死への誘い
ボルトは、リハビリを兼ねて剣を振るが片腕では取り廻すこともうまくいかなかった。
利き腕を失うことの意味がどれほどのものか。実際に経験して絶望感しかなかった。小剣に持ち替え振り回してみるが、全く戦える気がしない。3日と持たず剣を持たなくなった。
1週間後、見かねてゼファーがボルトに言った。「体が完全に治るまでは面倒を見てやるが、食い扶持ぐらいは自分で調達できるだろ。森の少し入ったところなら、鹿や兎などを狩れるはずだ。1日1匹調達してくれ。」
「わかった。」ボルトは森の少し入った動物たちが見える場所まで歩く。
鹿も兎も逃げる。走っても追いつけない。片腕では弓も弾けない。石を投げつけるが
かすりもしない。
「俺は自分の食い扶持すら用意できないのか。俺は普通に生活することも出来ないのか。」余りのおかしさに涙が出てきて視界が滲む。「何が騎士団トップの実力だ。俺はもう生きていけない。死のう。どうやって死ぬ。首を吊るにも縄も編めない。木にも上れない。滝に飛び込むか。湖に入水するか。毒を飲むか。」
その時「ハッ」と気づいた。そういえばここは[死の森]だった。アンガーベアやワイルドウルフに遭遇すれば確実に死ねる。「なんだ、簡単じゃないか。」
ボルトは森の奥へ歩き始めた。死ぬために。
なぜか不思議と小剣で自分の喉を切り裂く発想は微塵も浮かばなかった。