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願わくば、同じ君へ  作者: 凛々花
第一章
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瀬山遥 サラダうどん

 最近、高橋が妙に絡んでくる。里奈が気になってるからだろう。分かりやすいにもほどがあるけど、そういう健気さと潔さは私は嫌いじゃない。見ていて気持ちがいいとも思う。ほら、私と里奈が自販機向かう今だって、こっちを見てる。私はケータイを見ながら、三組の教室と里奈の様子を同時に視野に入れた。多分、里奈も気づいていて、気づいてないフリしてるんだ。高橋のやつわかりやすいんだよな。

 その瞬間、誰かと肩をぶつける。不覚だ。視野が甘かった。試合ならボール取られてたな。

「ごめんなさい」

 振り返ると、相手は、背の高い坊主頭の男子だった。

「大丈夫?」

 カフェラテみないな声だと思った。あ、この人知ってる、高橋と同じ、三組の三人組だ。

「大丈夫。ほんとごめんなさい」

「俺もケータイ見てたから。ごめんね」

 彼が優しく響く声でそういうと、彼は事も無げに三組へ入っていった。彼の名前は何て言うんだったけか。


「レンちゃーん、どこいくの?」

 高橋が大きな声を出す。ほら、やっぱ来た。里奈的にはどうなんだろう。多分、里奈は高橋の手には届かないと思うな。

「飲み物買いいくよ、高橋も?」

 思ってることと、言ってること、反対だな。私って残酷かもしれない。けど、前向きな高橋は応援したくなる。

「ね、里奈ちゃん何のむの?」

 高橋が、結構などうでもいいことを里奈に聞く。気になる人にどうでもいいことを聞いちゃうのが恋だとか、誰かが言ってた。私にはよくわからないことだけど、本当なのかもしれない。

「まだ決めてなーい、徹くんは?」

 名前のところだけ、ほんの少しいつもより高めの甘い声で里奈は答える。『徹くん』って、こういうところか。しみじみ勉強になる。恋愛マスターだ。里奈の魔性に心底関心する。高橋は里奈が気になっていて、里奈はそれを多分気が付いてる。それで、そんな声で名前を呼ばれたら、私が高橋だったら里奈を好きになる。一瞬だな。可愛いもん。結局三人ともパックのウーロン茶を買った。茶番だなぁ。


 私は中学の時、成績も部活動も優秀で、学年に一人選ばれる体育活動優秀選手として表彰もされた。塾の学費は全額免除になるような特待生だった。だけど、優等生ってタイプでもなくて、だいたいいつも他のクラスにいるバスケ部と絡んで、鬼ごっことかドロケーとかしていた。それが最高に楽しかった。日常のほとんどはバスケと勉強に時間を使っていた。クラスの女子グループとはちょっと違っていたけど、普通には仲良くしていた。

 そのグループは順番に一人ずつハブメンを決めて、その子を無視するということをやっていて、私は傍からくだらないと思ってた。ハブにする、ハブる、ハブられる。本当にくだらない。みんな暇だなーとか思っていた。私はそんな言葉と無関係のはずだった。それなのに、バレンタインの時、教室でクラスの女子と交換するのを約束していたはずなのに、誰も私とチョコを交換してくれなかった。私だけ見えない透明みたく扱われた。ハブられたのだ。くだらないって彼女たちへの私の態度は見え透いていたのかもしれない。天罰が下ったと思った。

 バスケ部のみんなとは交換した。チームメイトたちは体育館でも校舎でもいつも通りで、別に自分は傷ついてないと思ってた。だからいつも通り、振舞い、練習もこなしたけど、その日家に帰ってとても泣いた。大量の余ったチョコと一緒に。無邪気とは程遠い絶対的な悪意がそこにはあって、あの悪意ある笑顔を私は忘れない。

 ざまぁみろ。

 そんな顔をしていた。後日、リーダーの子が好きな男子が、私を好きだと言っていたらしいことをチームメイトから聞いた。らしいとらしいを足したって、何もわからない。とにかく嫉妬が恐ろしいものだと知った。

 だから、私は女のくせに女子っぽい女子がなんだか苦手だ。好きとか嫌いとかも面倒だと思う。ハブられるのは怖い。できることなら、サクッと部室に行ってお昼を食べて、昼寝したい、シュート練したい。

