パンツヒーローTaikマン!
ガタンゴトン。
朝の満員電車が、今日も街を走る。
眠そうな会社員たちに紛れ、一人の男が静かに窓の外を眺めていた。
男の名は、テイク。
高給取りで知られる「テイクカンパニー」の社長。
そして、その裏の顔は――街の治安を守るヒーロー Taik。
社長として会社を率い、必要とあればヒーローとして街へ駆けつける。
今日もまた、二つの顔を持つ男の一日が始まる。
電車が駅へ到着する。
改札を抜けたテイクは、いつものコンビニへ立ち寄った。
「ホットコーヒー、一つ。」
店員からコーヒーを受け取り、一口飲む。
「……朝はこれがないとな。」
小さく呟くと、会社へ向かって歩き出した。
数分後。
大きなビルの前で立ち止まる。
入口には、大きく社名が掲げられていた。
テイクカンパニー
自動ドアが開く。
「みんな、おはよう。」
その一言で、社内の空気が一瞬で引き締まった。
すると、一人の女性が勢いよく駆け寄ってくる。
「アニキ! おはようございます!」
社長専属秘書の、もちだ。
「こら。会社では”社長”と呼べ。」
「はい! わかりました! テイクアニキ社長!」
「……そこじゃない。」
テイクは額に手を当て、大きくため息をつく。
見ての通り、もちは少し抜けている。
しかし仕事は誰よりも正確で、テイクからの信頼も厚い。
そして、この会社で唯一、テイクの裏の顔を知る人物でもあった。
「お、おはようございます……。」
社員たちも一斉に頭を下げる。
しかし、その表情に笑顔はない。
誰もがどこか憂鬱そうで、朝から疲れ切った顔をしている。
それもそのはず。
テイクカンパニーは、
月給100万円。
土日休み。
朝9時出社。
仕事が終われば、何時でも帰宅していい。
条件だけ見れば、誰もが憧れる超ホワイト企業。
就職希望者は後を絶たず、世間からの評判も悪くない。
――だが、その実態を知るのは社員だけだった。
この会社では、毎朝の朝礼で社長自らその日の業務を言い渡す。
そして、その仕事量は人間の限界を軽々と超えている。
どれだけ効率よく働いても、時計の針は気づけば夜十時を回っている。
だから社員たちは今日も怯える。
朝礼が始まる、その瞬間を。
さて、おはよう。今日も気合いを入れて頑張るように。
それでは、一人ずつ本日の業務内容を言い渡す。
まず、きるvo。前へ。」
「はい。」
きるvoは返事をし、テイクの前へ出る。
「もち、説明を。」
「はい。」
もちが手元の資料を開く。
「本日の業務です。
まず、10時30分より商談が一件ございます。直ちに現地へ向かってください。
続いて12時、14時、15時より商談および打ち合わせがございます。
なお、移動時間は業務時間に含まれますので、移動中も取引先の情報確認、資料の修正、メール対応を行ってください。
すべて終了後、17時より昼休憩です。」
きるvoの表情が固まる。
「……17時から、昼休憩ですか?」
「はい。」
もちが笑顔で答える。
「社長からの指示ですので。」
社内に小さなどよめきが起こる。
しかし、誰も口には出さない。
「続けます。」
もちが資料へ視線を落とす。
「休憩終了後、本日行った商談および打ち合わせについての報告書を提出してください。
商談が失敗した場合は、原因分析、改善案を含めた反省レポートを追加で提出してください。
提出期限は全て本日中です。」
「以上です。」
「期待してる。行ってこい。」
テイクは五千円札を差し出した。
「昼飯代だ。好きなものでも食べてこい。」
「ありがとうございます……。」
きるvoは札を受け取りながら思う。
(……昼休憩が17時って、もう昼じゃないだろ……。)
「次。みじ、前へ。」
「はい。」
みじが前へ出る。
「もち。」
「はい。」
もちが資料を読み上げる。
「本日の業務です。
まず、来週の商談獲得に向け、企業へ営業メールを100件以上送信してください。
その後、返信があった企業について調査を行い、商談資料を作成してください。
さらに、新規企画案を作成。
来週の会議でそのまま使用できる完成度まで仕上げてください。
加えて、こちらの資料50枚を確認後、取引先へファックスを送信してください。
なお、空き時間がございましたら、電車で一時間ほど離れた店舗へ向かい、社長指定のコーヒー豆を購入してください。
移動中に返信が届いた企業につきましては、帰社後、同様に資料を作成してください。
以上です。」
社内が静まり返る。
恐る恐る、みじが手を挙げた。
「テイク社長、お言葉ですが……社員を増やしていただけませんか。」
「ほう。理由は?」
「さすがに仕事量が多すぎます……。」
テイクは腕を組み、小さく笑う。
「みじ。お前は、なぜこの会社の給料が高いと思う?」
「……。」
「答えは簡単だ。」
「社員が少ないからだ。」
社員たちは黙って耳を傾ける。
「もし社員を増やせば、その分人件費がかかる。当然、お前たちの給料も下がる。」
「今、お前の手取りはいくらだ。」
