第七章 水車と博士の手
昼下がり、村の広場に木材と竹、そして町で買ったモーターとタイマーが並べられた。
直樹はその前に立ち、両手を腰に当てて言った。
「これが……博士の設計だ!」
広げられた紙には、右手で必死に描いたガタガタの線と丸。
村の子供たちが覗き込んで「下手くそー!」と笑う。
直樹は耳まで赤くなり、アユが微笑みながら通訳する。
「博士は、村のみんなのために“わざと分かりやすく描いている”そうです」
「おおー!」
子供たちは素直に信じて歓声を上げた。
(いや、嘘だろそれ……)直樹は心の中で突っ込む。
――
組み立てが始まった。
ブディが竹を担ぎ、若者たちがロープで縛る。
直樹はAI Naviの指示を片手のスマホで確認しながら、右手で図を修正していく。
だが、ネジ穴が合わず苦戦。バケツの角度もおかしい。
「ちょっと違う、ここはこうして……いや、違う違う!」
必死に指示を飛ばす直樹に、アユが冷静に通訳する。
やがて、見た目はいびつだが何とか形になった。
竹のフレームに水車、その周囲にぶら下がる小さな桶。
「よし……やってみるか」
――
川辺に設置し、タイマーを回す。
モーターが唸り、水車がぎこちなく回転を始めた。
桶が沈み、ざばっと水を掬う。
水面に浮いたごみとプラスチック片が、少しずつすくい上げられていく。
「おおー!」
村人たちの歓声が上がった。
直樹は胸をなで下ろす。
(……よかった、ちゃんと動いた!これで笑い者にならずに済む!)
だが、桶の中に入ったごみの量はほんのわずかだった。
子供が叫ぶ。
「博士!これじゃ全然足りないよ!」
直樹の胃がまた重くなる。
ブディが腕を組んでうなった。
「だが仕組みは分かった。改良すれば使える」
――
夕暮れ、村人たちはまだ装置を眺めていた。
アユが静かに言う。
「博士、この装置があれば、海苔の実験もきっと分かりやすくなりますね」
直樹は頷き、スマホを取り出した。
画面には無機質な文字。
【次のステップ:試験用の海苔サンプルを使用せよ】
「……次は海苔、か」
直樹は小さくつぶやいた。