第17話 弁護人なんていましたっけ?
「確かにそうかもしれないけど、それを否定したら勇者の存在自体を否定することになるんでは……?」
「そもそもがおかしいのですよ。古くからの価値観で勇者の継承を認めていること自体に疑問を持たないといけないと思うのです。過去の英霊達は亡くなった当時から、その価値観は変化していないでしょうね。その古い価値観で現在の世相を断じられること自体に違和感を感じるのです。」
この人は額冠の判断すら疑うというのか? それどころか、過去の勇者、英霊達を過去の価値観に囚われただけの存在だと断定すらしている。そこを否定して宗教団体に肩入れし、俺から勇者の額冠を取り上げる事に何の意味があるんだろう? このまま裁判で俺が有罪とかになってしまうと、異端審問会の思うがままになってしまうのでは?
(カンカン!!)
「被告人、参考人共に個人の主観を述べるのは慎んで下さい。事実のみの提示を願います。」
「申し訳ありません、裁判官。彼の受け答えについつい反論してしまいました。以後は気を付けます。」
ああ、言われてみれば確かに互いの主観というか、勇者に纏わる逸話の事をこんな所で話すのはおかしいかもな。あくまでここはあの事件の事についての事実を話す場だということをつい忘れていた。額冠の力がどうこうの話ではないのだった。そういう意味ではもう俺には提示できるアリバイなんて物が全くないのだ。
「皆さん、これで彼が身の潔白を証明出来る証拠など何もないのだということがおわかりいただけましたね? 彼が先代の勇者カレルを殺害し、勇者の座を簒奪した可能性が高くなりました。」
「むむう……!?」
「異議あり! 私は参考人の証言に異議を申し立てます。」
「弁護人、あなたの発言を許可します。」
「弁護人? 聞いてませんよ? 彼には弁護人などいないはずでは? 失礼ですが、お名前を伺っても?」
「レオポルド・ダ・ヴィッチと申す物です。以後、お見知りおきを。」
あ、あれ? 俺に弁護人なんて付いてると思わなかったのに、誰か付いててくれたのか? 味方がいてホッとした。しかも誰かと思いきや、ジュリアの披露宴パーティーにも出席していた教団のお偉いさんじゃないか! それだけじゃない。あの蛇の魔王が作り出した異空間の塔にも姿を現した謎の人物だ! 敵か味方かハッキリしない人物だったが、俺の弁護をしてくれるようだ。
「参考人の証言は状況証拠としては正しいと言えるかもしれません。しかし、彼の評判を聞く限りではそのような卑劣な行いをするような人物だとは到底思えないのです。」
「それはあくまで評判でしょう。彼がその様に演じているだけかも知れませんよ、レオポルド殿?」
「ロア殿の評判の中にはこういう物もあります。表裏のない勇者だと。とても感情豊かで、権謀術数に頼るような人物ではないと周囲の方々が証言しております。」
俺って周りからそういう風に思われているのか……? 確かに感情がすぐに顔に出ちゃうから、色々と考えてることが他人にバレやすいというのはある。策略も苦手だ。根がアホだから策を考えても、大抵ガバガバなので見破られて失敗することも多い。もう何もかもみんなにバレバレなのだということがよくわかった。なんか恥ずかしい……。
「あくまで周囲の人物の感想でしかないですよね? 出来れば具体例を提示して頂けると助かるのですが?」
「有名な出来事で言えば、フェルディナンドと対面した時の事が挙げられるでしょう。ロア殿を学院へ入学させる条件として提示したのが……勇者の額冠と勇者の剣を引き渡すことだったのです。彼は素直にそれらを提出しましたが、それはフェルディナンドの策略だったのは明白です。学院内の様々な者達を嗾け、ロア殿の排除を目論んだのです。しかしこれらは全て失敗に終わりました。この事は教団内でも話題となり多くの人々が驚嘆しました。」
ああ、学院での話ね。確かに最初から最後まで罠だらけの日々だったと思う。魔獣先輩に始まり、電撃小僧のトニヤとか七色レインボー光線の人とかに因縁を付けられたな。しかも銀色カルメンとか担任にも狙われたし、タルカスらゴーレム勢力の反乱にも巻き込まれた。それだけの相手を退けたと思ったら、学長フェルディナンドがラスボスとして襲いかかってきたわけだ。そのためか、勉強のことが全然記憶に残っていない。常に敵と戦ってた様な印象しかないな。
「しかしレオポルド殿、それはあくまで噂話に過ぎないのでは? 噂話には尾ひれ背ひれが付く物でしょう? 事実かどうか証明することは出来るのですか?」
「もちろん、可能ですよ。全て事実です。学長の秘書が公式記録として残しているのですよ。しかも映像として残っています。学院には様々な場所に魔術師の目が設置されていますからね。証拠としての提示は可能ですよ。」
「くっ……!?」
おおっ! シャルルが悔しがっている! ぐうの音も出ないほどの証拠を突きつけられたら、こうもなるか。ていうか学院での戦いの記録が全て残ってるって考えるだけでも恥ずかしくなってくるな。特にタニシとか恥ずかしい行為まで残ってるんだったら、大変だ。
それよりもレオポルドとか言う人は、どうして俺のことをここまで弁護してくれるのだろう? なんか捕まってからこの日まであまり時間が経ってないはずなのにここまで準備してあるなんて、恐ろしい情報網だな? 一体何者なんだろう?