「……約八十万円です。」
「社員を三倍に増やせば、その給料は三分の一程度になるだろう。」
「それでも増やしてほしいか?」
みじは黙り込む。
「…………。」
「そういうことだ。」
テイクはコーヒーを一口飲む。
「仕事は多い。だが給料も高い。」
「私は社員に損はさせていない。」
社員たちは誰一人、反論できなかった。
この会社では、高い給料に惹かれ、生活水準を上げてしまう社員も少なくない。
広い部屋に住み、高い車を買い、休日には好きなだけ遊ぶ。
それでも貯金はできる。
しかし、その翌年。
高収入に見合った税金が容赦なく襲いかかる。
「辞めれば楽になれる。」
そう思っても、今さら他社の給料では同じ生活はできない。
生活水準を下げることも、重い税金を支払うことも簡単ではない。
だから今日も社員たちは働く。
それもまた、テイクカンパニーという会社の仕組みだった。
「さて、朝礼は以上だ。各自、業務に励むように。」
そう言い残すと、テイクは社長席へ戻った。
もちも隣の秘書席へ腰を下ろし、今日の予定を確認しながら書類を整理していく。
社内にはキーボードを叩く音や電話の音が絶え間なく響き、社員たちは朝礼で言い渡された膨大な仕事に追われていた。
一方テイクは、机に積まれた昨日の報告書へ目を通しながら、コーヒーを一口飲む。
「悪くないな。」
小さく呟き、再び書類へ視線を落とした。
そんな静かな時間がしばらく続いた、その時だった。
プルルルル……
もちのスマートフォンが鳴り響く。
「はい、こちらテイクカンパニーのもちです。」
「おう、もちか。僕だ。BLACK Taik管理局の澪だ。」
BLACK Taik管理局。
日本各地で発生する事件や犯罪を監視し、Taikの活動を支援・管理する機関である。
その名を聞いた瞬間、もちの表情が引き締まる。
先ほどまでの柔らかな笑顔は消え、Taikを支える仲間としての真剣な表情へと変わった。
「澪さん。要請ですか。」
もちが小声で尋ねる。
「ああ。」
澪は落ち着いた口調で続けた。
「四番街にある『ノヴァぁぁんカフェ』に強盗が立てこもった。」
「犯人はナイフを所持し、レジの金を狙っている。名前は、とき。現在確認できている犯人は一名だ。」
ノヴァぁぁんカフェ。
ノヴァさんとえだまめさん夫婦が営む、小さなカフェだ。
「まめまめぇ!」と客を迎え、
「ノヴァノヴァぁん!」と客を見送る。
少し変わった挨拶で親しまれている店だった。
「分かりました。すぐ向かいます。」
もちはそう答えると、静かに通話を切った。
「アニキ。」
その一言だけで、テイクは何が起きたのかを察した。
「要請か。」
「はい。四番街の『ノヴァぁぁんカフェ』です。」
テイクは静かに頷くと、周囲へさりげなく視線を向けた。
社員たちは皆、自分の仕事に追われ、誰一人こちらを気にしていない。
それを確認すると、テイクは静かに机の引き出しを開けた。
「よし……。」
小さく呟きながら、中を確認する。
「マスク、よし。」
「手袋、よし。」
「…………。」
テイクの手が止まる。
「もち。」
もちが小声で顔を向ける。
「はい。」
「終わった。」
「……何がです?」
テイクはゆっくりと額に手を当て、小さくため息をついた。
「頭に被るパンツを忘れた。」
もちは思わず額を押さえる。
「アニキ……こんな大事な時に何してるんですか……。」
「仕方ない。」
テイクは静かに立ち上がると、近くで仕事をしていたみじへ視線を向けた。
「おい、みじ。」
「は、はい……。」
突然名前を呼ばれ、みじは不安そうな表情で立ち上がる。
テイクは周囲を見回し、小声で言った。
「今すぐ、お前が履いているパンツを脱げ。」
「…………え?」
みじはその場で固まった。
「しゃ、社長……。いくらなんでも、それは……。」
「甘えるな。早くしろ。」
「は、はい……。」
みじは涙目になりながらトイレへ駆け込み、しばらくしてパンツを手に戻ってきた。
「しゃ、社長……。」
テイクはパンツを受け取ると、満足そうに頷く。
「ご苦労。」
そう言って財布から五千円札を取り出し、みじへ差し出した。
「これで昼飯でも食え。」
(金じゃなくてパンツを返してくれよぉ……。)
みじは心の中でそう嘆きながら、今にも泣きそうな表情で五千円札を受け取った。
テイクは受け取ったパンツを無造作に丸めると、スーツの内ポケットへ押し込んだ。
「もち。」
「はい。」
「行くぞ。」
「はい、アニキ。」
二人は席を立つ。
社長席を離れ、静かな廊下へ向かう。
社内では、社員たちが朝礼で言い渡された大量の仕事に追われていた。
誰もが目の前の業務に集中しており、テイクたちの動きに気付く者はいない。
少人数で成り立っているテイクカンパニーだからこそ、社長が席を離れても大きな騒ぎになることはなかった。
テイクともちはそのまま廊下を進む。
そして、突き当たりにある大きな窓の前で足を止めた。
窓の外には、街を見下ろすほどの高さが広がっている。
