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第6話:友よ

無我夢中で走った。

何かを考える暇もないくらい。

というよりも何も考えたくなかった。


「・・・どうした?」

汗をかきながら店に駆け込んできた俺を見て、亀吉は少し驚いているようだった。

「オ・・・オルゴール・・・っ、もっと早く直せないか・・・?」

それを聞いて、亀吉は呆れ顔になった。

ちょうど亀吉の手元にはオルゴールがある。どうやら直す作業をしていたらしい。手は細かく動き続けている。

「お前なぁ、一週間だって早い方だと思うが。お金だってとってない。パン代は取っているが。だのに文句があるのか」

苦笑交じりでそう言う友。

どうすれば・・・。

どうすれば・・・。


智沙。


亀吉になんて言ったらいいのか分からなくなってしまった俺は、不覚にも泣きそうになった。そんな俺の異変に気づいた亀吉はサッと表情を変え、眉を顰めた。

「どうした?何があった、言ってみろ」

友人は極めて優しい声で聞いてきたが、俺はだんまりだった。

亀吉に智沙の事を知られてはマズイと言う事はない。

だた、なんとなく、自分以外の”誰か”が知ることで、ソレがより現実味を帯びるのが怖かったのだと思う。

亀吉が困ったようにため息をつく。

そしてしばらく何かを考えてる様子を見せたが、ふと作業をやめ、作業台の上を簡単に片付けると、奥に居るのであろう祖父に短く何かを言い、相変わらずだんまりの俺の前に立った。気がつくと亀吉は暖かそうなコートを羽織っていた。

「行くぞ」

気がつくと俺は亀吉に引っ張られ、外に出ていた。

亀吉は呆気にとられている俺をグイグイと引っ張っていき、初めからこうすると決めていたかのように道路の交差するくねくねとした住宅街をすいすいと進んでいった。

やっと亀吉が足を止めたのはそれから約10分くらい経った頃だった。

そこはだだっ広い公園だった。

「それでだ、何があった?」

亀吉の表情は優しい。


「・・・智沙が・・・っ」


話進めていくうちに亀吉の顔は見る見る強張っていく。

話終えると、お互いにしばらく無言になった。

「俺・・・どうしたらいいのかわからなくて・・・ただ智沙が死ぬのを黙って見ているしか出来ないのかと思うと、悔しくて・・・」

俺の声は自分でも驚くくらい弱弱しく、ほとんど泣き声混じりだった。

「俺の友達は、俺とは正反対な明るい性格なんだが、勉強は出来るし運動も出来るし、学校でも結構人気なんだ」

「・・・?」

突然そう話しだす亀吉に俺は首をかしげながら、聞いていた。

あたりはまだ明るいがもう一時間でもすれば真っ暗になるだろう。

冬というのはそういうものだ。

寒さが増していき、俺の手はすっかり冷え切っていた。

「そいつ、両親が亡くなっても姉貴と二人で頑張ってて、今笑えてるのって凄いと思う。いつも人の事にばっかり一生懸命で、自分の事大事にしてない事もあるんだがそいつらしいんだよな。そんなあいつが弱音を吐くなんてちょっとらしくないんだが、そいつだって辛い時はあるんだよな。そういう時俺はそいつにこう言うな。『辛ければ泣け。泣いて泣いて、枯れるまで泣いたら、後はベストを尽くせ』」

亀吉はまっすぐ俺の目を見て微笑んだ。


あぁ、そうか。

そうだな。

俺はまだ何もしてない。


いまだけ、

少しだけ泣いてもいいか?

もう智沙が“居る”間は

絶対に泣かないから。

・・・


子供のように泣きじゃくる俺に、亀吉は何も言わず隣にいてくれた。


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