人狼と終電
深夜零時。都営大江戸線と副都心線を結ぶ東新宿駅の地下連絡通路は、終電後の冷たい静寂に包まれていた。タイル張りの壁に非常灯の薄い光が反射し、異様なほど長く伸びる影を作り出す。そこは、東京の日常と、その下に深く潜む異界とを隔てる「境界線」だった。
銀と小次郎はカメラを避けて 線路に降り立つ。ふたりは殺気を感じ、息を潜めていた。銀が背負ったゴルフバッグから取り出したのは、特殊改造された.22口径のオートライフルだ。通常の銃器では通用しない「人狼」を撃ち抜くため、異星の技術と現代技術を融合させた特注品。銃の上部に装着されたヘリカル弾倉には、百発の銀合金弾頭がーーもっとも七発うち残りは九三発だがーー螺旋状に収まっている。
C-13出口付近。人狼は七体。
通路の奥から、複数の足音が近づいてきた。それは人間と寸分違わないが、その歩調には生命の重みが欠けていた。人狼、標的である、カグヤによって自由意志を戦闘生物だ。
蛍光灯の点滅が止まり、暗闇が支配した一瞬、銀は飛び出した。
「ーーチェックメイト」
銃声は、一般的なライフルと比べて驚くほど小さく、地下に響き渡ることを抑えられている。しかし、その.22口径弾は毎分数百発の速度で連射され、タイル張りの壁を砕く。使用した弾頭は十五発。空間を抉ったの八発。
人狼影の一体が悲鳴にも似た呻きを上げ、腕を振るった。地下通路の壁から、コンクリートと鉄骨が捻じ曲がった巨大な影の爪が伸びてくる。銀は素早く身を翻し、銃身を振り上げながら三点バーストでトドメを刺した。
通路の湾曲した角で、。影の爪が床に叩きつけられ、ひび割れが走る中、最後の影の人狼に向かって連射を浴びせる。三発の空間湾曲弾が人狼の胸部を鶏卵大の穴を開けていく。
「ここから星屑の塔をめざすぞ」
厳かに銀は小次郎に告げた。
「出番が無いな」
心底からのぼやきであった。