もちが小さく確認する。
「準備はできています。」
テイクは静かに頷いた。
「行くぞ。」
次の瞬間。
二人はビルの窓から身を投げ出した。
強い風が全身を包む。
地上へ向かって落下していく中、テイクはまったく動じる様子を見せなかった。
まるで、これがいつもの出動であるかのように。
もちも隣で落下しながら、テイクの様子を確認する。
「アニキ。」
「なんだ。」
「忘れ物はありませんか?」
テイクは一瞬だけ黙る。
そして、スーツの内ポケットへ手を入れた。
「……今回は大丈夫だ。」
取り出したのは、先ほどみじから受け取ったパンツだった。
もちの口元が少し緩む。
「ふふ……本当にそれで変身するんですね。」
「当然だ。」
テイクは真剣な表情で答える。
「これは俺にとって必要なものだ。」
もちも小さく笑う。
「そうですね。アニキらしいです。」
テイクは前を向いた。
街を見下ろしながら、静かに装備を取り出す。
まず、黒い手袋。
次に、顔を覆うマスク。
そして最後に――。
頭に被るパンツ。
三つの装備を空中へ放り投げる。
「もち。」
「はい。」
もちもすぐに自分のバッグへ手を伸ばした。
取り出したのは、一つのカツラとメガネ。
「アニキだけ姿が変わっても、私がそのままでは会社の人に気付かれてしまいますからね。」
そう言いながら、もちも簡単な変装を始める。
カツラを被り、メガネをかける。
先ほどまでの社長専属秘書の姿とは、少し違った雰囲気へ変わった。
「これで大丈夫です。」
テイクは小さく頷く。
そして、空中に浮かぶ三つの装備へ視線を向けた。
「変身!!」
その瞬間。
手袋、マスク、そしてパンツが眩い光を放つ。
光はテイクの身体へまとわりつくように広がっていく。
腕を包み込み、黒い手袋が装着される。
続いて光が顔を覆い、マスクが姿を現す。
最後に――。
光り輝くパンツがテイクの頭上へ浮かぶ。
テイクはそれを掴む。
そして、迷いなく頭へ被った。
光が消える。
そこにいたのは、テイクカンパニーの社長ではない。
街を駆ける存在。
ヒーロー、Taikだった
変身を終えたTaikは、ビルの壁を蹴った。
そのまま街の上空を駆け抜けていく。
目的地は四番街。
ノヴァぁぁんカフェ。
その隣を飛ぶもちが、Taikの腰へ視線を向ける。
そこには、二丁の拳銃が収められていた。
(アニキの拳銃……。)
普通の拳銃ではない。
ひとつは、時間を止めることができる特殊な拳銃。
止められる時間は、わずか五秒。
そして、その能力を使えるのは一日に一度だけ。
一見すれば、短い時間にも思える。
だが――。
圧倒的な身体能力を持つアニキにとって、その五秒は十分すぎる時間だった。
たった五秒。
そのわずかな時間が、戦いの流れを大きく変える。
(そして、もうひとつの拳銃……。)
もちの視線が、もう一丁の拳銃へ移る。
この拳銃だけは、もちにも分からない。
今まで一度も使われたところを見たことがないからだ。
どんな能力を秘めているのか。
それを知っているのは――。
おそらく、アニキ本人だけ。
もちがそう考えている間にも、二人は街を駆け抜けていた。
そして――。
もちにもまた、誰にも知られていない力がある。
それは、鍛え抜かれた体術。
そして、この世界では本来存在しないはずのもの。
魔法。
もちが使える唯一の魔法。
それは――。
爆発魔法。
しかし、その力を手に入れるまでの道のりは、決して簡単なものではなかった。
――5年前。
当時のもちには、一つの憧れがあった。
それは、アニメの世界に登場する魔法。
特に好きだったのは、たそーるというキャラクターが使う魔法だった。
「ファイアーボール」
作中では、決して強い技ではなかった。
それでも、もちにとっては特別なものだった。
自分もいつか、魔法を使ってみたい。
そう願い続けていた。
そんなある夜。
もちの夢の中に、一人の男が現れた。
不思議な雰囲気をまとったその存在は、静かに語りかける。
「わたしは、みけち。この世界の神様だ。」
「もちよ。」
「魔法が使えるようになりたいか?」
突然の問いかけ。
普通なら、ただの夢だと思って終わるような出来事。
しかし、もちの答えは決まっていた。
「はい!」
みけちは静かに頷いた。
「ならば、これから毎日続けるのだ。」
「家に帰り、正座をする。」
「目を閉じ、全身に力を込める。」
「そして唱えるのだ。」
「炎よ、私の力となれ。」
「周囲を焼き尽くせ。」
「エクストラボンバー。」
「それを三時間。」
そう告げると、みけちは静かに姿を消した。
翌日から。
もちの特訓が始まった。
毎日家へ帰ると正座をする。
目を閉じ、全身へ力を込める。
そして三時間。
ただひたすら、同じ言葉を唱え続けた。
周囲から見れば、意味のない行動。
当然、アニキにも言われた。
「絶対に無理だ。」
「そんな変な奴のことを信じるな。」
それでも。
もちの魔法への憧れは消えなかった。
いつか、本当に魔法を使える日を信じていた。
そして――。
