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願わくば、同じ君へ  作者: 凛々花
第四章
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瀬山遥 きっといつか、ずっといつまでも

 文化祭が終わって教室へ戻る途中、佐々木に呼び止められて、ここに来るように言われた。弓道場の入り口だ。その脇で待っていると佐々木は手に懐中電灯を持って現れた。そう言えば日が暮れるのがずいぶん早くなってきた。もうすぐ十月だ。


 想いを伝える大胆さも、それを断ち切る潔さもないまま、時間はどんどん過ぎていく。想いがあまりにも大きくなりすぎて、私はどうしたらいいのかわからない。

 風船はずっとついてくる。宙に浮かんだまんま、私を離れない。春の嵐に煽られても、真夏の太陽に焼かれても、冷たい秋雨に打たれても、突然の雪に降られても、ずっとずっと離れずついてくる。

 たくさんの恋の歌がそうであるように、どうして恋をすれば想いを伝えたくなるんだろう。伝えたらそこで終わってしまうかもしれないのに。伝えても伝えなくても好きは変わらず好きなのに。


 佐々木は入口の脇にある梅の木の奥へと進んみ、さらに弓道場の奥へと入っていく。

「どこいくの?」

「ここを確か……」

 そう言いながら、佐々木は草木の茂ったフェンスにたどり着く。フェンスには扉があって、チェーンがかかっているけど、ゆるーく二重にかけられているだけで、人が1人通れる程度に開くようだった。そして、フェンスの向こうには山道が続いていた。このフェンスのことも山道のことも初めて知った。佐々木は臆することなくチェーンをくぐり山道へ出た。私が戸惑っていると、手招きをする。

「おいで、すぐだから」

 私の手を取って引っ張り上げると、そこは竹林でできた洞窟みたいな空間だった。光はわずかに届いているけど、多分もう1時間もすれば真っ暗だ。

「ここはさ、うちのクラスの弓道部のやつに教えてもらったんだ。グラウンドからいつも見えてる丘の上に出るんだよ。今でも野鳥研究会とかが使ってるんだって」

「知らなかった」

 山道は緩やかに大きく曲がりながら、一本道で続いていく。なるほど確かにグラウンドに続いている気がした。そして、確かに人が定期的に通ってる雰囲気もする。危ない雰囲気は全くなかった。

「瀬山はさ、留学するって徹から聞いたけど、いつ行くの?」

 佐々木はゆっくり歩きながら道をすすんだ。

「卒業式終わったらその足で。次の日から語学学校へ行って、九月が新学期だからそれまでに一定のレベルにするつもり」

「語学学校って中国語か。そっか。やりたいことがあるの?」

「なんとなくだけど、通訳とかできる人になりたい。それで、映画の翻訳とか任される人になれたらなって」

「かっこいいな。瀬山映画好きだもんね」

「佐々木は?」

「俺は将来とかはわかんないけど、大学では野球を続けたいんだ。六大学野球リーグとか憧れてたんだよな。だから、絶対現役で受かりたいかな」

 佐々木がそう言い合えた時と、辺りの視界が一気に開けた。

「こんなところ全然知らなかった」

 グラウンドが一面に広がって、さらにその下の校舎の方まで一気に見渡せる。

「瀬山に見せたかったんだ、結構いい景色だよな」

 佐々木は嬉しそうに少年のような顔をして笑う。見晴し台のようでちょうどいいところにベンチが置いてあった。いかにも即席で作られた簡単な木のベンチだけど、年月を感じる。

