死亡フラグ回避に飽きたので、悪役令嬢らしく悪の組織をプロデュースすることにしました
長編も連載しています!
最終話まで予約投稿しているので未完のまま終わることはないです!
興味ある人はぜひ、名前のところをタップして作者マイページに飛んでいただけたら嬉しいです。
鏡の中に映っているのは、絵に描いたような清楚な深窓の令嬢だった。
艶やかな銀髪は一筋の乱れもなく整えられ、伏せがちな瞳と、控えめに結ばれた唇。誰が見ても、非の打ちどころのない貴族令嬢である。
乙女ゲーム『ルミナス・ラブロマンス』に登場する悪役令嬢、セレスティーヌ・ド・ロシュフォール。
本来の彼女は、傲慢で高慢、聖女を妬み、王太子に執着し、その果てに処刑される運命の女だった。
だが、鏡の前に立つ今の私は、そのどれでもない。
転生してから十年。
私はただ一つの目的のために生きてきた。
処刑台へ続く片道切符を、何としても破り捨てること。
ヒロインへの嫌がらせ?
するはずがない。そんな愚行に意味はない。
攻略対象への執着?
論外だ。浮気癖と虚栄心だけは一人前の男に、人生を賭けるほど愚かではない。
私は徹底して、無害で、無色で、記憶に残らない存在を演じた。
壁に咲く一輪の野花のように。毒も棘もなく、そして華もない「都合のいい令嬢」。
その結果、ついに卒業パーティー目前まで漕ぎつけた、はずだった。
「……この人生、めちゃくちゃごみじゃない?」
誰に聞かせるでもない呟きが、静かな部屋に落ちた瞬間、胸の奥で何かがぷつりと音を立てて切れた。
この十年、私は何をしてきた?
王太子の鼻につく浮気現場を、見て見ぬふり。
聖女の奇跡を、棒読みで称賛。
己を削り、感情を殺し、嵐が過ぎるのを待つだけの人生。
机の上に置かれた報告書に、視線が落ちる。
そこには、第一王子エドワードが聖女と親密に語らいながら、私に罪を着せ、婚約破棄を企てている証拠が淡々と記されていた。
なるほど。
慎ましく生きた結果が、これ。
努力の結晶が、濡れ衣と追放、あるいは死。
「……ふん。笑わせるわね」
私は静かに、淑女の仮面を脱ぎ捨てた。
鏡の中の令嬢が、豹のように鋭く、妖艶な笑みを浮かべる。
そうだ。
これこそが、本来のセレスティーヌが持つはずだった――“悪役”の輝き。
「どうせ破滅する運命なら、最後に世界をあっと言わせてから死んでやるわ」
ただ死ぬなんて、私というリソースの無駄遣いだ。
クローゼットの奥から、封印していた深紅のドレスを引きずり出す。
派手すぎる、目立ちすぎる、悪役令嬢らしすぎると、自分で閉じ込めた一着。
「お淑やかなセレスティーヌは、今日で終わり」
口角が自然と吊り上がる。
「これからは、私の好きなように悪役を演らせてもらうわ」
まずは――そう。
あの色ボケした二人に、本物の“悪”というものを教えてあげなくては。
⸻
卒業パーティー当日。
王立アカデミーの重厚な扉が開いた瞬間、会場の喧騒は文字通り消え失せた。
現れたのは、これまでの地味で控えめな令嬢とは似ても似つかぬ、苛烈な美貌を纏うセレスティーヌだった。
エスコートも連れず、ただ一人。
夜を凝固させたような漆黒のドレスに、鮮血を思わせる深紅の刺繍。
彼女は、まるで凱旋する女王のように、堂々とレッドカーペットを歩く。
鋭い視線に射抜かれ、貴族たちは無言で道を開けた。
「……セレスティーヌ・ド・ロシュフォール!
貴様、その破廉恥な格好は何だ!」
会場中央、聖女を庇うように立つエドワード王太子が、顔を赤くして怒鳴りつける。
「聖女に対する陰湿な嫌がらせの数々、証拠は挙がっている!本日をもって婚約を破棄し、国外追放を言い渡す!」
ざわめきが走る。
同情、疑念、好奇の視線が一斉に向けられる中、ロシュフォール公爵夫妻が一歩前に出かけた。
だが、セレスティーヌは扇子を開き、両親にだけ見える角度で小さく首を振った。
手出し不要。
無事に伝わったようで、2人は動きを止める。
「身に覚えのない罪状ばかりですこと。殿下、その“証拠”とやらは後でゴミ箱に捨ててくださいませ。時間の無駄ですから」
「なっ……罪を認めぬというのか!」
「ええ。認めませんわ。ですが――」
彼女は、ふわりとカーテシーをした。
それは敬意ではなく、幕を下ろす役者の礼。
「婚約破棄、喜んでお受けいたします。
これほど趣味の悪い殿方と一生を共にする苦行から解放されるなんて、最高の卒業祝いですわね」
会場が、凍りついた。
セレスティーヌは踵を返す。
「セレスティーヌ、待て!」
反射的に伸ばされた王太子の声を、彼女は背中で切り捨てた。
「無礼ですよ、殿下。
私はもうあなたの婚約者ではありません。
ただの公爵令嬢を、気安く名前で呼ばないでくださいませ」
その一言に、圧倒的な威圧が宿る。
追おうとした衛兵たちは、誰一人として動けなかった。
コツ、コツ、とヒールの音だけが響く。
夜風が頬を撫でる。
セレスティーヌの唇が、愉悦に吊り上がった。
「さて。これで名実ともにフリーの『悪役』ね。……待ってなさい、『ナイトメア・ギルド』。私があなたたちを、世界で一番の悪党に仕立て上げてあげるわ」
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