三年が経った。
その日も、いつものように呪文を唱えていた。
「炎よ、私の力となれ。」
「周囲を焼き尽くせ――」
「エクストラボンバー。」
その瞬間。
身体が熱くなる。
空気が震える。
次の瞬間――。
大きな爆発が起きた。
初めて。
本当に魔法が発動した。
だが――。
その力には、大きな欠点があった。
魔法を放った瞬間。
もちの体力はすべて奪われる。
立ち上がることすらできない。
さらに――。
放たれた爆発によって、周囲は炎に包まれていた。
建物の中で使えば、大火災になる。
山で使えば、山火事を引き起こす。
そして、初めて魔法を使ったもち自身も、その場で倒れた。
もし、アニキが助けに来てくれなければ。
もちの命は、そこで終わっていたかもしれない。
それでも。
もちには後悔はなかった。
ずっと憧れていたもの。
アニメの中だけの存在だと思っていたもの。
それを、自分の手で使えたのだから。
それ以来。
もちにとって、みけちはただ夢に現れた存在ではなくなった。
魔法を与えてくれた大切な存在。
もちが「ミケ様」と呼ぶ、特別な存在になった。
――現在。
「もち。」
声に気付き、もちが顔を上げる。
「はい?」
Taikは前を向いたまま尋ねた。
「何を考えている。」
「……少し昔のことを思い出していました。」
もちが小さく笑う。
「魔法を初めて使えた日のことです。」
「……あの日か。」
Taikは短く答えた。
「忘れるわけありません。」
もちの表情が少し柔らかくなる。
「あれは、私にとって初めて夢が叶った瞬間でしたから。」
「あの日、アニキが助けてくれなかったら、私はここにいませんでした。」
Taikは何も言わなかった。
ただ、前を向いたまま進み続ける。
「……無茶をするな。」
短い言葉。
しかし、もちには十分だった。
「はい。」
二人はさらに速度を上げる。
街の景色が流れていく。
そして――。
「見えました。」
もちが前方を見る。
四番街。
その一角に、小さなカフェがあった。
ノヴァぁぁんカフェ。
ノヴァさんとえだまめさん夫婦が営む、地元で親しまれている店。
普段なら、店内からは明るい声が響き、客たちの笑顔が絶えない場所。
しかし今。
その店には、いつもの温かな雰囲気はなかった。
店の前には人だかりができ、周囲には緊張した空気が漂っている。
「アニキ。」
もちの表情が引き締まる。
「現場です。」
Taikは静かに頷いた。
「行くぞ。」
二人はノヴァぁぁんカフェへ向かって降下していく。
「アニキ。」
もちが声をかける。
「ここからは、ちもでお願いします。」
「分かっている。」
変身したもちが「ちも」と名乗るのは、テイクカンパニーの秘書である自分の正体を隠すためだった。
そして――。
店の前へ着地する。
Taikは迷うことなく、入口へ向かって歩いていく。
もちもその後ろをついていく。
「ここか。」
もちが頷く。
「はい。」
Taikは静かに扉の前へ立つ。
そして――。
ドォンッ!!
勢いよく扉を蹴破った。
店内にいた全員の視線が、一斉に入口へ集まる。
煙の中から、一人の影が現れる。
黒いマスク。
黒い手袋。
そして――頭にはパンツ。
その姿を見た瞬間。
「Taikマン!!」
ノヴァが声を上げる。
「まめまめぇ!」
えだまめも声を上げる。
Taikはゆっくりと前へ出る。
「風に乗って東へ西へ。」
「頭にパンツを被っていても、守るものは本物だ。」
「街の治安を守るヒーロー――」
「Taikマン参――」
その瞬間。
「来たな、Taikマン。」
ときが叫ぶ。
次の瞬間。
ときはナイフを握りしめ、Taikへ向かって一気に襲いかかった。
Taikは迫りくるナイフをかわす。
「……。」
Taikはときを見つめる。
そして、小さくため息をついた。
「……セリフくらい最後まで言わせろ害のもの。」
ときは鼻で笑う。
「ヒーローごっこしてる暇があると思ってんのか?」
Taikは腰のホルスターへ手を伸ばす。
そして、隣へ視線を向けた。
「ちも。」
「はい。」
「俺はこいつを片付ける。お前は周りの安全を確保しろ。」
「了解です、アニキ!」
ちもはすぐに客のもとへ駆け寄った。
Taikは店内を見回す。
(……何かが引っかかる。)
店内には、ノヴァとえだまめ。
そして、もう一人だけ客がいた。
しかし、その客は強盗がいる状況にも関わらず、逃げる様子がなかった。
周囲が怯えて動けない中、一人だけ落ち着いた表情でコーヒーを飲んでいる。
(……いや、今は考えるな。)
Taikはゆっくりと、ときへ向き直る。
「さあ。」
「始めようか。」
「お前は、あと数秒で終わる。」
そう言うと、Taikは腰のホルスターから一丁の拳銃を抜いた。
その様子を見たときは鼻で笑う。
「はっ。俺を撃つつもりか?」
Taikは小さく笑みを浮かべた。
「違う。」
「SHOWTIMEだ。」
そう言うと、ウィンクをしながら拳銃の銃口を自分のこめかみに当てる。
――パァンッ!!
