第91話 「夏休みの予定、それは大型アップデート」
期末テストが終わると、校内の空気は一気に夏休みへ向かった。
教室では、あちこちで予定の話が飛び交っている。
海。
花火大会。
旅行。
夏期講習。
部活の合宿。
推しのライブ。
限定グッズ販売。
アキラにとって夏休みとは、外に出る季節ではない。
冷房の効いた部屋で積みゲーを消化し、録画アニメを消化し、推しイベントに備え、世間の陽キャイベントから安全距離を取るための長期防衛期間である。
(夏休み。それは現実世界から一時的に距離を置ける貴重なセーブ期間)
しかし、今年は少し違った。
トオルが聞いてくる。
「黒瀬、夏休み何すんの?」
「積みゲー消化。録画消化。推しイベント参戦準備。あとは外界との接触を最小限に」
「会長とは?」
アキラはシャープペンを落とした。
「なぜそこでミレイ先輩が出る」
「いや、夏休み会えなくなるだろ」
その言葉で、アキラは固まる。
夏休み。
学校がない。
つまり、毎日のように生徒会室へ行く理由がなくなる。
ミレイに会う頻度が減る。
その事実に、今さら気づいた。
(それは……困る)
アキラは自分の胸の中に生まれた感情を慎重に観察する。
寂しい。
たぶん、寂しい。
いや、かなり寂しい。
(夏休みが楽しみではなくなる日が来るとは。現実が大型アップデートされすぎている)
放課後、生徒会室へ行くと、ミレイが夏休み前の資料を整理していた。
「黒瀬くん、もうすぐ夏休みね」
「はい。長期ログアウト期間です」
ミレイは少し首を傾げる。
「学校から?」
「はい。通常登校からはログアウトです」
ミレイは少しだけ寂しそうに笑う。
「そうね。しばらく、毎日は会えなくなるわね」
その言葉が、アキラに刺さる。
ミレイも同じことを考えていたのだろうか。
アキラは何か言おうとして、言葉に迷う。
「夏休み中も、生徒会の仕事はありますか?」
ミレイが顔を上げる。
「ええ。何日か登校する予定はあるわ」
アキラは妙にほっとする。
「必要なら、手伝います」
ミレイは少し驚いた後、嬉しそうに微笑む。
「ありがとう。黒瀬くんが来てくれるなら、とても助かるわ」
アキラは思う。
(助かる、か。僕も助かる。会う理由ができる)
しかし口に出す勇気はなかった。
◆オチ
帰宅後、アキラは夏休み計画表を作る。
姉のマドカが覗く。
「何これ。生徒会手伝い日、赤丸ついてるじゃん」
アキラは真顔で答える。
「重要クエストだから」
マドカは笑う。
「違うよ。デート候補日だよ」
アキラは計画表を裏返した。
「予定表に恋愛属性を付与するな」




