第44話 屁の突っ張りはいらない系?
「意気地がない? 誰のことを言ってるんだ? なんだか、自分が有利な状況じゃないとロクに戦えない処刑人様にはお似合いの形容だと思うんだが?」
「犬っころが吠えてんじゃねえぞ! お前の立場ってモンを今からわからせてやるぜ!」
まだ戦い始まっていないというのに、二人の口げんかはますますヒートアップするばかりだった。これで実際戦いが始まったらどういうことになるのかと、波乱を感じさせるようなやり取りであった。しかも、武器の有無だけではなく、イツキは右肩を刺されて怪我をしたままだ。今のところイツキに不利な要素しか存在していない。どうするんだこれ?
「さぁて、準備が整ったところで、押っ始めようじゃないか?」
「意外と拘束を解かれる間は襲ってこないんだな。さては俺にビビったな?」
「うるせー! どの処刑具を使うか算段してたんだよ。絶対に勝てるからこその余裕を見せてやってんだよ!」
拘束されたままでもいいとか行って割には途中で襲いかかるようなことは全くなかった。下手をすれば味方のカボチャ兜に攻撃が当たってしまう恐れがあったからかもしれない。図体がデカいのでイツキが盾のように身代わりにするような動きを取られかねないと判断したのだろう。両者とも口は達者だが、慎重に事を運ぶタイプな様である。
「まずは処刑具No.3、草刈り鎌だ! コイツでお前の首を草でも刈るように斬ってやる!」
「さすがバッタ野郎だけあって草刈りかよ。そんなもんで首が切れると思うなよ!」
ギリーが取り出したのは先に三日月型の刃ついた鎖だった。それを回しながら回転速度を速め、速度が乗ってきたところで頭上に掲げてイツキへとゆっくり迫っていく! ただ武器の有り無しだけじゃなく、リーチの上でもかなりの差を付けられてしまったことになる。せめて盾とかでもあればアレを止めるのに使えるんだが……。
(ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!)
「おらおら! 早くなんとかしないと首やら腕やらが飛んでしまうぜぇ!!」
「クッ、調子に乗りやがって!」
回転する鎌に牽制され、イツキは後ろへ下がるしかなかった。素手であるために防ぐ手段がないため、どうしても消極的な回避方法を取らざるを得なくなってしまうのだ。だが、それもいつかは終わりが来る。ここは外ではなく屋内だ。下がり続けるうちにイツキは背中が壁に接してしまう事態となった。
「ぐへへ! もう後がないぜ? どうする? ここで大人しく降参するんなら、死体だけは綺麗に残るような殺し方をしてやってもいいんだぜ?」
「そんなのは全くごめんだ! どうせやるなら派手にやってやるさ!」
「派手に死ぬのが望みかよ! 華々しく血をまき散らして死んでいきな!!」
(ヒュン!!)
ギリーが鎖鎌の刃をイツキへと向かわせた。イツキはそれを読んでいたのか、しゃがんで身を躱す! 標的を見失った鎌は壁に当たり派手に音を響かせる羽目になった。その間にイツキは低姿勢のまま足先からギリーに体当たりしていた! 足下を狙ったスライディングをお見舞いしていたのだ! ギリーは不意を突かれて転倒した。
「ぐわっ!?」
「かかったな、俺の策に! こうなるのを狙ってたんだ!」
(ガッ!!)
イツキはあっという間にギリーを制圧した。ギリーの背後から両腕を脇の下に通し、相手の後頭部で自分の両手を組んだ状態で拘束したのだ! これはジェイも使っていた体術だから見たことがある! 相手の首と肩を圧迫しつつ拘束するという技。しかもイツキはそのままブリッジのような体勢へ移行しつつ、ギリーを後方へ叩き付けようとしていた!
「ウルフ・ハウリング・スープレックス!!」
(ゴギッンッ!!!)
「ゲボアッ!?」
ギリーはそのまま頭部を地面に叩き付けられる羽目になり、そのままグッタリとして動かなくなった。その間にもイツキの体はブリッジの姿勢を維持していた。なんという美しい姿勢だ! こんな技、並大抵の身体能力がないと実現できない! コイツがここまでの体術の使い手とは思わなかった。
「ふう、なんとかこのスットコドッコイを仕留めることが出来たな。」
「お前! やるじゃないか! 武器がなくても戦えんじゃん!」
「芝居を打ったのが功を奏したな。お前をスミスと戦わせるように仕向け、俺はこの野郎と戦う方向に持っていった。同じ体術使いとの交戦は避けたかったからな。」
「なるほど! お前は元から得意技を生かすためにワザと武器を使う相手を選んだってワケか!」
「同じ獣人でなければ、体術で圧倒できると踏んでいた。しかもこんな小男なら腕力も然程ないだろうしな。」
なるほど! 敵の得意分野を分析して、確実に倒せる相手を選んだんだな。そして同じコボルトなら身体能力を生かした攻撃をしてくると予測した上で俺にやらせたと。しかしそれはどうなんだ? 俺じゃスミスに勝てない可能性もあったはずだ。確実性に欠けるマネをしたとも取れるが……?
「武器もない、おまけに両腕を封じられた俺が勝てるなんて、よく考えたもんだな? この部分だけはバクチみたいになってるけど、どうなん?」
「正直、賭けだった。でもよ、お前の目を見たら負けるとは思えなかったんだ。」
「目を見て?」
「ああ。不可能を可能にする、そんな目つきをしていた。アイツと同じ目だ。タンブルも同じ目をしてるんだ。だからこそ、俺はお前に賭けてみた。」
なんだかよくわからんが、とにかく凄い自信だ! 屁の突っ張りなんていらないようなタイプの人間なんだろう。俺の目がタンブルに似ていたというのはどういうことなんだろう? 勇者と魔王の目付きが一緒ってもなんかおかしな話だ。互いに敵対するような立場だというのにね。なにはともあれ、コイツらとは仲良くやっていけるような気がした。




