第7話 神の縛鎖
「正直に言えば、勇者の剣を剥奪した上で額冠の力も封じたかったのですが、残念ながらワタクシ達にはその様な権限はありません。ですが、力を封じる為の特別な宝具をワタクシ達は所持しているのです。」
なんと言うか手枷であることには間違いないのだが、真っ白でやたらとキレイな装飾が施されておりただの拘束具ではないことは見た目ではないのがわかった。恐らく重さと手首に伝わる冷たさからして金属製ではあるようだが、どこからはめ込んだのか、どこを見ても閉じ口が付いていない! 最初から手首を入れるための二つの穴しか開いていないようなデザインだ。
「その手枷の名は”神の縛鎖。かつて神が反逆を企てた天使を拘束するために使われたと言われる宝具です。」
「そういえば聞いたことがある。伝説の魔獣を捕縛するために使われた拘束具と同じ材質で作られているとかいうアレか?」
え? 何? シャックリオブグレープフルーツ? 何それ、美味しいの? しゃっくりが止まらなくなって100万回したら死ぬとかみたいな呪いでもかかってるのか? それはともかくファルが何か知っているようだ。聞いてみよう。
「知っているのか、ファル?」
「ああ。アレは正邪問わず、あらゆる力を封じる拘束具だ。さっきの話にもあったが、天使でさえも力を削がれ、ただの人間みたいにしてしまったり、巨躯を誇る魔獣ですらも首輪に繋がれた飼い犬みたいに大人しくなるって代物だ。」
これは着けた者の力を奪う手枷なのか。確かに何をしても外せそうな気がしない。力が込められない様な感じがするのだ。付けられてからなんというか倦怠感みたいなのが感じられるようになった。実際、額冠から付加されている力が無効化されている実感がある。
「ひえぇ!? 俺は犬みたいになるの? ワンワン! キャンキャン!」
「今から捕まるっていうのに、バカなことをやってる場合か?」
「いや、まあ、何となくおバカ行動でもしとかないと気が持ちそうにないじゃない?」
「……。」
多少は余裕を見せておかないとね? 特にエルが心配しそうだから、こうでもしておかないといけない。あんまりへばっているようだと周りのみんなが黙っていないかもしれないのだ。ただでさえ、険悪なムードが漂っているので何かの切っ掛けで争いに発展しかねない状況なのだ。
「しかし、手枷か。下手な手を打ったな、オードリーさんよ。」
「何が言いたいのです、ファル・A・シオン?」
「こいつの剣がどういう事になっているのか知らなかったのか?」
「剣? それがどうかしたのですか? 手枷をはめられた今、彼は武器すら握れない状況でしてよ?」
どういうことだ? ファルの言いたいことが何を示しているのか理解できなかった。俺の剣は今抜けない事はわかっているはず。昔と違って剣は俺の体の一部となっている。フェルディナンドの時の様に奪われたりしないように義手として機能するようにしたのだ……って、それの事を言いたいのか? 義手だから外せると……、
「おい、見せてやれよ、相棒? お前の勇者の剣が今どこにあるのかを!」
「ん、ああ。言いたいことはわかる。でも、見せたところでどうにもならないんだよな、これが。」
「何を言ってるんだ、お前は! その右腕の秘密を教えてやれ!」
「義手だから外せると言いたいんだろ? でも……無理なんだ。」
「何を言って……、」
義手なら外せるし、それだけなら額冠とか特別な力を借りなくても出来る……と踏んだのだろう。確かに着けて間もない当初、フェルディナンドと戦った頃や聖歌隊にお世話になってた頃の途中までは外せたのだ。でも今は……、
「実は外せなくなっちゃったんだ。最初の頃は外せてたんだけどな。」
「そんな馬鹿な事があるかよ! 義手なんだぞ? 体の一部って訳じゃないんだ! お前とは別個の物じゃないか!」
「そう思うだろ? でもな、最近は違ってきてるんだ。もうなんか、体の一部みたいになってるって言うか……。妙に馴染んできたと思っていたら完全に体の一部になっちゃってるみたいなんだ。」
着けた当初から割りと思う存分に動かせはしたが、馴染んでいなかったから少し違和感は残っていた。だけど次第に違和感がなくなっていって……気付いた頃には義手であることすら忘れてしまっていることが多くなってきたんだ。そして、外せなくなっていることにも気付いた。
最近やけに奇跡的な効果を発揮すると思ってたんだ。伸縮してパンチが出来るようになったり、壊れても再生するくらいに奇跡的な状況が起きていたが、デメリットとして”外せない”という効果が出来てしまったようなのだ。
良いことだけで済むと思っていたんだが、こんなときにデメリットとして機能してしまうとは……。誰も予測し得なかったアクシデントだった。
「ホホホ! これこそ神のお導きですわ! 神が貴方を今まさに、捕えよとの思し召しなのです! 神はいつでも見守っていてくださるのよ。これで諦めもついたでしょう、騎士団の皆さん?」
ぐうの音もでない。今までは奇跡的に色々とやり過ごせては来たが、今回ばかりは相手が悪い。神を味方に付けている勢力が相手では額冠もお手上げなのかもしれない。というか普通は敵に回ることのない勢力を相手にしてしまったのだから、敵うはずもないのだ……。