「夕焼けが綺麗だね」

 私がそういうと佐々木はベンチに座った。私も隣に座る。すると「瀬山は自覚ないの?」と聞いてきた。

「何が?」

 佐々木は私の目をじっと見つめる。私も見つめ返した。風があたりを吹き抜ける。少し伸びた前髪が目にかかった。

「可愛いとかきれいだって自分じゃ思わないの?」

 そういうと佐々木は目線を外して、ずっと遠くの方を見ていた。多分、夕焼けだ。私はグラウンドの様子を見た。かがり火の用意が着々と進んでいた。

「そんな言われないし」

「言われないとわかんないだ」

「そうでしょう。佐々木は自覚ないの?」

 今度は私が佐々木の目をのぞいて見る。

「俺? 俺は全然そんなんじゃないから」

一瞬、目は合わせてくれたけど、すぐにまた遠くを見た。佐々木の目はまっすぐなんだよな。だからずっと見ていたくなるけど、それはそれでできない。

「たくさん告白されたって聞いてるけど」

「誰から聞いたの? あの時の一人だけだよ。それを言うなら瀬山の方がすごいじゃん」

「高橋だよ。あいつ完全嘘じゃん」

「って俺が言いたいのはさ、そんなんじゃなくてさ、瀬山はさ、誰とも付き合わないじゃん。ずっと気になってたんだけど、実際どんな人がタイプなの? 」

「え? 今それを本気で聞きたいの? 聞いても引かない? 結構具体的な感じかも」

 これなら伝えたいと思った。もちろん、それが佐々木だってことは言えないけど、つまりこれは佐々木の好きなところを言えばいいわけだ。

「うん。そんなの引くなんてしないよ」

 きっともうこんな機会はないんじゃないかな。

「じゃあ、言うけど……」

 私は佐々木のえりあしを見ながら、言葉を探した。佐々木は黙ってまっすぐ空を見ていた。

「あくまでタイプだからね。えっと、森っぽい優しい人が好きかな。だから青ってか、深緑が似合う人が好き。それから、声が優しい人が好き。背は高い方がいいのかな、気は小さくてもいいの、でも時々大胆でいてほしいな。髪は短い方が好きかな。伸びてもいいかも。よく分かんない。目は一重で、鼻筋はまっすぐ通ってて、歯が白いくせに焼けた肌が良く似合う人。夢に向かって真っすぐ努力ができる人が好きなのかな。その人の隣でも浮かないように、優しくなりたいなってそんな風に思える人……がタイプだよ」

「長っ。そっか、森みたく優しいってすごいね。それは誰かのことなの? 」

「うん。落ち着いてる人なんだ。けど今は違うと思うから」

「なんで今は違うって思うの?」

「夢を追ってる人だから。私は邪魔したくないんだ。私も留学するし。中途半端に終わるくらいならキレイに終わりたいなって思ったり、いや、ただ意気地がないだけなのかも。怖いんだ。関係が変わっちゃうのが、ものすごく」

「怖いの、よく分かるかな。もしさ、その人から好きって言われてもそれは変わらないの?」

 もう佐々木のことは見られない。私はベンチを立って辺りを見渡すフリをして、顔を見られないようにした。佐々木の好きな青空の似合う人になりたいなって思う。

「そうなったら、もっと怖いかもしれない。でもね、残念だけど、その人前に好きな人いるって言ってたし。多分変わってないと思う。引退したら告白しようと思って手紙を書いたの。だけど結局ずっと渡せてないんだ。それでもいいって思えるくらい、関係壊すのが怖くて。まぁ、でも根拠はないんだけどね、きっといつか、また必ず会えると思うし、ずっといつまでも同じだとそんな気がしてるから。その時に渡そうと思ってるんだ」

 私が言い終えるのを待ってたかのように、ちょうど花火が上がった。爆音が耳に痛いほどだ。佐々木はいつのまにか私の隣に立っていた。

「じゃあさ、そのいつかの時、俺とも答え合わせさしてよ」

 そして私の耳元に口を当てて言った。顔が赤くなったけど、多分花火がごまかしてくれてると思う。私は頷いた。

「佐々木、好き。野球頑張ってね」

 私は、聞こえないくらいの小さい声で呟いた。佐々木は案の定、まっすぐ花火を見ていた。聞こえていてもいなくても、好きな人の隣で好きだと言うことは、大変な労力だ。胸がドキドキして、花火と合わされば、どっちがどっちかわからない。佐々木の横顔は花火に照らされて、とても幻想的だった。


 私は風船を手放した。壊れて割れてしまわないように、そっとそっと暗い宙に送り出した。そのまま宇宙に行って、地球をぐるりと回ってわたしのところに戻ってきてもいいのかも知れない。その時までにきっと隣に似合う人になりたい。意気地なしの私は心の底からそう思った。私の初恋は飛んでいく。

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