狩人と星屑
少々時はさかのぼる。
銀が場末の雑居ビルの探偵事務所に戻ると、先客がいた、ソファーに堂々と腰をおろし、筋骨たくましい体躯はかなり、はみ出ていた。身を覆うのは学ラン、詰め襟と言うやつだ。足は下駄履き。口は木の枝を咥えて、そこまでは、何ら法に触れない。しかし、背中の大刀は、銃刀法に反している。
この男に法律を説く勇気があれば、の話だが。
不良やヤンキーではない、番長以外にこの男を形容する言葉は銀は知らなかった。
「ずいぶんと無用心だな、鍵がかかっていなかったぞ、探偵だろ? 依頼人だよろしく頼む
」
声は思ったより、若かった。
「事務所にようこそ。所長兼使い走りの伊伏銀だ、背中の大刀は、警察に通報もんだな、ウチは、暴力沙汰は扱わないんだ」
「鉄砲は使うのにか? この駆竜が見えているなら、合格だ。地球人の未来をかけた依頼がある、ステラ・プルブィス関係だウェナートル」
狩人と星屑、その言葉は銀を緊張させた。
星屑は、地球外由来の技術の総称。狩人は、星屑をねらう宝探しの総称で星屑ある。裏社会のみならず、政財界にも大きな影響力を持つ。
戦闘力と体力、何よりも運がなければ、生き延びる事はかなわない。
「ウェナートルはもう引退した、拳銃は逆恨みへの自衛だ」
「手近に視えるやつがいなくてな、この駆竜は、自分への認識を妨害できるから、街中でも抜かない限り問題ない」
「それも星屑関係か」
そうだ、と言って番長は立ち上がった。
「よろしく頼む、地球を死なさないためにな、遅れたが、俺は小次郎、番長小次郎だ」
服の上からでもわかる、逞しさと意外なしなやかさを持つ腕を伸ばす。
小次郎の手を反射的に銀は握り返した。
「満月までにカグヤを止めて欲しい」
「地球の為にな」
だが、銀は小次郎の言葉がいくつか前提が違っている事は知らなかった。
歌舞伎町にカグヤはいる。
星屑の介入によって、それ以上は、絞りこめなかったとのこと。
「すまないが、俺はそれが限界なようだ」
謝る小次郎。
「なーに、パンピーなら上出来さ」
笑う銀。
夜の悪徳の街に一歩踏み入れると、銀は指刀を、眉間に当てる。
(認識を妨害か、歌舞伎町全体でひとつの結界にしてやがる、カグヤ相当の星屑をつかいやがるな...)
周囲の非物質的存在の認識、それが銀の力であった。
云わば霊感である。超能力と言ってもいい。
これが、ガンマン以外の銀の札だ。
「なあ、どれくらい汚い手使っていいんた?」
「生死をかけた戦いだ限度はない」
「よーし、なら出直しや」
銀は左掌で右こぶしを受け止めた。




