第58話 狂戦士の兜・改
「あれから一月も経ってないっていうのに、随分な変わりようじゃないか?」
「グルアッ!!」
(ゴギッ!!!!)
相手の肉厚の大剣と自分の棍棒が打ち合い、激しく火花を散らしている。相手はこれで二回目の勝負となるブレンダン。ハリスの塔の中でも一戦交えたが、こちらが手加減できる程の強さでしかなかった。例え切り札の狂戦士の兜を使われたとしても。だが、今はどうだ? 割と最初から俺と肉薄できる程の膂力を得ているんじゃないか?
「ひょっとして、コイツに何かした? 力が割り増しになってる気がするよ?」
「彼は心を入れ替えたのですよ。例の塔では成果を上げられなかった上に、上司への反抗。二度にわたる失態により彼は再教育を受けたのです。その際に新装備も与えられ、新たに生まれ変わったのですよ。」
高みの見物を決め込んでいるシャルルにブレンダンの事を聞いてみた。ヤツの使っていた兜には変わった機能が付いていた。フェイスガードを下ろすという行為でスイッチが入り、認識能力の向上を図ったり、体のリミッターを外して戦闘能力を上げる効果があったはず。
天翼騎士の鎧の効果を部分的に再現した物らしいが、オレの様な魔王には到底及ばない物でしかなかった。それがどうだ? 今は力その物すら増えている様な感じだ。前のとは明らかに違う。
「新装備……ね? ちょっと兜の覆う部分が増えただけじゃないの?」
「あくまで見た目だけですよ。それの本質は性能です。性能自体は当方比では10割増しと言うところですかね。」
「要するに2倍ってことだろ? わかりにくい表現を使うなよ。」
「おやおや、良くおわかりのようで? 少し煙を巻く様な表現を使えばわからなくなるかなと思いまして。少しは教養があるようですね?」
「舐めんじゃないよ!」
(ドゴッ!!!)
武器同士で鍔迫り合い、力比べをしている状態から相手を蹴り飛ばし間合いを取った。いつまでも力比べをしていても面白くないからだ。元はオレが少し本気を出せば余裕で倒せそうなくらいのヤツでしかなかったんだ。しかも今回は他にターゲットが二人いる。手早く倒して、審問会を崩壊させないといけない。それが今回の目的だからだ。武器を振りかぶり最大の一撃の構えを取った。
「魔王の一撃、ブレイク・ダスト!!」
「来ましたね! 魔王の一撃!!」
(ドッゴォォォォッ!!!!!)
渾身の力で武器を振り下ろしたが、以外にも手応えがない。振り下ろす途中で止められた。相手がオレの攻撃を受けきったのだ。以前のヤツなら耐えきれずに武器ごと粉砕できるくらいの威力はあったが、今のアイツは見事に受けきった。それなりに無理はしているようだが、耐えきったのは事実だ。
「フーン。こっちが本気出してないとはいえ、耐えきるなんてね。普通の人間なら絶対死んでるよ、コレ。」
「当然の結果ですよ。彼は悔い改めて、人間の限界を超えたのですから。」
「ああ、もう完全に人間やめちゃったワケだ?」
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ。彼は神に身を捧げる覚悟をしてまであなたと対峙することを選んだのですから。」
オレの一撃を受けきったブレンダンは後方へある程度後ずさりしたものの、五体満足で済んでいる。でも、見た目ではわからないダメージが残っているためか、硬直したままでしばらく動かないままでいた。そこにすかさず片腕が義手の女が神聖魔法で回復を行い始めた。なるほど。サポート要員もいるから気兼ねなく無茶をする判断を取らせたワケだ。
「なるほど。馬車馬みたいに酷使するなと思ったら、それか。回復要員を使ってまで力業で持たせるわけだ。エグいね。」
「あなた方魔王に対抗するにはこういう手段を取るしかないのですよ。あなた方には無尽蔵なエネルギー源、デーモン・コアを供えているのですから。」
ああ、これでボロ雑巾みたいになるまで、こき使われるんだ。あの兜は聖天使の鎧装と似た力を持っているっていっても、体の方は全然カバーしてない。全身を覆い尽くすことでアクセレイションやリザレクションに相当する効果を得られるんだから、アレにはそういう機能はない。
体のリミッターが外れきった行動を繰り返していると、いずれはガタが来て体が壊れるはず。あんな回復魔法で持たせられるわけがないんだ。オレを倒すためだけに一人の人間を使い潰すつもりでいるんだろうな。
「一人の人間を使い潰すだけじゃなくて、オレにも本気を出させるつもりはないんだろ? 捕食獣の王形態になれないんだもん。」
「ほう? 良いことに気がつきましたね。その通り、あなたには力を出させるつもりはありません。ここは対魔族用処置室”強力脱魔槽”と呼ばれる場所でしてね。闇の力を強力に縛り、聖なる光の力を増幅させる効果があるのですよ!」
そういうことか。どうりで何かフタをされたみたいな感覚がして一定以上の力が出せないんだ。ここじゃ本気を出せない、と思っていたらコレだ。新たな勇者を擁立するためのお膳立ては十分に練られた計画の上で行われているようだ。しかし、勇者はともかく、オレ達の襲撃をどこまで読んでいたんだろうな?
「手の込んだ場所を用意したね。やたらと用意周到じゃないか?」
「当然ですよ。私はかつて魔王から手痛い目に遭わされた経験がありますから当然の対策をしたまでです。”勇気の共有”も厄介ですが、デーモン・コアも恐るべき力を持っていますからね。」
なるほど。オレ達と勇者を引き離したもう一つの理由が見えてきたぞ。勇者がここにいれば強くなってしまうから、別の場所に分けたんだ。オレ達の力を互いに引き合わせないようにするためにこんな用意周到なマネをしたんだろう。やってくれるじゃないか。何が何でも勝ちたくなってきたじゃないか。




