第13話 ニセ勇者には成りたくありません!
「おば様、 何故勇者を先に捕えたのですか? 私には納得がいきません!」
「こだわりますね、ヘイゼル。ですが長期的に見れば、この方が合理的なのです。」
勇者を捕えた後、おば様達と共に”神の洗濯場”へとやってきた。後に勇者への裁定を下すときの重要参考人としての役割があるからと、私も同行を求められた。隊長が反逆の罪で捕えられので、しばらくはおば様の元で働くことになったというのもある。おば様の執務室で一息付くこととなった際に疑問を再び投げ掛けてみた。
「貴女の気持ちもわかります。貴女の母、ナドラが受けた仕打ちには同情しています。真っ先にエレオノーラに裁きを下したいのはワタクシも同じなのでしてよ。」
「そうだとすれば、どうしてなのですか?」
「あの勇者についての実情を調べあげたからこその決断です。あの勇者は周りの仲間達に力を与える存在。放っておけば将来的に大きな問題と成り得るのです。あの魔女を裁くには先に勇者を叩かねば、困難を極めるに違いないのです。」
勇者が仲間に力を与え、周囲に影響を及ぼしているという話は体調から聞かされた事がある。隊長はあのニセ勇者と剣を交えた時にその片鱗を感じたと話していた。長く学園に君臨していた前学長を倒したときに振るわれたという噂は本当の話かもしれない、と。確かにあの女を見ていると昔は使えなかった能力を使うようになっていた。あんな男にちやほやされて有頂天になっているだけかもしれないけれど。
「それにね、前にも話したでしょう、貴女を次代の勇者に就任させるという計画があると。」
「あの話は本当なのですか? 最初聞いたときは私を買い被りすぎなのではと思いましたわ。」
「謙遜しなくてもいいのですよ。今の貴女には未熟で職務を全うできないと感じているのでしょうけど。誰もが同じなのです。ワタクシや貴女のお母様も同じであったようにね。それに使命を得た後に急激な成長を遂げるということもあり得るのですよ。それは歴史が証明しています。」
「私にそのような力があるのでしょうか……?」
「もちろん。」
にわかには信じがたいと私自身は思っている。確かに歴史上、就任後に急激な成長を遂げて、頭角を表した勇者もいたと史学で学んだことがある。でも自分は、と言われると違うかなと思う。自分は魔術師の家系の出で自分も魔術師や識学者としての道を歩みたいと思っていたから。勇者になりたいわけじゃないのに……。
「貴女が勇者になれば、一人でエレオノーラに裁きを下すことも容易になるでしょう。それに大勢の人が貴女を褒め称えるでしょう。」
「何故、私なのです? 私以外にも候補者はいないのですか? 実力ならおば様やブレンダン隊長の方がふさわしいのでは?」
「ホホホ、ワタクシが勇者に? お世辞なんて要りませんのよ。ワタクシは勇者になるには手が汚れすぎていますもの。それにブレンダンなどはもちろんもっての他ですからね。ワタクシ達に比べれば未来のある貴女の方がよっぽどふさわしくてよ。」
まただ。いつも大人はそういうことを言う。自分は年を取っているからとか、汚れてしまったとか、大人になってしまったことをよく言い訳にしている気がする。なんでだろう? 昔は、若かったときは能力等が足りずに成し遂げられないと思ったのかもしれない。でも今は? 十分な能力や素養は身に付いているはずなのに昔の目的にてをつけようとしないのは何故? 私には理由がよくわからなかった。
「おば様はテンプル騎士団や聖歌隊を出し抜こうと思っておいでなのでは? 彼らにも勇者候補がいると聞きますし、聖歌隊の勇者候補とは実際に顔を合わせました。勇者を捕え額冠を没収し、早急に勇者を擁立したいのではないのですか?」
「あら? 裏事情も知っているのね。やはり、貴女は賢いわ。それともブレンダンが何か吹き込んだのかしらね?」
「どちらもです。噂も耳にしましたし、隊長からも話を聞いて噂の信憑性を確認することとなったのです。」
「だから自分が利用されるのは本意ではないと言いたいのですね?」
「そこまでは言っていません! ただ、私は……、」
この前プリメーラという娘に会った。彼女は聖歌隊の所属で”仲間探し”という名目で旅を始めたのだという。噂によれば問題行動ばかり起こし、聖女様や薔薇騎士団の方々も手を焼くほどの娘なのだという。
最初は噂通り破天荒な行動ばかりしているうつけ者だと思っていたけれど、魔王の作った異空間で一緒に過ごしているうちに並外れた才能の持ち主だと思えるようになっていった。同じ年頃であんなに輝いている娘を見たのは初めてだった。
正直に言えば羨ましいとさえ思った。勇者候補と呼ばれている理由もよくわかった。だからこそ、自分が勇者になれないと思った。私が勇者に就けたのだとしても、”偽の勇者”と呼ばれる者になってしまうのは明白だった……。
「ホホホ、ワタクシだけではやはり説得力に欠けてしまいますね。やはり、あの方のお力を借りなくてはいけませんね。」
おば様は私を説得しきれないとみると、協力者を呼び寄せるため手を鳴らした。しばらくすると部屋の扉を開けて、一人の男性が入ってきた。クルセイダーズの士官の制服を着ている男性だった。貴族然とした髪型にメガネをかけた理知的な印象を与える人物だった。この人には私も会ったことがある!