乾いた銃声が店内に響いた。
その瞬間。
世界から音が消えた。
空中に舞っていたコーヒーの雫。
揺れていたカーテン。
ノヴァたちの動き。
そのすべてが静止する。
止まった世界の中で動けるのは、Taikただ一人。
Taikは一瞬でときの懐へ潜り込む。
腹へ拳を三発叩き込み、鋭い蹴りを一発。
最後に胸ぐらを掴み、そのまま勢いよく床へ叩きつけた。
五秒が過ぎる。
止まっていた時間が、再び動き出した。
ドゴォォンッ!!
激しい衝撃音とともに、ときの身体が床へ叩きつけられた。
「がはぁっ!!」
何が起きたのか理解できないまま、ときは腹を押さえながら苦しそうにうずくまる。
「こ……これが噂の……時間を止める力か……。」
ときは腹を押さえたまま、その場に倒れ込んだ。
もう立ち上がる力は残っていない。
「さすがです、アニキ。」
ちもはTaikのもとへ歩み寄り、小さく笑みを浮かべた。
「私の出番はありませんでしたね。」
Taikは倒れたときを見下ろしながら口を開く。
「こいつを管理局まで運ぶぞ、後の処理は任せればいい。」
「はい。」
ちもが頷いた。
その時だった。
「きゃぁぁぁぁっ!!」
店内に、えだまめの悲鳴が響き渡る。
「まめぇ!!」
ノヴァが叫ぶ。
Taikとちもは同時に振り向いた。
そこには――。
先ほどまで客だと思われていた大柄な男が、えだまめの頭を片手で鷲掴みにしていた。
男は口元を歪め、不敵に笑う。
「おはよう、Taikマン。」
そう言うと、ゆっくりとかけていたサングラスを外した。
その顔を見た瞬間。
ちもの表情が凍りつく。
「あいつは……。」
和田。
半年前、日本各地で凄惨な殺人事件を繰り返し、全国指名手配となった男。
ある日を境に突如として姿を消し、その消息は誰にも分からなくなっていた。
「姿を消したと思っていましたが、まさか、こんなところにいたなんて……。」
ちもの声はわずかに震えていた。
和田はえだまめの頭を掴んだまま、楽しそうに笑う。
「俺も有名になったものだな。」
その巨体は二メートル近くあり、全身を覆う筋肉からは圧倒的な威圧感が放たれている。
そして何より恐ろしいのは、その握力。
人間の頭蓋骨すら握り潰せると言われるほどの怪力を持ち、これまで数々の殺人事件を引き起こしてきた。
純粋な身体能力だけなら――。
Taikと互角。
いや、それ以上かもしれない。
和田はえだまめの頭をさらに強く握りしめ、不敵な笑みを浮かべた。
「さて、Taikマン。」
和田は、えだまめを掴んだまま口を開く。
「ここからが、本当のショータイムだ。」
店内に緊張が走る。
「取引だ、Taikマン。」
「ときを解放しろ。」
「そんな雑魚でも、まだ使い道はある。」
「それから、逃走用の車と金を用意しろ。」
「そうすれば、この女は解放してやる。」
和田は口角を吊り上げる。
「もう時間停止は使えないんだろ?」
「今のお前に、俺を倒せるのか?」
和田は知っていた。
Taikの時間停止が、一日に一度しか使えないことを。
Taikは静かに和田を見る。
「……断る。」
その一言に、店内が静まり返る。
「女という生き物に、そこまでしてやる価値はない。」
「それに、お前はどうせその女を解放しない。」
「取引に応じても、最後には殺すつもりなんだろ。」
「なら、こいつだけでも拘束して撤退する。」
「……悔しいが。」
「今の俺では、お前には勝てない。」
「だが、お前は後日必ず倒す。」
和田は肩を震わせて笑った。
「ククク……。」
「よく分かってるじゃないか。」
「そうだ。」
「俺は最初から、この女を生かして返すつもりなんてない。」
「車も金も全部もらう。」
「その上で、この女も殺す。」
ミシッ……。
和田の握力がさらに強まる。
「痛いっ……!」
えだまめの悲鳴が店内に響く。
「まめ!」
ノヴァが叫ぶ。
しかし、和田は手を緩めない。
ノヴァはその場に崩れ落ちた。
「お願いです……。」
「まめだけは……。」
震える声で呟きながら、床へ手をつく。
その姿を見たちもは、拳を強く握り締めた。
「アニキ!」
「私は見捨てられません!」
ちもは床を蹴り、一気に和田へ向かっていく。
しかし。
「遅い。」
和田は片手でちもの拳を受け止める。
そのまま腕を掴み、軽々と投げ飛ばした。
床へ叩き付けられたちもへ、和田の蹴りが入る。
「うっ……!」
それでも、ちもは立ち上がる。
再び和田へ向かっていく。
しかし攻撃は届かない。
殴っても、蹴っても。
すべて簡単に受け流され、反撃だけが返ってくる。
「ちも。」
Taikが静かに呼ぶ。
「もうやめろ。」
「相手が悪い。」
「嫌です。」
ちもは息を切らしながら答える。
「このままじゃ、えだまめさんが殺されます。」
Taikは静かに言った。
「女一人のために、お前まで死ぬ必要はない。」
「俺は、お前を失いたくない。」
その言葉に、ちもの動きが止まる。
しかし。
「……すみません。」
「今回だけは。」
