第38話 洗浄ドラム
「大正解だぜ。犬っころの言う通り、ここは教団屈指の名所、”洗浄ドラム”だ。」
ギリーはイツキの言葉を正解だと言った。ここはイツキの予想通りの場所だったのである。なるほど、見渡してみればその名の通り周囲の壁は曲面になっている。この部屋は円形の形を成していることがわかった。
ここに来る直前にギリーが話していた俺達の処刑を受け持つとは何を意味しているのか? わざわざ場所を変えてまで、他の人間を関わらせないことに何の意味があるのだろうか?
「随分と陰気な場所を選んだもんだな? 処刑はショーだとか言ってたのはどうなったんだよ?」
「ハハッ、そりゃアレは犬っころの軍団を炙り出す為のショーだっただけだぜ。囮を潜り込ませて、勇者を利用して内部から崩壊させようと企んでたみたいだからよ。逆ドッキリを仕掛けるって話になったワケだ。」
イツキ達、犬の魔王の軍団の企みはスミスによって暴かれただけでなく、逆に気付いていないフリをして罠に嵌めたといったところか。そうすれば、俺だけじゃなくてタンブルもまとめて討ち取れるのだから、一石二鳥なのは言うまでもない。エビでもっと大物を釣り上げるみたいな事に利用されてて、これは笑うしかないだろう。勇者を餌に魔王をおびき寄せるなんて妙な話である。
「それは元勇者の策か?」
「ああ、そうだ、あの旦那の入れ知恵だよ。まるで俺らのお株を奪うようなマネをしてくれやがった。俺らのメンツを潰さないためにお前らの処刑を任せてくれたようだがよ。そこが余計、癇に障るんだよ。いけ好かねえ、汚れ勇者だぜ、あの男はよ!」
完全にシャルルの主導となると不可視の鎌の立つ瀬がない。本来、奴ら自身が発案するような絵図をシャルルが書いてしまったのだから。これも、本来のリーダーであるブレンダンが健在なら違う作戦になっていたかもしれない。そういう意味ではギリーにはリーダーの荷は重すぎるのかもしれない。
「ハハハ! 情けないモンだな、ギリー! やっぱ、ブレンダンがいないと隊の役割が機能しないんじゃないか?」
「うるせー! 犬っころに言われる筋合いはないっ!! この後、お前らをタップリと可愛がってやるから覚悟しろ!!」
ギリー達がシャルルに良いように利用されている事にイツキが詰る。ギリー自身もそれを自覚しているのか顔を真っ赤にしてキレ気味に俺らへの刑の宣告をした。閉所に閉じ込めた上で行われる”刑”とは一体何なのか? ただ殺すにしても、場所の移動をするほどのことでもないような気がしてならない。
「ハッ! どうせお前らの気が済むまで拷問で痛めつけられた末に殺すって魂胆だろう? 決して見れたもんじゃないから、こんな裏みたいなところでコソコソやるつもりなんだろうぜ。」
「うるせーわ! クソ犬が! テメエらなんて、ただ強情な奴らを痛めつけたところで何も面白くねぇのは目に見えてんだよ。オレら方式での”心の折り方”ってモンを見せてやんよ!」
「私が補足しますと、特に勇者さんには挑戦状を叩き付けた身でありますから、それなりの対応をさせて頂くのです。有言実行は大切デスからね。」
「お、おう! まあ、スミスの言うことも尤もだ。」
「ハッ、仲間思いの味方がいて良かったな、バッタ野郎。」
イツキに言われて俺はハッとなった。拷問をされる可能性もあるのだと今更ながらに気付かされた。即座にギリーが否定したからよかったものの、それとは違った方法で心を折りに来るのだということが明言された。
そしてスミスの口から語られた”挑戦状”の話……。俺は忘れていた。コイツらから挑戦状を叩き付けられたのを! ブレンダンが言っていたイメージが強かったから、不在となった今でも有効になっているとは思わなかったし……。
「丁度都合の良いことに、俺達とお前らは三人ずつだ。」
「それがどうした? まさか、競技とかゲームを始めるとか言わないだろうな?」
「正にその通りだ! ちょいと楽しいゲームをやろうと思ってるのよ!」
「え~、簡単に趣旨を説明しますと、私達とあなた方から一人ずつ戦い決着を付けるのです。私達が勝てばそのまま刑を執行しますが、あなた方が勝てば無罪放免、となるチャンスが与えられます。」
三人ずつだからって……まさかの対決ゲームをするだなんて! しかも、勝てば助かるどころか、無罪放免になる? とでもない特典付きである。これって本当に刑に相当するもんなの、と疑ってしまうくらいにおかしなやり方だと思った。しかし、コイツらが負ける可能性のある事をやるのだろうか? なにか裏があるような気がしてならない。
「いいのか? 俺達に逃げるチャンスを与えてしまっても?」
「その前に勝てるとでも思っているのか? 武器も無しに? 俺らは当然、処刑具を使うけどよぉ?」
「それだけじゃありませんよ? あなた方は全勝しなければその栄誉に預かれません。一人だけ勝てても、意味はないとお思いください。」
やっぱ、そうだよな。武器無しでそのままの状態で戦わないといけない。そんなところまで平等にしてくれはしないってことか。ハンデありで勝てたら許してあげるよって言う話なんだな……。絞首刑とかで、もし死ななかった場合は無罪放免になると聞いたことがあるが、正にそれと同じ。生き残るのはあり得ないからこその破格の栄誉なのだと言えた……。




