The eleventh day【B】
ピシッ
「!」
テーブルの上に置いていたセシルのカップにヒビが入った。
「・・・レイス!!」
セシルは外へ飛び出そうとした。
しかし、その時、視界に突然の訪問者。
「・・・バルド?!貴方生きていて・・・」
本当のセシル。バルドがセシルの目の前にいた。
「何もかもおしまいだ・・・世界は、バランスを保てなくなった。」
「何を言って・・・――」
「形を作るのはこの世界に属するものだけではない。忘れてはいけないものもある。
変えてはいけないものもある。空は空のままで、人は人のままで・・・
いつまでもあり続けて、でも、変わっていく。
でも、無理矢理変えるものではない。」
バルドがそう言うと、辺りの空気が重力がかかったように重く、息苦しくなった。
「バルド・・・――」
「全てお前のせいだ!!セシルッ!!!」
「!!」
バルドが叫んだとたん、部屋の中に闇が充満して、セシルに襲い掛かってきた。
セシルは襲い掛かる闇を避けて、扉から飛び出して行った。
(このまま街へ行ったら街にも被害が・・・どうすれば・・・)
「ああっ!エイト!!カレン!!」
そうこう考えている間に、いつの間にか目の前にはエイトとカレンが立ちふさがっていた。
でも、ようすがおかしい。
俯いた状態で何か手に持っている。
「二人ともどうし・・・」
セシルの首の横で風が横切る音がした。
「・・・セシル・・・ころ・・・す」
「お前・・・本当は・・・存在しては・・・いけない。」
横切ったのはエイトの持っていたナイフだったらしい。
顔を上げた二人には、血の気など無かった。
「二人とも・・・死人形に?!」
死んで、意識もない抜け殻となった二人の体は、何者かの手によって、操られている。
呆然としていると頭上から声がした。
「哀れな二人。でも、他の皆も哀れ。」
そう言ったのはいつかヴェクセルとレイスの喧嘩を宥めたシオンだった。
「貴方・・・」
「僕に何を聞いても無駄だよ。僕も死人形だからね。言っただろう?【亡霊】だと。
僕に生前の記憶などないし、今ここに存在しているときの感情も偽りだ。
全て何者かの手によって書き換えられる記憶なのだから。」
「・・・貴方も・・・死んでいるのですね・・・」
「そう、そして僕も・・・君を殺さなければならない。それが、僕ら【死人形】の使命なのだから。僕らは、何者かの命令には歯向かえない。強制されているからね。心も、体も・・・そして記憶も。」
そう言いながらシオンは大鎌を振り上げた。
「まだ僕は心は全て支配されていないから言う。レイスのところへ行ってあげて。」
振り下ろされる鎌をセシルはひらりとかわす。
後ろからバルドが魔法で攻撃して、前方からはエイトとカレン。
「レイスのところ?」
「早く。伝えたいことが彼はあるんだ。君に。」
「まさか・・・レイス・・・」
「早く!!」
シオンに怒鳴るように言われて、セシルは頷くと魔法で全員にストップをかけた。
そして、足早にレイスの向かった学園にむかった。
―――大道魔術師。お前は永遠だが、大罪だ。だが、強く生きろ――――