第39話 だから代理って言うな!!
「僅かなりとも、希望をちらつかせた上での処刑ゲームか。」
「へへ! お前ら死刑囚にも”慈悲”ってヤツをくれてやろうってもんだ。奇跡が欲しけりゃ試練に耐えろってことよ!」
一対一……一見フェアなように見せかけておいて、ハンデのお陰でまるで勝ちの見えない戦いを強いられる。とんでもないやり口だが、いかにも不可視の鎌がやりそうな事ではある。ブレンダン不在とはいえ、その気配を感じられる様な手法だ。アイツなら一人で俺たち3人を相手にしてそうなもんだしな。
「こりゃ意地でも勝ちの残って生還しなきゃいけなくなってきたな。なあ、勇者?」
「ん、ああ。そうしたいところだが……、」
俺はなんとか出来るかもしれない。イツキの実力はわからないが、魔王の仲間をやってるくらいだからそれなりの強さではあると考えれば、勝てる可能性もあるだろう。しかし……後の一人はどうだろう?
その男に視線を向けるが、相も変わらず虚ろな目をしているのには変わりがなかった。もうすぐ処刑される事すら自覚できずないまま、記憶とか目的とかも思い出せないまま、この男の人生を終えるのだろうか?
「おおーっと! 忘れてたぜ! 一人おかしなヤツがいたんだっけなぁ?」
「でも、仕方のないことです。ご本人の体調、気分が優れないからといって、刑の執行を取り止める訳にはいかないのです。」
「クソッ! わかってやりやがったんだな! 一人戦うことすら出来そうにないのがいるってことを承知の上でルールを決めやがったんだな!」
「だって仕方ないんですよ。少々、形が変わったとはいえ、刑の執行は行わないといけませんので……。私たちは処刑を生業にしているのですから仕方のないことです。」
残酷な事実だが、俺らは負け確定の茶番を演じなければいけないようだ。どう考えてもアイツの状態が良くなるとは思えない。もし万が一記憶を取り戻したのだとしても、戦えるのすら定かではない。見た目だけなら筋肉も発達しているし、ガタイもいい。見た目だけなら俺以上、ではある。だがそれだけで勝てるほど甘い相手ではないだろうな。
「何が”仕方ない”だ! 汚え真似、考えやがって!」
「汚い? 知るかよ! 俺らだって同じタイミングでそんなヤツをしょっぴくとは思ってなかったからな。最初はお前らだけを、って話がいつの間にか、おかしなヤツまで追加されてたんだからな!」
「仕方ないんですよ。たまたま一緒のタイミングになっただけですよ。ご愁傷さまです。」
アイツが捕まったのも”たまたま”だったんだろうか? 俺らとは違って、運悪く教団に言いがかりをつけられ不審者扱いされた挙げ句、おかしなモノを持っていたばかりに死刑にされるなんてな……。むしろ、アイツが俺らに巻き込まれたと言った方が正しいだろう。俺は身から出た錆だと言えるし、イツキは俺の騒動に便乗して審問会を潰そうとしていただけだ。事情からして大分違うのだ。
「仕方ない、で命を奪えるなんて、やっぱお前らは底の知れないド畜生だぜ!」
「言いたきゃ、どうとでも言え! 俺らは死刑囚のお前らよりもマシな身分だからな!」
「さて……ギリー隊長代理? そろそろ始めた方がよろしいのでは?」
「誰が代理だ! 代理をつけるな、って言っただろうが!」
隊長代理……やっぱりそういうことになってるんだな。ギリーはブレンダンをいなかった事にしようとしているが、スミスはそうでもないらしい。やはりギリーはリーダーのポジションが似合っていないことに気付いているのだろう。ここに来てから、やたらとスミスのフォローが入りまくりだし……。
「じゃあ、やるか! 先に死にたいヤツはどいつだ? 命知らずは俺が叩き潰してやるぞ!」
「待ってください。隊長代理が最初ではおかしいでしょう? まずは私がお相手しましょう。」
「だから代理って言うなって言ってるだろ!」
「だって仕方がないじゃないですか?」
ギリーが一番手として意気込んでいたものの、すかさずスミスがストップをかけた。確かに大将が最初に出てくるのはおかしい。しかも負けでもしたらどうするんだ? 下手したら俺が倒しちゃうかもしれないぞ?
それはともかく”代理”論争がまだ続いている。なんだかやり取りがコメディじみてきたのは気のせいだろうか? 緊張感が台無しになってしまうではないか。二人がこんなやり取りをしている一方で、カボチャ兜の男はずっと黙ったままである。不気味だ。
「俺がやる!」
「ほう? 勇者さん、アナタが一番手を勤めるとおっしゃるのですね?」
「待てよ! 俺がやる!」
「いや、俺の方が待て、と言いたい! お前に相手を譲ってやってんのに……。」
「ケッ! 余計な気遣いしやがって……。」
「ああ、なるほど! 俺は犬っころを痛め付けてたから譲るってか? 上等だ! 乗ってやるぜ! 覚悟して待ってな!」
「肩の傷のお返しをしなきゃいけない事を思い出したぜ!」
イツキはギリーとの因縁があるので譲った。対して俺は一番抜け目無さそうな男、スミスを相手取ることにした。出来ればカボチャ兜を相手にした方が良かったのだが、勇者の俺が先導を切ることによって士気が向上するのを期待したからだ。その刺激でアイツの調子が良くなる可能性もあるからだ。だからこそ、この戦いは負けられない……。




