使うのか知りたかったんだ…。」
「なるほど。だからこんなことをしたんですね…爆弾は爆発なんかしませんでした。あれはフェイクだったんですね。疲れました。足がガクガクです。」
声のほうへ顔を向けるといつの間にかセシルが居た。
壁に手をついて本当に足がガクガクしている。
「セシルッ!」
レイスは今にも倒れそうなセシルを支えに行く。
「ごめんなさい…」
「はぁ…もういいですよ。過ぎたことをいつまでも引きずっていては明日が見えません。で、えっと……ウェクセルさん…でしたっけ?よろしければ、私の店で一緒に働きませんか?まだ準備中ですが…。」
フニャッとした表情で笑うセシルにウェクセルは飛びついてきた。
「ゴメンナザイーッ!!!うわあああぁぁぁんッ!!」
「うわっ?!」
ゴッ(頭をぶつけた音)
もちろんセシルはきちんと立てる状態でもないので受け止められずに後ろに倒れた。
苦笑しながら二人を見ていたレイスは、シオンの方へ振り返った。
のだが、もうそこにはシオンは居なかった。
「…不思議な人だったな…また、会えるかな…」