第33話 アンタらのボスはどこへ行ったんだ?
「クソッ! してやられた! このタイミングで俺らを……、」
旅芸人の公演に呆れ返っていたイツキだったが、今度は一転して焦りを見せるような態度を取っていた。そりゃこんな事態にもなれば誰だって焦る。予告なしの急展開的な刑の執行に不意を突かれる事となった。あり得ないタイミングでの強行は何を狙っての事なのか?
「受刑者の皆さんの滅多にない娯楽の機会を邪魔するなんてどういうことなんですか!」
「いやいや、これも娯楽だよ? 処刑、特に死刑執行なんてのは昔から庶民の娯楽になってたんだぜ? 歴史をもっと勉強して出直しな? でも、旅芸人ごときじゃ教養なんてあったもんじゃねえか!」
小柄な男、ギリー・ザ・グラスホッパーは着物の少女の抗議を”教養なしの無知”と断じた上ではね除けた。この時点で彼女たちでさえ、この割り込みを事前に知らされていなかったのが明確になった。事前の打ち合わせで決まっていたことなら、相手を侮辱するような真似を公演でやらかすとは思えないからだ。
「おう、待たせたな、特級の有罪者さんたちよぉ! これから楽しいショータイムの主役を張る気分ってのはどういうもんだい?」
「うるせーよ、お前らみたいな異端審問会の使い走りみたいな底辺にゃ、一生スターの気持ちなんてわからないだろうよ!」
「言ってくれるな、野良のワン公風情がよ!」
(ドゴッ!!)
「ぐっ!」
俺たちをからかう素振りを見せるギリーにここぞとばかりに仕返しの一言をイツキも負けずに吐き捨てる。その言葉に小男は腹部への強打を以て返した。これはある意味、こちらの立場を明確にわからせるための行為とも取れた。もう、奴等が完全に俺らの生殺与奪の権を掌握しているのだということを。
「よぉ、勇者? まさかこんな形で再開できるとは思ってなかったぜ? ざまぁねぇな?」
「ハハ……全くだよ。俺も犯罪者に仕立て上げられるなんて夢にも思ってなかった。」
「そうだろうよ! 正に夢のような出来事。これからもっといい夢見させてやるぜ? 地獄の悪夢ってヤツをな。」
「はは……そ、そりゃ楽しみだわ……。」
ホントに夢だと思いたい。こんな形で勇者としての活動……それどころか人生の終わりを迎えるなんてな。もっと穏やかに処刑がなされるのかと思いきや、娯楽の途中で無理矢理中断してまで執行されるとは思わなかった。しかもわざわざコイツらが出向いてくるとは……。とはいえ、リーダーのブレンダンはどうしたんだ? やっぱりアイツは……、
「なあ、聞かせてくれよ? アンタらのボスはどこへ行ったんだ? ブレンダンは……?」
「ああん? 誰だって? 聞こえねぇな? 元から処刑隊は俺がボスだろうがよ。」
「アンタ……?」
「別にいやしねえよ。オードリー司教殿に逆らうような人間はいない、ってことだよ!」
完全にいないことにされてしまっている! 反逆の罪を働いた人間は存在を抹消されるということなのか? あれほど処刑隊の顔になって豪腕を振るっていた男を”いなかった”扱いするなんてな……。ヤツがそう簡単に抹消されるとは思えないが、手段を選ばないという異端審問会の手にかかればいとも容易く処されてしまうのだろうか……。
「よし、コイツらを処刑台に縛り付けろ!」
「くっ! 本当にこの場で処刑するつもりか!」
竹林やらタケノコやらで無茶苦茶になっていた舞台は一掃され、代わりに罪人を吊し上げるための台座が運び込まれた。人間より一回り大きなサイズで作られた教団のシンボル”剣十字”を象った処刑台だ。そこへ俺たちは両手を広げた状態で縛り付けられた。俺の手枷もその前に外された。
「勇者よぉ、勘違いすんじゃねえぞ? 手枷を外したからって、おかしい真似が出来るとは思うなよ?」
「それくらい、感覚でわかるよ。この処刑台も同じ機能を持っているんだろ……。」
手枷を外そうっていうんだから、相手方もそのくらいの対策はしているのだ。処刑台に接触した瞬間から同じような感覚が走った。力が込められない。勇気が振り絞れない様な感覚が走るのだ。手枷と同じ機能を付加されているのは間違いなさそうだ。
「準備は整ったな? 刑の執行の前に一つやらなきゃいけないことがある。……スミス、お前の出番だ。」
「はいはい、私の出番ですねぇ。私は鼻が良く利きますから。クンクンクン……。」
細長い体のコボルト、スミス・ザ・ホーネットが周囲の匂いを嗅ぐような仕草を始めた。周囲一帯を嗅いだ後、何故か、イツキの匂いを嗅いで、再び周囲の匂いを嗅ぎにいく。何かの匂いを比べるかの様な動作だった。イツキと何の関係があるというのだろうか?
「おやおや? おかしいな? こちらの受刑者さんと似た匂いのする方が何処かにいらっしゃいますなぁ? はて? 何やらこの舞台周辺に匂いが残っている様な気がしますぞ? どうしてかな?」
スミスはあちこち匂いを嗅ぐ仕草をしつつ、時折目線を着物少女の方へと向けていた。明らかに彼女が怪しいのだと示すような態度だ。これはいったい何を意味しているのか? 同じ匂いだなんて、そんなことがあり得るのだろうか?




