白銀と永遠
『夜の塔』への距離はちぢまらない。
「幻惑か」
銀は警戒してキャリコを構え直した。
「精神的な干渉か、それとも物理的なものか」
「両方です。カグヤの能力は、あたしの空間歪曲とは比べ物にならない、最も恐れているもの、最も後悔している過去を、現実のトラップに変えます」
銀は舌打ちをした。厄介な能力だ。
「小次郎、気をつけろ。お前が最も恐れているもの……心当たりがあるか?」
小次郎は立ち止まり、深く息を吐いた。
「恐れているもの、か。地球が死ぬことだ」
「本当にそうか? まるで聖人様だな」銀は言い捨てた。
「だが、カグヤの能力が、お前の意志の力でねじ伏せられるなら、話は別だ」
その時、線路の奥から、遠い汽笛の音が響いてきた。しかし、それは蒸気機関車の甲高い音ではない。冷たく、電子的な、不協和音の残響だった。
「あれは……」
のえるが身を震わせた。
「『永遠の始発列車』。カグヤ様の領域を巡回している防衛線です。捕まると、その場に永遠に幽閉されてしまう」
暗闇から、巨大な、黒曜石のような装甲を纏った列車が姿を現した。車体には無数のケーブルが張り巡らされ、窓からは青白い光が漏れている。
銀はすぐに特殊弾頭を装填しようとしたが、のえるが腕を掴んだ。
「撃っちゃダメ! あの列車は、カグヤ様が最も信頼している配下のひとり、ヒスイという能力者が操っている。彼女は『絶対停止』の能力を持っている。銃弾は、発射された瞬間に停止させられる!」
銀は手を止めた。
「なら、どうする。迂回は?」
「線路は一本道。逃げ場はありません」
のえるは小次郎を指差した。
「小次郎さんなら、ヒスイの『絶対停止』すら、意志で打ち破れるかもしれない。あの列車を止めるには、小次郎さんの拳しかない!」
小次郎は、迫りくる巨大な列車を見つめた。その表情に、迷いはなかった。
「上等だ。俺の拳は、止まりはしねぇ。これから、ちょっとした博打をする」
「だが、相手をするのはこいつだ叫べ! 『駆竜』!!」
背中の野太刀を小次郎はひと呼吸に引き抜く。
ほとばしる白銀の光。銀は目を反射的に閉じる。
そして静寂が支配した。
消えていた。黒い列車は消滅していた。
ヒトを斬らず、星屑を断つ。これが『駆竜』の力だ。
だが、小次郎は泣いていた。
「ヒスイという男に反動が返った おそらくーー死んだ」
超能力は人の精神の有り様と強く結びついている。自らの絶対と信じる力は両刃の剣、破られれば身を削る。のえるがいきているのは空間湾曲『だけ』が彼女の力ではないからだ。
小次郎は駆竜を納める、『夜の塔』まではもう近い。
「のえる、教えろ、カグヤの護衛はあと何人だ?」
「サムライ、ニンジャ、カオルの三人。サムライとニンジャは気を使うわ、夜使いのカオルはカグヤの愛人よ」
「サムライは俺がやる」
今までのえるの背中にいた、ツバサが顔を上げる。
「地球を殺すとかのタワ言を本気で言うなら、おれの雷神で目を覚ましてやる」
いいのか、と銀は小次郎にアイコンタクト。
「任せた」
と小次郎。
「だってよタフガイ」
「おれ不死身じゃねーよ、のえるが時空を巻き戻したのさ」
ツバサが頭をかいた。
結構なんでもありの女のえるであった。




