The sixth day
その日、レイスがセシルの店に行くとセシルは居なかった。
だけど、どこからか歌声が聞こえる。
誰もいないはずの地下通路。
そこに響く綺麗で繊細な歌声。
「誰の声?」
エイトがセシルの店の二階から降りてきて、レイスはセシルのことを尋ねたが、エイトが起きたときにはもう出かけていたらしい。
前もって朝食は作り置きしてあったらしい。
「多分中層と上層には出て行ってないと思うんだけど・・・光が差す内は上に出れないし・・・」
「どうしてですか?」
「なんかね、紫外線浴びると発作的なの起こすんだって。」
「大変なんですね、セシルさん。」
「だよなぁ・・・てかさ、俺さっきから気になってたんだけどさ・・・この地下通路に響く声は何?」
「・・・さぁ・・・。」
レイスは声が聞こえる方へエイトを連れて進んでいった。
薄暗い地下通路では床がほとんど見えないため、キャンドルに火をつけて進んでいった。
「レイスさん、そのキャンドル短いけど大丈夫?」
「安心して。これは魔法キャンドルだから大丈夫。ほとんど減らないから。」
「そうなんですか?」
エイトは興味有りげにキャンドルを見てくる。
カツン・・・カツン・・・
と、レイスのブーツが地下通路に響く。
エイトの足音は不思議なことに響かない。
エイトも厚底ブーツを履いて、同じように隣で地面に足を付いているはずなのに。
「広い・・・ですね。地下通路」
「だねぇ・・・俺もここまで進んだのは初めてだよ。そもそもここは立ち入り禁止って言われてる場所だったから入ることなんて今までなかったしねぇ・・・」
今まで気づかなかったが、奥に進むほど壁の装飾がアンティークなデザインになって行き、細かいものであった。
それからしばらく歩くと、キャンドルの光もいらなくなるほどの淡い青色の光が奥からあふれてきていた。
その淡い光に向かって進むとドアのないゲートがあり、ゲートをくぐるとそこには・・・
「わぁ・・・」
「すごい・・・」
何処まで広がっているのかわからないが、そこには古代都市だったと思われる古い建物が広がっていた。
道という道らしきところは、ほとんど淡い青色の花が咲きほこっていて、神秘的だ。
「あ・・・聞こえる」
ゲートをくぐってから誰かの歌声が近くなってきた。
『♪I want to heal you
I wish your safety every night here・・・』
透き通った声で優しいもの。
それは建物の密集している方から響いてくる。
「エイト、ここで待つ?行く?」
「・・・行きます。」
少し足の踏み場が危ないので一応聞いてみたが、エイトはそれでも行くというので「わかった」と、一言言うと先へ進んだ。
道は一本道。
迷うことは無いだろう。
足元に広がる花は、可愛そうだが多少踏んでしまうことになる。
「なんだか・・・可愛そう」
「そうだね」
一段一段ゆっくり上がってゆく。
少しづつ古代都市の頂上へと近づく。
それは天国に続くような気さえした。
階段を登り、広場に出て、道を通り、また階段を登り、住宅街だったと思われる場所を通過して、
また階段を登る。
そして頂上手前の大きな門。
それは亀裂が走り、半壊していたが、古代都市だと思われるこの都市の何か重要なものだとレイスは直感した。
でも今はまだ、これが何なのかわからない。
多分今はまだ知る必要はないのではないのだろうとも思う。
『♪I want to heal you
I wish your safety every night here・・・
It please be healed
Please rest your wing
I continue singing for you』
「・・・セシル?」
ゲートの向こう。広がる青の中。
その中に黄緑色の彼。
レイスの呼びかけにゆっくりと振り向く。
優しい笑顔で
「おはようございます。いい天気ですね。心地いい朝です」
「お前・・・日の光・・・」
「ここの光は特別なんです。だから私にも平気なんです。」
振り返った彼の顔にはチャームポイントとも言える眼帯はなく、その下に隠れていた赤い瞳が優しくこちらをみている。
何処からか吹き込んでくる風は、僕らを包み込むようで。
「今のはセシルが歌ってたの?」
「え・・・聞いていたんですか・・・?」
「ねぇ、もう一回聞かせてよ?」
エイトと共にセシルの隣に座ってそう言うとセシルはもの凄く恥ずかしそうにしていた。
「嫌ですよ・・・」
「えーッ!いいじゃん!!」
「僕も聞きたいです。セシルさん」
「駄目。絶対駄目。もう歌わない。」
「恥ずかしがり屋だなぁ、セシルは」
何故だろう・・・?
ここまで時間がゆっくり流れているような気がするのは。
レイスは出会った人々と、仲間の皆と一緒にこのままずっとこの時が続けばいいのに、と考えてしまう。
「ところでセシル、ここは?」
「・・・千年前の都市の跡です。まぁ、もう千年前にはほとんどの人が中層に移り住んでいましたが・・・それでもあの頃私たちはどうしてもこの年を守りたかったんです。だからここは立ち入り禁止区画にされたんです。今も、昔もね。」
「何か守らなきゃいけないものがあったのか?」
「この都市そのものが守らなくてはいけないものなんです。ここには、『リゲル』がいるから。ねぇ、リゲル?」
セシルが空に向かって話しかけるようにすると、何処からか声が響いてくる。
『お前は今でも番人をするのか?セシル・・・』
「誰ッ?!」
姿もわからない相手の声にレイスとエイトは驚きの声をあげる。
『私はリゲル・・・【この都市そのもの】だ。そしてセシルは千年前の【門の番人】。』
「門の番人?」
「つまりね、この都市自体にリゲルと言う人の魂が組み込まれていて、この都市を守るシステムみたいな方。そして私は【この都市で最も大切な門】を守る番人。その門がアレ。」
セシルが指を差した先には先ほどの半壊しているゲート。
「でもあれはもう・・・」
「いえ、あれは【外郭】です。その中身ですよ。中身は門の下に存在します。」
『ただ、もう誰もアレを欲しがる奴は私はいないと思うがな・・・もう誰も必要としないだろう。世界は新しい技術を手に入れて進化した。』
「ですよね」
セシルは立ち上がって服を叩く
『帰るのか?』
「えぇ、そろそろ店を始めないと」
『そうか、ならまた歌いに着てくれ。』
「ふふっ。まぁ、今度はレイス達にばれないように来ましょうかね」
セシルは二人を置いて階段を駆け下りていく。
「あ、待てよッ!」
「今度は僕らにも聞かせてくださいよ〜ッ!!」
レイスとエイトもセシルの後に続き階段を駆け下りていく。
♪I want to heal you
I wish your safety every night here・・・
It please be healed
Please rest your wing
I continue singing for you・・・♪
息抜き的話♡