「アニキの言うことは聞けません。」
ちもはもう一度、和田へ向かって走った。
その瞬間。
Taikの脳裏に、一つの記憶が蘇る。
忘れることのできない出来事。
それが、Taikの考えを変えるきっかけとなった事件だった。
――数年前。
BLACK Taik管理局へ一本の通報が入った。
誘拐事件。
被害者は、もなか。
犯人は、ばっきー。
もなかに一目惚れをし、誘拐事件を起こしたとのことだった。
Taikは現場へ向かった。
場所は、人の寄り付かない古びた廃工場。
入口には、数人の見張りが立っていた。
「誰だ!」
「ここから先は通さねぇ!」
男たちはTaikへ襲いかかる。
しかし。
Taikは時間を止めるまでもなかった。
拳を一発。
蹴りを一発。
それだけで二人はその場に倒れ込んだ。
「ちも。」
「はい。」
「こいつらを管理局へ運べ。」
「了解です、アニキ。」
ちもが男たちを拘束している間。
Taikは一人で廃工場の奥へ進んでいく。
そして。
最奥の部屋。
扉を蹴り破る。
そこには、椅子に縛られた女性がいた。
そして、その隣には。
不気味な笑みを浮かべた男が立っていた。
「ようやく来たか。」
ばっきー。
手にはナイフを持っている。
「ヒーロー様のお出ましか。」
ばっきーはナイフを構え、Taikへ向かって走り出す。
しかし。
Taikは静かに拳銃を抜いた。
「SHOWTIME。」
――パァンッ。
乾いた銃声が響いた。
その瞬間。
もなかの視界から、すべての動きが消えた。
空気の流れも。
音も。
何もかもが止まったように感じた。
次に気づいた時。
ばっきーは、その場に倒れていた。
何が起きたのか。
ばっきー本人にも理解できない。
「手応えが無さすぎるな。」
Taikは何事もなかったかのように、もなかの拘束を解いた。
もなかはゆっくりと立ち上がる。
Taikは背を向ける。
「ねぇ。」
もなかが声をかける。
Taikが振り返る。
「なんだ。」
もなかは少し笑う。
「私の胸、触ったでしょ。」
「……何を言っている。」
「触っていない。」
Taikは即座に否定する。
「嘘。」
もなかは冷たい目でTaikを見る。
「時間を止められるんでしょ?」
「だったら、何をしても証拠なんて残らないじゃん。」
「なんか胸に感覚あるし。」
Taikは黙る。
もちろん、そんなことはしていない。
「それに。」
もなかはTaikの頭を見る。
「パンツなんか頭に被ってる変態のこと、信じられるわけないでしょ。」
「私、かわいいもんね。」
「触りたくなっても、おかしくないよね。」
その瞬間。
もなかの表情から笑みが消えた。
もなかは床に落ちていた、ばっきーのナイフを拾う。
Taikは警戒する。
次の瞬間。
「死ね。」
もなかはTaikへ向かってナイフを突き出した。
Taikは反射的に身体を逸らす。
刃が頬をかすめる。
頬から、少しだけ血が流れた。
「……。」
Taikは距離を取る。
もなかはナイフを握ったまま、Taikを見つめている。
Taikは床に倒れているばっきーを見る。
ばっきーを肩に担ぎ上げる。
「あら、逃げるの?」
もなかが嘲るように言う。
しかし。
Taikは何も言わず、その場を後にした。
廃工場に残されたもなかは、去っていくTaikの背中を見つめる。
そして。
口元に、不敵な笑みを浮かべた。
先ほどまでの怯えた様子とは違う。
どこか、悪意を感じさせる笑みだった。
Taikは思った。
冤罪で人を陥れ、恩を仇で返す者もいる。
女は怖い。
最近でも、電車内で痴漢冤罪の被害に遭う男は少なくない。
この世は女の味方だ。
男の味方なんて、誰もいない。
この事件を機に。
Taikにとって女は、無理をしてまで助ける必要のない存在へと変わってしまった。
その記憶は、一瞬で脳裏を過ぎ去った。
次の瞬間。
「ぐっ……!」
和田の鋭い蹴りが、ちもの腹部へ突き刺さる。
「がはっ!」
ちもの口から鮮血が飛び散り、その身体は大きく吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたちもの身体を、Taikは静かに受け止める。
何も言わず、そのまま床へ降ろした。
「……駄目だ。」
「相手が悪い。」
「時間停止も、今日はもう使えない。」
「撤退するぞ。」
ちもは首を横に振った。
「嫌です。」
しばらく沈黙が流れる。
「ごめんなさい、アニキ。」
「ノヴァさんを連れて逃げてください。」
「私は爆発魔法を使います。」
「そんなことをしたら、お前も死ぬぞ。」
「えだまめさんには申し訳ないけど、えだまめさんと私以外に、もう犠牲者は出しません。」
「和田も道連れにしてやります。」
「アニキ、お願いします。」
Taikはしばらく黙り込んだ。
そして、静かに口を開く。
「爆発魔法は駄目だ。」
「三分だけ時間を稼げ。」
「……使いたくはなかったが。」
ちもは顔を上げる。
「アニキ……?」
「……分かりました。」
