ゼファーの秘密
ゼファーはボルトの後をつけていた。ボルトが次にどういう行動をするのか予想がついていた。
思った通り、ボルトは森の奥へ歩き出した。おそらく死ぬつもりだ。しかも外敵に襲われる前提で行動している。
バキバキバキッ!!突如、木が裂ける音がした。鹿や兎が八方に飛び跳ねている。
何かがムックリと迫ってきた。現れたのはアンガーベアだ。
おそらく、蜂の巣を襲った際、逆襲を受けあちこち刺されたのだろう。怒りに手あたり次第、殴りつけていた。
ボルトは逃げもせず、戦う素振りもなく立ち尽くしていた。そして考えていた。
俺が万全の体調で戦っても、剣の技で勝てる相手ではないということに。
所詮、俺たちが修練してきた剣の技は人間にしか通用しなかったのだ。
この事実に初めて気が付いた。
ゼファーが飛び出した。ボルトを助けるためだ。
しかし、この冷静さを失っているアンガーベア相手に何ができるのか。
アンガーベアは、狙いをボルトに定め猛然と迫ってきた。ボルトの首が飛ぶだろう一閃が放たれた時、ゼファーはボルトに追いつき怒鳴りながら突き飛ばした。
「お前はそんなに弱かったのか。アマリリスの唯一の近衛兵と聞いていたが何かの間違いか。」
目の前にはアンガーベア。距離を取る時間はない。食いついてくるアンガーベアの口にゼファーは左腕を突っ込む。
そして迷わず右腕で左腕から伸びている紐を引く。
「これでもくらえ!!」カチッ!ズドン!!!!
アンガーベアの頭が爆散した。アンガーベアの胴体は地響きと共に倒れた。後には、降り注ぐ血しぶきと蔓延する火薬の匂い。
何が起こった?
ゼファーは倒れているボルトを蹴り飛ばした。「俺個人はお前が死のうがどうしようが知ったことじゃねえ。」「だが、アマリリスが嘆き悲しむのだけは許せない。」「お前は死なせない。自分のことばかりでなく、もっと周りをよく見ろ、よく考えろ。」
地べたから見上げたボルトは、ゼファーの左腕を見ていた。左肘の下、腕の部分がなくなっていた。義手か。今まで全く気が付かなかった。日常生活において全く違和感がなかったから。
義手には爆弾が内蔵されていた。時間がない中でボルトを救うために使用したのだ。
しかも確実に一撃で倒すために、わざと左腕を食わせてから発射したのだ。生半可の胆力ではない。驚きとともに“未来へのかすかな光”が見えた気がした。