配信勇者はスパチャで最強!?
「じゃあもう一回だけ説明するね! 私はマリカ・ツルガオカ! 異世界に来て勇者をやってますっ!」
「言ってる場合ですの!? あああドラゴンがきてますわぁ!!」
どがしゃん。
崖を削りながら赤いうろこのドラゴンが追いすがる。
「ドラゴンヤバすぎ! 髪とか焦げるんですけどっ!」
「左右に避けますわよ! 1、2の……3!」
街道を走り抜ける私たちを狙った火球。
喉の奥で火花を散らしたドラゴンの狙いを散らすために反対方向へと跳んだ。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「あはは、おおげさすぎだよ~」
頭を抱えて茂みに飛び込みながら叫ぶ私に、黒髪の勇者が笑いかける。
道の真ん中には爆発のくぼみと黒煙が立ち上っていた。
「どこが大げさなんですの!? あんなの喰らったらこんがりトーストですわ!」
「ってわけで今日はあのドラゴンを倒していきたいと思いまーす!」
「誰に話してますの!!? 来てる来てる! ドラゴンが来てますわ!!」
ドラゴンは火球が命中しなかったことに腹を立て、咆哮を上げてどしどしと距離を詰めてきた。
私たちは街道を走り、距離を稼ごうとする。
「でもシンシア、あれを倒さなきゃ今日の宿がなくなっちゃうわけでしょ?」
「物理的にですわ!? なんで朝からドラゴンが襲撃してきますの!」
「勇者だからしょーがない?」
どかん。
また背後で爆発音が響く。
「ぁあぁああ!」
「盛れてる? 逆光かあ」
「その"自撮り"とやらは本当に意味がありますの!?」
「あるある。これしないと全然力が出ないんだよ~」
勇者は、片手に握った黒い板に向かってポーズを決めながらぼやく。
角度を変えながら何回も試し、う~~んと首をひねった。
「いずれにしても逃げてるだけじゃ埒があきませんわ!」
「そうだね~。ん?」
「た、たすけてくれぇ……」
視界の先に、倒れた馬車が見える。
馬はなく、ドラゴンに驚いて逃げられたようだ。
「シンシア! 誰かいる!」
その声だけは、さっきまでと違った。
軽くて、ふざけていて、どこか掴みどころのない勇者の顔から、笑みが消えていた。
「い、今気にしている場合ですの!?」
勇者は足を止め、馬車の幌をめくって中を暴く。
「足が、足が……っ」
「この人、足を怪我してるんだ」
「ど、ドラゴンが来てるのにどうするんですの!」
振り向けば涎を垂らして両腕の翼を大きく羽ばたかせたそれが迫る。
とっさに長杖を地面に突き立て、魔法を準備した。
「隔て、護り、押し留めよ。【守護壁】!」
瞬間、大きく開かれた口から灼熱の火炎が放たれる。
間一髪で魔法が間に合ったおかげで私たちは免れたけど。
「い、やぁっ!! 喰われますわ!!?」
その間にも距離を詰めてきたドラゴンがもうすぐ近くに居た。
うろこの隙間から赤熱した火の粉を散らし、両翼を大きく広げて威嚇する姿は、頂点捕食者の一端にふさわしい威容。
「シンシア、ナイスっ! あとは任せて!」
パニックに陥りかけた耳に、勇者の声が届く。
「任せるって、ドラゴンはもういただきますしてますのよ!?」
「みんな、瞬き禁止っ!」
だん。
地面を強く踏んで前に出た勇者。
気を引くためか何度か板から閃光を発し、ドラゴンの頭に肉薄した。
「た、食べられてしまいますわっ!」
「せーのっ!」
再度火球を放とうとするドラゴン。
しかし、勇者は臆することなく、脚部を駆け上がる。
足、膝、そして翼の付け根を踏み台にして背中に登ってしまった。
「ピンチはチャンス。キミの名前は何にしよっか?」
「それは……手綱?」
勇者が手に持っていたのは、馬車から持ってきた手綱だった。
それをドラゴンの首元に回してひねる。
「いくよ? きらパシャ!」
不快感に頭を振り回すドラゴンを手綱で操り、天に向けて火球を放たせる。
そのタイミングでパシャパシャと"自撮り"の音が鳴った。
「ど、どうですの!? 勇者の力は……っ」
勇者は自撮りの儀式で能力を高める。
いまだににわかに信じがたいことだけど、私は藁にもすがる気持ちで問いかけた。
「……きた。きたきたきた~~っ! ぶちアゲ急上昇! スパチャさんきゅ~!」
ぶちぶち、とドラゴンが手綱を引きちぎるのと同時に勇者が飛び跳ねる。
そのまま、板を構えて火炎を蓄えた口腔に向けた。
「いっくよ~! スパチャビーム!!」
カッと放たれた閃光。
板から放出された一条の虹が、火焔ごとドラゴンの首を焼き尽くす。
「こ、これが勇者の力……。意味不明ですわ」
「うぉ~! やばくない? めっちゃビームでた! 赤スパえぐ~!」
「ゆ、勇者? そのスパ? スパチャとはなんですの?」
いまだ死を理解せずにうごめくドラゴンの胴体から降りてきた勇者に訊く。
「え? 投げ銭。すごい自撮り出来たら神様がくれんの」
「ゆ、勇者さま! ありがとうございますっ! ありがとうございます!」
そこへ、会話に割り込むように馬車の中の人が拝むように這い出た。
「……とにかく今は救助ですわ!」
「おっけ~」
足を折った様子の男性に介抱をして、ふと勇者を振り返ると一仕事終えた彼女は虚空に向かって愛想よく手を振っていた。
「いやー今日もスパチャありがと~っ! 勇者の活躍をもっと見たいよ! って人は高評価とチャンネル登録よろしくね!」
「だからスパチャってなんなんですのぉ!?」
おしまい。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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