ちもはふらつきながらも立ち上がった。
和田は口角を吊り上げる。
「仲良しごっこは終わりか?」
「うあああぁぁっ!」
ちもは叫びながら和田へ向かっていく。
しかし。
片手でえだまめの頭を鷲掴みにしたまま、和田はすべての攻撃を受け流した。
拳も。
蹴りも。
まるで通用しない。
ちもは決して弱くない。
普段なら、一人で犯人を制圧できるほどの実力を持っている。
そのちもを、片手だけでここまで圧倒するとは――。
Taikは静かにノヴァを見る。
「ノヴァ。」
「そのパンツ、何日ものだ?」
ノヴァは首を傾げた。
「何日もの……とは?」
「何日洗ってないかということだ。」
「あっ……。」
「一週間です。」
「一週間も履き替えてないのか。」
「恥ずかしいですが……面倒くさくて。」
Taikは小さく頷く。
「ちょうどいい。」
「女を助けたければ、今すぐ脱いで渡せ。」
「……なぜですか?」
「いいから今すぐだ。」
「……分かりました。」
ノヴァは急いでパンツを脱ぎ、Taikへ差し出した。
Taikは腰からもう一丁の拳銃を取り出す。
ノヴァはその銃を見つめた。
「その銃は……?」
「スメルガン。」
Taikはパンツを床へ広げる。
スメルガンを静かに構えた。
――パァンッ。
乾いた銃声が響く。
弾丸はパンツを貫く。
次の瞬間。
パンツに染み付いた臭いが渦を巻くように銃口へ吸い込まれていく。
やがて銃身が淡く光を放ち始めた。
「パンツに染み付いた臭いを吸収し、五十倍にして圧縮する。」
「圧縮された臭いは弾となって放たれる。」
「着弾と同時に炸裂し、一か月は臭いが消えないと言われている。」
「俺のマスクや服は特殊な素材で作られている。」
「臭いは付かない。」
「だが、店の木材や人の身体には、一か月は臭いが残る。」
「それでもいいか。」
ノヴァは力強く頷いた。
「さっきも言いました。」
「死ぬよりマシです。」
「……よし。」
その頃。
ちもは殴られ、蹴られ、全身傷だらけになっていた。
それでも何度も立ち上がる。
「ちも。」
「下がれ。」
ちもは最後の力を振り絞り、床を蹴ってTaikの元まで退いた。
和田はスメルガンを見て鼻で笑う。
「見たことのねぇ銃だな。」
「そんな玩具で俺を倒せると思ってるのか?」
Taikは静かに銃口を向けた。
「和田。」
「この銃を使うのは、お前で二人目だ。」
「これに耐えられたら、お前の勝ちだ。」
「その時は、俺を殺せ。」
和田は不敵に笑う。
「こっちにはこの女がいるんだぞ。」
「そんな簡単に撃てるわけ――」
そう言って、えだまめを前へ突き出した。
店内にはえだまめの悲鳴が響き渡る。
Taikは静かに答えた。
「了承済みだ。」
――バァンッ!!
スメルガンから放たれた弾丸は、一直線に和田の顔面へ命中した。
「何もないじゃないか。」
「びっくりさせやがって。」
そう言った次の瞬間。
圧縮されていた強烈な臭気が一気に解放される。
「うがぁぁぁぁぁっ!!」
「鼻が……!」
「息ができない!!」
和田はたまらずえだまめを放り投げた。
Taikは素早く鼻栓を装着し、空中でえだまめを受け止める。
そのままノヴァへ渡した。
「任せた。」
そして、苦しみもがく和田の前へ歩み寄る。
「……俺の勝ちだ。」
「和田。」
拳を叩き込む。
続けざまに蹴りを放つ。
体勢を崩した和田の頭を掴み、そのまま床へ叩き落とした。
和田は叫ぼうとする。
しかし、叫ぶたびに臭気を吸い込み、さらに苦しむだけだった。
「ぐあぁぁぁっ……!」
息を吸うたび、強烈な臭気が肺へ流れ込む。
やがて和田は白目を剥き、泡を吹いて気絶した。
「……決着だ。」
「アニキ、流石です。」
ボロボロになったちもが、その場に座り込む。
「まめ!」
ノヴァは慌ててえだまめへ駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「う、うん……。」
周囲にはスメルガンによって放たれた強烈な臭いが残っている。
しかし、えだまめは意外にも平然としていた。
「……匂い、平気なのか?」
ノヴァが驚いたように尋ねる。
「うん。」
えだまめは笑う。
「ノヴァがお風呂に入ってる間に洗濯かごから探して匂い嗅いでるし、ノヴァがいない時にはパンツ頭にかぶって寝てるからね。」
「……そうなのか。いや、無事ならそれでいいんだけど……。」
ノヴァはなんとも言えない困惑した表情を浮かべた。
Taikは周囲を見渡す。
壊れた店内。
残った臭気。
「帰るぞ。」
「後の処理は管理局に任せる。」
「はい。」
ノヴァとえだまめは何度も頭を下げながら、Taikたちを見送った。
その頃。
店から少し離れた建物の屋上。
一人の男が双眼鏡を下ろし、静かに通信機へ口を開く。
「こちら、おーまです。」
「〇〇様。」
「和田とときは確保されました。」
「もう一つの銃の能力も確認しました。」
