第45話 誰も知らない、訳も知らない男の最後……。
「結局、隊長代理は負けたのですね。所詮、代理に過ぎなかったというわけですな。」
次の三戦目、とうとうあの名無しの男の出番になるなと思っていたところ、いつの間にか意識を取り戻していたスミスがギリーに対して評価を下していた。何かと偉そうにしていたのが気に食わなかったのか、隊長には相応しくないと思っていたのだろう。代理という肩書きを意地でも外さなかったのはブレンダンをリスペクトしているからなのだろうか?
「よく言うぜ。素手の死刑囚相手に無様な負け方をしたのはお前も同じだろうが。」
「ちっちっち! そこは違うのですよ。私は”勇者”と死闘を演じた末に負けたのです。むしろ負けたとしても誇らしいのです。でも、どこかの代理さんはその他大勢のそこらのチンピラさんにあっけなく負けたのですよ? しかも武器を使ったのに素手の相手に負けたのです! ここは重要です! テストに出ますよ!」
「何のテストに出るんだよ!」
スミスは口の前に人差し指を立て首を横に振るジェスチャーをしてから言った。勇者か一般人、どっちに負けたのが恥ずかしいのかと俺達に問い、自分の負けは胸を張る価値があると豪語している。
そういう意味では代理は無能ですよね、と言いたいのだろう。確かに処刑具は何個か用意してそうだった割にはNo.3だけで終わったし、しかもそれが不発だったので目も当てられない結果になったのは事実だが……。
「じゃあ、はい、アナタも処刑台に大人しく縛られてください。進行に差し支えますので。」
「クソ、どうせ負けるのはお前らの方なんだから、無駄なマネは止めろ!」
「無駄なもんですか。むしろアナタの抵抗やこれまでの勝敗結果の方が無駄でしょうに。次の出番の方に何が出来るのでしょうか?」
隊長代理に対しての評論をキリの良いところで止め、スミスはイツキを再び処刑台に括り付けるよう、カボチャ兜に指示を出した。それもスムーズに終わり、名無しの男の拘束が解かれたのだが、ヤツはその場にへたり込んでしまった。やはり何も変わっていない。まだ目は虚ろなままでブツブツと呟いているだけだった。
「この状態で戦えるのでしょうか? 棄権された方がよろしくありませんか?」
「何言ってやがる! 俺達を即刻負けにするつもりかよ!」
「だって、このまま始めても結果は変わらないと思うんですよ? この方が先に処刑されるか、アナタ方が三人揃って一斉に処刑されるかの違いしかないと思うんです?」
「やってみないとわからないだろ!」
結果は変わらない……それに反論したいところだが、今の様子を見ると口をつぐんでしまう。確かにあのまま始めてしまえば相手のなすがまま、嬲り殺しにされてしまうだろう。相手はあの大男、圧倒的な力でねじ伏せられ、無残な姿に変えられてしまうかもしれない。
例え素手でも八つ裂きが出来そうなくらいに、あのカボチャ兜の腕力は強い。俺達が拘束を解かれたり、再び縛り付けられた時に感じただけでもその圧倒具合は確かなものだったのだ。
「やってみないとわからない? 何をおっしゃいますか。ひとたびジャックの手にかかってしまえば、彼はただの肉塊と化してしまうでしょう。私や隊長代理とは比較にならないような無残な光景を作り出すでしょうね?」
「そいつだってただの人間じゃなさそうだぜ。体型を見りゃあ、ある程度は戦闘経験はあるはず。じゃなきゃ、あんな発達した筋肉なんて付いてるはずがない。少なくとも、この勇者よりは戦い向きの体をしてるのは間違いない!」
「フムフム、それは間違いないでしょうね? 罪人でなければ、隊長がスカウトしていたかもしれません。実力は計り知れませんが、戦士としての素質があると見て、自分の部下として育て上げる決断を下していたかもしれんませんな。結局の所、隊長は不在になってしまったのであり得ない話ですが。」
意思の疎通が図れず、名前とか素性は一切わからないが、体型を見ればただ者じゃなさそうなのはわかる。その風貌は正に”戦士”なんだ。あんなに体格に恵まれた戦士なんて何処にでもいるわけじゃない。梁山泊にすら滅多にいなかったレベルだ。
むしろ何故、記憶を失った状態で茫然自失となってしまったのか、と考えずにはいられない。こんな薄暗い場所であっけなく人生を終えるのは勿体ないと思わせるほどの逸材だと思う。
「どれだけ素質が優れていようと、記憶も失い自我も失っているようでは、何の役にも立ちません。しかも彼は犯罪者。こちらで殺処分をせざるを得ないのです。」
「待て! アンタ、彼の罪状を知らないのか?」
「知らないわけないじゃないですか。怪しげなモノを所持していたという話でしたね? アレの正体は気になるところですが、危険なモノには違いありません。そして、アレを使いこなせるのだとしたら、人類の脅威以外の何者でもありませんよ。それが教団の下した結果であれば尚更です。この世から抹消しなくてはいけないのですよ。」
やはり他の受刑者が言っていた噂は本当だったんだ! ワケのわからない武器とも断定しがたい何かを持ってふらついていた。でも、ただそれだけで処刑されるなんて理不尽すぎる。ただ、持っていたモノにデーモン・コアみたいな物が付いていたというだけで……。魔族とかそういう害を成した証拠すらないのに無慈悲な鉄槌を下されるというのだろうか? そんなこと絶対にあっちゃいけない!
「前置きが長くなりましたが、そろそろ始めましょうか? ジャック、アナタの出番ですよ。」
「グオオゴゴ!!」
カボチャ頭は動き出した。その肩には何やら武器のような物を担いでいる。太い鎖につながれた巨大な鉄駕籠の様な物……。どういう用途なのかは見ただけではわからない。得体の知れなさが恐怖心を煽る! あの駕籠はよく見れば人一人がギリギリ入る程の大きさになっている……。まさかアレの中に相手を入れようと言うんじゃないだろうな……?




