第24話 巻き込むわけにはいかないので……、
「もういい。これ以上は止めよう。このままだとレオポルドさんまで巻き込んでしまうことになるよ。」
「何をおっしゃいますか! まだ、裁判の途中ですぞ。」
俺は思わずいたたまれなくなって司教を止めに入った。これ以上反証を続けても不利にしかならない。俺自身の罪状に変化はないどころか、司教まで巻き込んでしまうことになる。元から”悪”されている物を覆すのは無理な話なのだ。それこそ天地をひっくり返すようなものだ。そこを覆したら世界がおかしいことになってしまう。
「おや? 被告人自らが根を上げるとは。今更、罪悪感が芽生えてきたのですか?」
「もういいんだよ。悪いのは俺だけで十分だ。罪人になるのは一人でいいはずだろう。」
「これからレオポルド殿も反撃の攻勢を考えてらしたかもしれないのに? そのご厚意を不意にされるとおっしゃるのですね?」
「ここで止めてしまっては、彼らの思うつぼになりますぞ!」
悪あがきをしたところで何もいいことがないのはわかっている。罪から逃れようとすれば、誰かが阻止しようとしたら巻き込んでしまい、その人まで罪人になってしまう。何もいいことがない。だったら被害は最小限にしなくちゃいけない。俺が犠牲になれば後は何とでもなるだろう……。
「では、もう被告人に反証の意思はなく、罪状を認める、ということでよろしいのですね?」
「いいえ! まだ私の反証は終わっていませんよ!」
「あなたの意思がどうあれ、被告人が認めると言っているのにどうして続けられるのです?」
「良いでしょう。罪状は確定したという前提で話を続けます。これを止めると言うのであれば、シャルル殿にそれを退ける自信がないと言っているも同然ですぞ?」
「ほほう、私を挑発するというのですね? ”勝ち”の確定が前提ならば、何を突きつけられてもそれは揺るぎないと証明せよと?」
(カンカン!!)
「互いを挑発するような行為は控えてください!」
騒然とした雰囲気となり、法廷がざわめいている。俺が諦め、司教を止めに入ったら、彼はそれを拒んだ。あろうことか、シャルルに挑戦するような行いまでしている! ”勝ち”が確定してるなら、何が起きようと負けないはずだよね、ってシャルルのプライドを煽る様な事をした。確かにそれを言われて引き下がりそうな性格じゃないよな。
「では、続けますよ。絶対悪として認定されている闇の力、これが何故有害とされるかはご存じですかな?」
「私をからかっているのですか? その事は既に私が口頭で説明したはず。神に背いた者達が使った力だからですよ。」
「何を勘違いしておいでなのかな? 私は何故有害であるか、と聞いたのですよ?」
「フン、それは闇の力を用いれば様々な禁則事項を侵すことが出来てしまうからですよ。」
「例えば?」
「闇術の代表的な物を挙げれば、屍霊術がまず出てくるでしょう。これは生命の理に反する行い、死者を強制的に蘇らせて使役する術です。しかもその対象となった者は屍霊術が解除されるまで、耐えがたい苦痛を味わい続けると言われていますね。これを神への冒涜と呼ばずして何とするのでしょう。」
俺が最初に目にした闇術といえば屍霊術だ。あの砦跡で動き出す骸骨やら腐った死体を初めて見たときは驚いたもんだ。その後に現れたのがあの変態屍霊術師オプティマだった。ある意味アイツは動き出した死体達よりも衝撃的な性格と見た目だったのは言うまでもない。
こんな狂った世界がこの世に存在している物かと思った。とにかくアイツは死体を愛し、逆に生者にはとことん興味がないという変態的な嗜好の持ち主なのだとエルから聞かされたときはゾッとしたが、行動の数々を見ていたら妙に納得できる部分もあった。
しかし、アイツが邪悪か、と問われると何か違う様な感じがする。善悪どうこうよりも”変態”の一言で片付けられてしまう。心が邪悪な存在ならもっと他に見てきたから相対的にそう見えてしまうのだ。変態じゃなきゃ、アイツは無害な人間かもしれない。とはいえ、これは闇術が”悪”でないことの証明になるかといえばそうでもない。やっぱ俺じゃ証明は出来そうにないな。
「今はともかく、”魔王戦役”時代はこれが猛威を振るったことは誰もが知っている事実でしょう。特に”死の伝道者”の配下達が”暗黒弾”を用いて町を破壊した挙げ句、その犠牲者達を”屍霊兵として運用していたのは有名な話です。」
「暗黒弾……存じていますよ。暗黒のエネルギーを凝縮して作られた”魔”の破壊兵器のことですな。炸裂したときの破壊力は”爆裂魔術”に匹敵する上に、破片として周囲に”悪魔の因子をまき散らし、アンデッドや悪魔の発生、環境汚染の要因となっていた物でしょう。」
死の伝道者ってたしか、鶏の魔王の事だったよな? アイツらが戦役の度に破壊の限りを尽くしているというのは方々でよく聞く話だ。確か例の砦も”暗黒弾”の被害を受けたんだっけか? 今でもえげつない方法で人間を苦しめてくる奴らだが、戦役時代はもっとヒドかったって言うんだからゾッとするよな……。




