The eleventh day
翼をもぎ取られた天使は二度と天へは羽ばたけず
ただ ただ この世界の闇の中を走り回って逃げることしか出来ない
自分以外には誰もいないこの世界で
感じるのは
愚かな気配
邪悪な人間の生み出した欲望の影
「主、イエスはいいました『自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい』」
レイスは突然そう言った。
隣にいたセシルは不思議そうにレイスの方をみていると、レイスがセシルの視線に気がついて笑って答えてくれた。
「俺の世界で、ずっと昔にいた人の言葉なんだ。」
「・・・昔のお方の言葉ですか・・・」
「そそ。」
「でも、何で突然?」
「え?あぁ。俺ん家は日本人の家計だから仏教ってイメージあっかもしんねーけど、でも何故かキリスト教なんだよなぁ。それに学校もキリスト教学校で・・・」
「????」
セシルは日本人と仏教。そして、仏教とキリスト教の関係が全くわかってないようだ。
困惑した表情で必死に考えている。
「あぁ・・・ごめん。わかんないよな?」
「すみません・・・。」
「いやいや。俺が悪かった。今度もうちょっと分かりやすく教えるな?」
「今度?」
「そ、俺今からちょっと学校行ってくるから。今日、本の返却日なんだよ。」
「そうですか。では、行ってらっしゃい。」
店の扉を開けて外へ出たレイスが振り向いて笑顔で「行ってきます。」
と、言い駆け出して行った。
その時セシルにはレイスの、ひとつひとつの動作がゆっくりと見えた。
まるで、最後の笑顔のような気がして、胸騒ぎさえしていた。
「・・・まさか・・・ね。」
レイスは、大学のとても広い庭を駆けて行っていた。
すると、庭の中心辺りで人の壁が出来ていて、何やら騒がしい。
「あ、レイス!」
「あぁ・・・ガイ。どうしたの、この騒ぎ。」
「いや、特にたいした事でもないんだが、ウーパールーパーがいるらしくて」
「ふーん・・・(てかこの世界にウーパールーパーいんのかよ。)まぁ、いいや。俺本返してくる。まだ、図書委員いた?」
「キルならまだ図書室の地下で文献漁ってるぜ。ありゃ本の虫だな。」
「あははっ!!違いねぇや!!」
思いっきり笑ってからガイと分かれて、レイスは大学の北棟のずっと奥にある図書室へ向かった。
バンッ!!と思いっきり扉を開けた。
「キル!!いるー?」
暗い室内。
電気もつけずにカーテンは閉ざされていた。
誰もいない室内は少々気味が悪い。
「キルはまだ地下なのかな・・・まぁいっか。」
レイスは本を返却するための、紙で出来たカードに本の名前とコード番号、そして返却日の印鑑を押して、本に挟むと、図書委員用の机の上に置いた。
丁度その時だった。
学園の庭の方から叫び声が聞こえてきたのだ。
はっとして、レイスはカーテンを開けて庭の方を見た。
すると、そこには巨大なウーパールーパーのような生物。
「なんだ・・・あれ・・・」
「さっきのウーパールーパーだよ。」
怪我をしたガイが、窓の下にいた。
おそらく、アイツの攻撃があったのだろう・・・その時ここまで吹っ飛んで来たと思われる。
背中をつけている壁がへこんでいた。
レイスはガイを引き上げた。
「大丈夫?!」
「あぁ、これくらい平気平気。」
「平気って・・・平気じゃないよこんなの。ホラ、癒すからじっとしてて。」
「【癒す】?手当てじゃなくて癒すの?」
「・・・ガイ、俺は魔法使いなんだ。」
「え?・・・お前が?」
「そう。だから、癒す。お前を助ける。いや、皆助ける!!」
レイスは魔法でさっと傷を消した。
「ごめんね。治療と言っても俺は癒力は低くて一時的なものしか出来ないんだ。多分二日くらいしか持たないかも・・・」
「それだけあれば十分。」
「ガイ、ごめんね。」
「へ?何が・・・―――」
傷口が塞がったことを不思議そうに見ているガイが再び顔を上げると、そこにはもうレイスの姿は無かった。
「・・・お前はいつだって・・・謝ってばっかりだな。馬鹿野郎が。」