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The fifth day【C】

店に帰ってからセシルは本を片手にずっと考え込んでいた。

最初は本を読むつもりだったらしいが、おそらく先ほどのエイトのことが気にかかって意識が本から離れているのだろう。

レイスが見る限りでは、先ほどから微動だにしていない。

「・・・・・・」

セシルの目の前で手をかざしてみるが、まったく気づいていないようだ。

「・・・はぁ・・・セシルッ!」

「え・・・あ、はい。何ですか?」

やっと気が付いたようで、ハッとしたようにこちらを見る。

「どうした?・・・エイトのことか?」

「・・・どうして・・・実験サンプルにされるんでしょうか・・・エイトさんは、悲しくないのでしょうか?私は・・・悲しいと思う。」

「・・・なぁ、じゃあエイトのとこを見てみるか?」

「エイトのトコ?」



レイスはセシルを連れて自宅の自室へ招待した。

レイスの部屋はシンプルなもので、必要最低限の家具しか置いていなかった。

机にベット。何やら難しそうな本が棚に並び、部屋の中央に小さな台があり、そこに手紙が山積みになっている手紙のほとんどが開けられてはいないようだった。

「こっち」

本棚を動かして隠し部屋へ入るように手招く。

導かれるまま奥へ入っていくと、そこには・・・。

「これは?」

虹色に輝く鏡が宙に浮いていた。

「これを使ってエイトのいる施設内へ飛べるんだ。次からは正面から入れないだろ?だからこっから。」

「これは・・・移動装置みたいなものですか?魔法回路と似た?」

「そうだよ。ただ、正確に飛べるところが魔法回路とは違うかな。ある場所のある位置に飛びたいと念じればそこに飛べる。」

「・・・なかなか興味深い。それより、これでエイトのところへもう一度行きましょう。」

「ちょいまち。」

レイスはセシルに止まるよう指示すると、机の上から本棚の上に幾つかケーブルでつながれていたパソコンを起動させた。

何をしているのかわからないセシルはただ、レイスの背中を眺めてまっていた。

しばらくキーをカタカタ鳴らしていくと、画面に施設内の様子が映った。

「レイス・・・それは・・・」

「施設内にさっきつけてきた隠しカメラの画面。職員が居たらいけないでしょ?施設内に元々付いているカメラはエイトの部屋には着いていなかった。だからエイトのところにつけてきた。」

「よく観察してますね、あんな短時間で。」

「・・・そういうこと昔からしてたから。」

レイスが一瞬怪しい微笑みを浮かべた。

セシルはその微笑に寒気を覚えたが、あえて何も聞き返さなかった。

レイスが、いつものレイスとは違う雰囲気を出していたから。

「さて、エイトの部屋には鍵がかかっているみたいだね。部屋にはエイトしかいないみたいだし。じゃあ、行こうか。」

「はい」

鏡を通して、二人は施設内のエイトの部屋に飛んだ。


急に部屋に現れた二人にエイトはすぐに気が付いたようだが、驚きもしない。

むしろ、喜んでいる。

「また、お会いしましたね。」

微笑んでこちらをみている。

「エイトさん・・・どうしても聞きたいことがあってこのたびまたお会いににきました。」

「・・・なるほど。ここにいて、何か楽しいのか。実験サンプルになっていて平気なのか。ですね?」

セシルは感じ取った。エイトはセシルの考えていることを・・・心を読んでいるのだと。

エイト。

彼は何か超越した存在なのだと。

「ここに居ても平気です。実験は痛いですが、皆優しくしてくれますし。でも、外の世界は見てみたいものですね。」

「外には出してもらえないのですか?」

セシルが聞くとエイトは、なんともいえない表情で答えた

「・・・出てもいいの?」

「自分の気持ちに間違いがないと思うのなら、やりたいようにやってもいいと思いますよ」

エイトはしばらくの沈黙のあと口を開いた

「・・・僕は・・・――――」

その時、扉が勢い良く開いて職員の怒声が響いてエイトの言葉はかき消された。

「お前ら!何をしている!!」

いかにも恐そうな警備員と職員数名。

背後には数体の警備ロボット。

「「やっべ;」」

レイスとセシルは息を飲んだ。

出口は完全に包囲されているため出れるわけがない。

鏡から来た入り口を開いて帰ったとしても、追いかけてくるであろうと察知したから。

お縄に捕まるしかない。そう考えてしまったとき、二人の前にエイトの姿が。

「止めて下さい。二人は僕のお友達です。二人を捕まえたり、殺したりするようであれば、容赦はしません。正当防衛としてあなた方を撃ちます。」

子供のような表情で笑っていたエイトの顔は凛々しい表情をして、まるで別人のようだ。

声も1トーン低くなっている気がする。

「しかし・・・」

職員が何か言う前にエイトが言った。

「そこをどいてください。」

「しかし・・・」

「どいてください」

「でも・・・」

「どいてください」

「・・・」

エイトの押しに負けて、入り口を塞いでいた警備員達はそこから離れた。

「さぁ、二人とも。行きましょう。」

満点の笑みでエイトは二人の方へ振り返った。

その笑顔は、いままで二人に見せた中でも一番の微笑みだったのかもしれない。

「僕は『やりたいようにやります』。自分の意思で決めるんです。これからを。」


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