通信の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえる。
「ふーん。」
「和田がやられるとはね。」
「まあ、よく頑張ったわ。」
「駒が二つ減ったのは痛いけど。」
一瞬の沈黙。
女は、ゆっくりと微笑んだ。
「あいつには、地獄を見せてあげる。」
「ヒーローなんて、この世に必要ないのよ。」
そう言い残し、通信は静かに途切れた。
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ノヴァぁぁんカフェを離れた帰り道。
ちもは傷だらけの身体を引きずるように歩いている。
Taikは通信機を取り出した。
「こちらTaik。」
「事件は解決した。」
「回収班を手配してくれ。」
「犯人二名を確保。」
「それと、負傷者が一名だ。」
『了解。至急向かいます。』
通信を切る。
しばらくして、管理局の回収車が到着した。
隊員たちは和田とときを車へ乗せる。
「ちも。」
「はい、アニキ。」
「今日は管理局でゆっくり休め。」
「治療を受けて、そのまま休養しろ。」
「俺は和田とときを引き渡したら、テイクカンパニーの様子だけ見て帰る。」
「……はい。」
車へ乗り込む前、ちもが振り返る。
「アニキ。」
「もう任務も終わりですし。」
「いつも通り、『もち』って呼んでください。」
「分かった。」
Taikは小さく頷く。
もちは回収車へ乗り込む。
ドアが閉まる直前、窓を開けた。
どこかいたずらっぽく笑いながら、Taikを見る。
「アニキ。」
「一つ聞いてもいいですか?」
「ああ。」
「女は助ける価値がないって言ってたのに……。」
「私のことは助けてくれましたね。」
「どうしてですか?」
Taikは少しだけ考え、静かに答えた。
「ああ。」
「お前を女だと思ったことはない。」
「……。」
もちの表情が固まる。
「炎よ――」
もちが手をかざす。
Taikは思わず一歩後ずさる。
「爆発魔法はやめろ。」
もちが吹き出した。
「ふふっ。」
窓がゆっくりと閉まる。
管理局の回収車は静かに走り出した。
Taikは遠ざかっていく車を見送り、一人歩き出した。
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あの事件から、一か月が経った。
TaikはBLACK Taik管理局へ足を運んでいた。
「おお、Taikか。」
澪が声をかける。
Taikは軽く手を挙げた。
「和田とときはどうだ。」
澪は小さくため息をつく。
「やっと臭いも消えてきたよ。」
「和田も普通に話せるようにはなった。」
「でも、何を聞いても同じなんだ。」
澪は少し困ったような表情を浮かべる。
「『あの人の命令だ。』」
「それしか言わない。」
「ときも同じだ。」
澪は肩をすくめる。
「『あの人』か……。」
Taikは腕を組み、小さく呟いた。
「まあ、今回もお疲れ。」
「今回はずいぶん苦戦したみたいだな。」
澪はTaikの反応を待った。
Taikは小さく笑う。
「俺の目標のためなら、この程度どうってことない。」
「目標?」
澪が興味深そうな表情を浮かべる。
Taikは少し黙り、静かに話し始めた。
「五年前。」
「もちの夢に、みけちという奴が現れた。」
「自分は神だと名乗り、爆発魔法の存在を教えたらしい。」
「俺は最初、ただの夢だと思っていた。」
「だが、その夢がきっかけで、もちは爆発魔法を使えるようになった。」
Taikは少し視線を落とす。
「あの夢がなければ。」
「もちは爆発魔法を使うこともなかった。」
「爆発魔法を使った時。」
「もちは炎に囲まれ、倒れて身動きが取れなくなった。」
「SHOWTIMEがなければ、助けられなかった。」
「……死んでいたと思う。」
澪は腕を組む。
「それがどうした?」
Taikは静かに答える。
「その時、思った。」
「あいつの目的は、本当に爆発魔法を教えることだったのか。」
「それとも……。」
「最初から、もちを殺すつもりだったのか。」
澪は少し考え込む。
「でも、未来が見えるなら、お前が助けることも分かってたんじゃないか?」
Taikは首を横に振る。
「いや。」
「SHOWTIMEは時間を止める。」
「未来が見えていても、未来は変えられる。」
「だから、あいつにも読めなかった可能性がある。」
しばらく沈黙が流れる。
Taikは静かに拳を握り締めた。
「もちは。」
「大切な秘書であり。」
「俺の相棒でもある。」
「物心ついた頃から、ずっと隣にいた。」
「俺にとっては、妹みたいな存在だ。」
「そんなもちを危険な目に遭わせた。」
「俺は、みけちを許さない。」
Taikはゆっくりと空を見上げる。
「みけち。」
「神だろうが何だろうが関係ない。」
「いつか必ず……。」
Taikは拳を強く握り締めた。
「みけちを殺す。」
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