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願わくば、同じ君へ  作者: 凛々花
第一章
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十条逸 ほんの数秒と永遠

 いつの間にか日が長い。ムワッとする空気のせいで髪型が決まりにくいやっかいな季節がきた。汗がなかなか引かない。高校の門から駅の改札までは、敷地がデカくて構内を歩く方が圧倒的に長くなる。学校の門から駅は道路を挟んですぐ向かい側だ。寄り道をする間もなく駅に着く。だからなのか、俺らはだいたいだらだら歩く。

「なぁ、十条、この子、雪高じゃん? バスケ部っぽい。ほら、ボール。ここ。例の子だったりして?」

 鮫島はスマホを俺に差し出し、逆の手でシャツをつまんでひらひらさせている。こいつの情報管理はすげーと思う。例えば学校名と本名があれば、大体それらしいアカウントを探し出す。友達の友達の友達までたどれば、案外いるもんらしい。論理は分かるが、それを実行する気力は俺にはなかった。

「え? まじ? みして、みして」

 俺は写真を見に行く。どこからともなくやってきた永井も一緒にケータイを覗く。そこには、雪高の制服を着た、部室で楽しそうに笑っている女子たちがいた。バスケットボールを持ちながら端っこの方で無邪気に笑う瀬山遥が写り込んでいる。ファミレスに行く前の楽しそうな写真と、ファミレスで楽しむ写真がストーリーにアップされてた。

「え、ももか? あ、俺この子からフォロされて、フォロバしてるわ」

 俺は自分のケータイでインスタを起動しながら言う。中学の時、連絡を交換したのがきっかけだった。確か、バスケの試合会場の近くのコンビニで、互いに数人チームメイトがいて交換する流れになった。その中の一人だ。すげー可愛いと、チームでも話題になっていたのを思い出す。それでその子のストーリーを見るのは初めてじゃなかったけど、瀬山さんが写り込んでるのは初めてだった。全部を見れてるわけじゃないから、多分だけど。俺は迷わずいいねを押した。

「え、お前、この子と知り合いなの?」

鮫島はそっちに興味を示す。

「知り合いってか中学の区大会とかで結構会場一緒だった。あと練習試合もよくしてて、お互い何となく知ってる。お前フォロ申請してみ、DMとかもしてみたら? 鮫島からなら嬉しいんじゃん?」

 鮫島は前向きに検討している。センターフォワードのくせに、ガードみたいな立ち回りもできて、ガードの俺よりバスケ能がある。こういうやつはモテんだよな。

 佐藤ももかの友達を確認しても、やっぱり瀬山さんらしきアカウントは見当たらなかった。過去の投稿を確認すると、一枚だけ瀬山さんがいた。『#いつメン』の投稿に4人の女子高生が写っている。いいねの数も半端ない。一緒に映る友達も可愛くて、人気者なんだろうなと思わせる、そんな一枚だった。佐藤ももかにDMを送ろうとも考えたけど、それはねーなと思った。投稿を漁ったこともそうだし、俺が佐藤ももかと仲が良いというわけでもない。

 

 俺はいつもの席で、そのことに気が付いた。瀬山さんが電車を寝過ごしている。何もしないつもりだった。だけど、起きる気配がない。このままどこまで乗り過ごすのだろうか。いろんな考えが頭にあったけど、俺は全部無視することにした。

 人が増えつつある車両の中で、そこはまだ空いていて、体はほとんど無意識に動いてた。つまり俺は、彼女の席の隣にドスンと座った。

キモイと思う。うん、ガチで。

 彼女は衝撃で飛び起きた。そして、分かりやすく慌てると、急いで膝の上の単語帳を鞄に投げ込み、まだ着くわけでもないのにドアに向かった。そして、次の駅で降りた。ほんの数秒の出来事だった。数人が彼女の方を見ていたみたいだけど、俺だけは俯いたまま、胸がドンドン騒いでた。そのあともなかなか収まらなかった。ほんの数秒が永遠に続くような、永遠がほんの数秒のような、電車はそんな揺れ方をしている。

 夜風に雨の匂いが混じっていて、空気がなんだか少し重たい。眠ろうとしても電車でのことが頭に浮かぶ。たまらず、俺は葵斗に連絡した。雪が丘に進学した同じ中学のやつだ。すぐに連絡はきて、あいつは瀬山さんを知らないらしい。普通の男子高校生なら多分瀬山さんを可愛いと認識して意識するし、葵斗もそうだと思ったけど、多分そう言うのに無頓着な野球バカなのか? 結構かっこいいのに勿体無いとか思う一方、安心した。

 俺んなかで一つの区切りがついた。現時点、直接話しかける勇気はない。俺の考えられるツテもない。だが、瀬山さんのことを知りたいと思う。だからいつかは接点を持ちたい、というかそうする。よって、俺は予定通りバスケを頑張ろう。自分でも支離滅裂なのは分かってるけど男なんてそんなもんだよな。てか、そもそも部活に入っていて、部活と勉強を頑張るなんて、至極予定通りなわけで、あるべき男子高校生の姿だろう。レギュラー取って試合出て、試合会場で会って、知り合いになる。遠回りだけど、それしかねーよな。いつか、直接連絡先を聞こうと思う。それが今の俺のモチベってことにする。

 永遠のようなほんの数秒が、ずっと続けばいいなと思った。窓をさらに開けると一気に空気が流れ込む、手や頬に触るそれはいかにも生ぬるい。この間までちょっと冷たく感じたのに、また少し季節が移ろいでいく。

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