 とは言え、高校の初っ端からそんな勇気もなく、結局同じバスケ部のももかと一緒にいるうちに、クラスのグループはなんとなく出来上がってきて、空気読んでたらこの四人で動くことが多くなってた。意図もせず自然な流れで女子っぽいグループに属していた。

 校内で四人一緒に歩くと注目される。里奈が無双状態って感じだけど、遠目から見て私だけ浮いていると思う。私だけ、女子力が抜けている。髪も短くて、リボンも香水もつけないし、メイクもしない。

 里奈はファッション雑誌から抜けてでてきたよなJKで、モテを再現している。ももかはとにかくアーモンドみたいなきれいな形の目に、くっきりした二重がとても印象的で、まじまじと見てしまう。矢野ちゃんは、小さくてポニーテールがよく似合う、小動物系の可愛さだ。

 里奈と矢野ちゃんは中学が同じでもともと仲が良かったらしい。その中学からの関係性で二人にはすでに知り合いが多い、そして複数のラグ部の先輩から挨拶されてる。顔が広いとはこういうことかと思う。あちらこちらからマネージャーの勧誘が猛烈だ。そうして、いつの間に、さらなる知り合いが増えていて、LINEなんかをしている。ただ、お昼を食べるだけなのに、色んな人と挨拶の連続だ。そして、次の日には部活でのポジション、クラス、塾、彼女の有無など、凄まじく情報が更新されていく。私もできるだけ聞きながら、上書き保存に勤しむ。

 ももかと私は男バスの先輩によく声をかけられるけど、そこには私とももかで決定的な違いがある。顔やしぐさを見ていたらすぐわかる。一部の先輩は私に萎縮してる感じがあって、それはわからなくもない。とにかく、私への目線は三人とは違う種類で、私もバカではないのでそれはわかっていて、おそらく私がバスケの強豪校の出身だからだ。バスケで一目置かれているだけのことだ。それだからこそ、私がこのグループにもいれるんだろうけど。

 賑わう食堂を二列になって歩きながら、右後方からももか狙いの先輩の声がして、前方からはラグ部の一味が里奈に向かって手を振っている、矢野ちゃんは私の右手に左手を絡ませて、右手でサッカー部の先輩からのLINEに返信している。高校って忙しないなぁ。そんなこと考えながらも、客観的にぼーっと広く視野を取る。歩いているコース取りとか予測する。このまま歩けばあの人とぶつかってしまうから、矢野ちゃんの背後に回る。ここはコートじゃなくて、食堂なのに、そんな分析、今何になるのだろう。

 私が本当にバスケを好きだったら、きっとあの二人と同じようにバスケで高校を選んだ。私は中途半端で何者でもないんだ。なんで高校でもバスケなんてやってるんだろう。


 甲高い試合終了のブザーがいまだに消えてくれない。あの時、私がボールを運べていたら、シュート決めていたら、パスが通ってたら、ゲームコントロールできていたら、試合の残像が次々と脳内を揺さぶる。私のせいで負けたんだ。あと少しで、もう一歩で全国だった。保護者も監督もチームメイトも心の中では、きっとそんな風に思っている。進路を決めるとき、私はお母さんの言いなりで、私立の進学校か、公立トップ校かを迫られた。部活は無駄だと言い切る母に、私は何も言えなかった。そのくせにバスケは続けていて、顧問に誘われるままに、朝練とかもしちゃってるし。何がしたいんだろうか。


「レン? 麺伸びちゃうよ?」

 ももかの大きな瞳がぐっと私を見つめる。それから、身体を向き直して、小さなお弁当の小さな卵焼きを箸でつかみ、小さな口にそれを運んだ。

「やっぱサラダうどんにすればよかったかも」

 矢野ちゃんが言いながら、私のトレーに唐揚げを分けてくれる。矢野ちゃんは、小食なくせにボリューミーな唐揚げ定食が大好きで、いつも私に数個を分けてくれる。

「遥、太んないからまじ羨ましいな」

 と里奈が、ヨーグルトの蓋をそっと開けながら言う。

 里奈の赤みのない茶髪は今日もきれいにゆるふわに巻かれていて、矢野ちゃんのポニーテールはゆらゆら揺れて心地いい、ももかのつやっつやの黒髪もキラキラのケータイも、とても今の女子っぽい。この三人ともっと仲良くなれたら、高校楽しいかなと、学食名物のサラダうどんを啜りながら、やっぱりクラスで一人は嫌かもなぁって思った。


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