The eleventh day【C】
誰かが傷を癒しても 誰かが傷をつけている
貴方には聞こえるだろうか 私の心の悲鳴が
聞こえなかったからこういう結果になったのだろうね
でももういいんだ うれしかった
貴方と出会えて
今度会うときは貴方は私に気づかないかもしれない
私も貴方に気づかないかもしれない
でも
忘れないでいて
その優しさを
――――――――――――
ガッシャーンッ!!
ガラスの割れる音がレイスの学園の付近で起きた。
学園は既に半壊していて、学園から出たところでも家が崩れたり、怪我人が出たりと
悲惨な状態であった。
「グあッ!!!!」
巨大なウーパールーパーのようなものは、今ではもう化け物と化していて、その巨大な体で
レイスにのしかかったり、吹き飛ばしたりした。
そのせいでレイスの体は非常に傷つき、出血が激しい。
立ち上がり、また化け物に立ち向かおうとするが、血が足りないせいでフラフラしている。
(ちっ・・・しまった。やられすぎたよ。血が足りない・・・目の前もあんまり見えてない。)
「ははっ・・・情けないな。」
レイスは朦朧とする意識の中、足の速くなる魔法を使った。
「こいよっ!!」
化け物を挑発して、レイスは走り出した。
向かう先は廃墟となった郊外。
そこまで行けばこれ以上被害は出ないと考えたからだ。
しかし、簡単にそこまではいけない。
走っていると、化け物が後ろから攻撃してくるのだ。
レイスは魔法で壁を作り、防御したり、攻撃したりするが、防げても攻撃はあまり効いていないようで、対処の方法はなかった。
『ウガァァァァアアアアアッ!!!!』
「!!!」
化け物が口から液を吐いてレイスに攻撃を仕掛けた。
レイスはそれをかわそうとしたが、完全に避けきれず、片足にかかってしまった。
「痛ッ!!」
液は酸性だったらしく、片足の皮膚を少し溶かした。
思わずレイスはしゃがみこんでしまった。
しかし、その間にも化け物は近寄ってきている。
「ふざけんなよッ!!開けッ!光の扉ッ!!」
魔法を唱えて、大きな光の扉を召還し、扉を開かせ、その間から光が溢れ出し、化け物にぶち当たった。
『ウガァァアアッ!!』
化け物はその場でしばし、のたうちまわるが、すぐに体勢を整えなおし、レイスへ再び向かってくる。
かなりのダメージを与えたはずなのに・・・と、一瞬驚いて目を見開くが、レイスは立ち上がり、また走り出す。
(まるであの時のようだ・・・親父に小さい頃追いかけられたときのような・・・)
『待て!この糞餓鬼!!殺してやる!!』
(嫌だ。嫌だ、死にたくない!!)
『−−−!!待て、−−−!!!』
(どうして皆助けてくれないの?ねぇどうして?)
どうして俺はいつもこんなに恐い目にあわなくちゃならないの?
レイスは郊外までくると、立ち止まり、化け物の方へ振り返った。
「なぁ、親父。もう止めにしよう・・・」
『ガルルルル・・・』
「どうして・・・アンタはこっちの世界にまで来て俺をいじめるんだ?」
『グル・・・・・レイ・・ス・・・・』
「親父・・・もう止めよう。終わりにしよう。」
レイスは近寄って来た化け物にそっと手を触れた。
「ねぇ、俺何か悪いことした?」
『・・・レ・・・イス・・・』
ヒュオオ・・・
「親父、もう俺疲れたから家に帰ろう?」
ヒュオオオ・・・
「帰ったら母さんに謝ろう?」
『・・・すまな・・・い・・・オレは、・・・もう・・しん・・・で・・・いる』
ヒュオオオオ・・・
「そっか・・・なら、二人に祈るね。」
『すまな・・・い・・・れい・・・す・・・わる・・・かった・・・』
「俺・・・今本当の名前を思い出した・・・・・・俺の名前は・・・―――」
ザシュッ
「・・・今、レイスが・・・死んだ。魂も、自分の世界に返った・・・。」
セシルはレイスの最期には間に合わなかった。
どうすることも出来なかったセシルは、その場に崩れるように座り込んだ。
「皆死んでしまった・・・どうして皆死ななければならなかったんだ・・・」
瞳からこぼれる涙は悲しみと自分への憎悪。
「どうしてッ!!!!!?」
地面に涙は零れ落ち、染みを作っていく。
しかし、それは突如降り始めた雨によって見えなくなってしまった。
ザアアアアァァァ・・・
「大道魔術師セシル。自分の世界に返りなさい。」
「・・・」
振り返った視線の先には、死人形となっていたシオン。
背後にはエイトとカレンにバルド。ヴェクセルとホーリィにウィルもいた。
しかしやはり彼らには血の気がない。
魂の存在も感じない。
冷え切った人形だ。
「聞こえましたか?大道魔術師。」
「・・・ひとつ。教えてくれませんか?」
「・・・何。」
「どうして・・・皆死ななければならなかったのですか・・・?」
「・・・お前とかかわった者は全員死ななければならない。なぜなら、お前はこの時代に存在してはいけないのだからな。」
「千年前の住人がこの時代にいることで・・・歴史が狂った・・・と言ったところですか。」
「そういうことだ。」
「・・・・・・私は・・・とんでもないことをしてしまった・・・。私のせいで、皆さんの命を・・・奪ってしまった・・・!!!」
握り締めた拳からは血が垂れだした。
「後悔したところで命は戻らない。」
「分かっています・・・」
セシルはゆっくり立ち上がり、杖を空間内から取り出すと、ソレを剣へと形を変えた。
「罪ならば・・・死ぬ。」