第191話 サイオーがウマ!
(バツンッ!!!)
「き、貴様はっ!?」
霽月八刃……その一言と共に槍は斬られ、次第に消滅していった。現れると同時に放った奥義は黒槍の魔力を完全に断ち切り消滅させるに至ったのだ。とうとうこの場にやってきおった。
勇者ロアが! 前々から剣術で瞬間移動をするとは聞いていたが、実際目の当たりにすると奇妙なものだ。奇妙ではあっても、危機を脱する切っ掛けにはなったのだからとやかく言うようなことではない。
「危なかったな、イツキ。俺がイヤな予感を頼りに瞬間移動してなかったら、助からなかったかも。」
「うるせぇ! お前なんかに助けてもらわなくても、そう簡単には死なねえ。」
「何故だ! 魔術を使うことなく転移してくるとは!!」
「知らないのか? このくらいの知識、イツキ達ですら知ってたぞ?」
「フン! 下級魔王の眷属ごときの知識など大したことではないわ!!」
ロアの口ぶりからすると、あやつは勘を頼りにこの場に急行して遠く離れた場所からやってきたようだ。あやつの勘は割と良く当たる。一方でスレイブはロアの情報に疎いようだな。八傑衆の魔王共は世間の情報に詳しい者が多く、特に蛇や羊はそれを巧みに利用して、ロアを窮地に陥れようとしたものだったが……。
「何か強がってるみたいだけど、武器がなくなったのに大丈夫か?」
「まさか、解呪を使うとは思わなかったが、生憎これは魔力で形成したものだから何度でも生成できる!」
「ああ、ファルとか使うヤツと同じ原理か。厄介だな。」
「気を付けろ、勇者! あの槍は自在に形を変えたり、雷電に戻したり出来るんだ。」
ロアの奥義で黒槍は消滅してしまったものの、スレイブは瞬く間に元通りの槍を復元して見せた。ロアの奥義が魔術を霧散させてしまうほどの効果を持っていても、絶大な魔力を持ったスレイブの前ではイタチごっことなるばかりだ。
ロア自身もそれをわきまえておるのだろう。数多くの戦いを経て、その振る舞いに力強さを感じさせるほどに成長したようだ。初めて出会った頃とは別人のようだ。
「あのさ、気になってたんだけど……?」
「何だ? 私は貴様らを倒す事にしか興味がない!」
「お前、あの馬? 馬のカラクリなんか?」
「今頃気が付いたか? 残念だったな! 貴様が苦心して倒したゴドルフィンは本命ではなかったのだからな! 悔しかろう!」
「え? 別に? 悔しいっていうより、案外あっけなかったなって思ってたら、お前がいた。カラクリに偽装して出てくるとは思わなかったけど。」
「ええい! 一向に緊張感がなく、私相手にふざけたままで通そうとは良い度胸だ!」
「カラクリでコソコソ盗み見とか盗み聞きしてたヤツに言われたかないよ! そういうのを馬の耳に念仏……いや、違うか? サイオーがウマ! って言うんだぞ?」
壁に耳あり、とでも言いたいのであろう……。”耳”しかあっておらんではないか。途中から”馬”要素を入れたせいで話がおかしくなっている。いや、これはあやつの作戦じゃな。意味と言葉を知った上でとぼけた発言をしているのだ。
その場を馬鹿馬鹿しい空気にした上で相手を混乱に陥れ、本来の実力を発揮させない様にする。それがあやつの常套手段だ。この術中に嵌まれば、相手には必ず”敗北”の気配が見え始めるというのだ。
「私はギャロ様配下の”カルテット・クイーンズ”の一人、スレイブ・ニィルだ! このレース大会に乗じて人間共を恐怖に陥れるためにやってきたのだ!」
「えぇ~? 長いから憶えられないよ。あ、そうだ! サイオーでいいや。どうせウマだし。」
「出鱈目な名前を付けるな! 私を愚弄するとは、絶対に許さんぞ!!」
ロアのふざけた言動に痺れを切らしたスレイブは槍を振りかざしながら猛攻を始めた。怒りに任せているとはいえ、スレイブの槍の動きは的確だった。ロアは躱しきれずに剣で狙いをさらせるのが精一杯のようだった。いや、敢えて回避を選択していないのかもしれない。あの槍は魔力の槍。持ち主の意のままに変化させられるのだから、それを警戒してるのだろう。
「武器でいなすだけしか出来ない様だな! まだ、さっきの犬人の方がいい動きをしていたぞ!」
「どうせ、俺は身体能力が低いですよ! そんなことは百も承知だ!」
「自ら無能宣言か? こんな愚か者にどうしてゴドルフィンは負けたのだ!」
「……教えてやろうか? それは貴様らが表面上の事だけに囚われていたからだ!」
(ドカッ!!!)
「むうっ!?」
戦いの最中、スレイブの背後に颯爽と現れた者がいた。馬に乗った人影……ではなく、下半身が馬のカラクリ、上半身は人間の男という奇妙な出で立ちで現れた男がいた。あれはブレイブ・ザ・グレートという謎めいた男だったはず! 奴はスレイブの疑問に回答しつつ後ろ足で強烈な蹴りをお見舞いするのだった。




