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願わくば、同じ君へ  作者: 凛々花
第二章
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十条逸 フラペチーノとカフェモカ

 俺から葵斗をさそったのはそろそろ言わなきゃいけないと思ったからだ。あと、スタバの新作マロンフラペチーノが美味そうでストーリーにあげたかったから。好きな人が同じだった記念的な、そういうノリだ。葵斗には言わないけど。店内に入ると俺の気持ちを差し置いて、やたらとハロウィンの飾りが賑やかだ。葵斗は地味なカフェモカを頼んだ。映えないなぁと俺は思う。まぁ、最近一段と寒くなってきたし、仕方ないっちゃ仕方ない、こいつの頭寒そうだし。葵斗はまた背が伸びたらしく、夏会った時よりも全体的に大きくなってて、黒いエナメル鞄といい、風貌は立派な野球部員になっている。坊主頭は少し伸びて、ちょっとダサい。そういう葵斗らしさがやっぱり憎めないんだよな。

「つーか、カフェモカって苦くないの? 葵斗苦いの苦手じゃなかった?」

「あ、飲んでみたくて。逸これ飲んでみて?」

 葵斗はまだ口をつけてないカップを俺に差し出す。

「普通に上手いんじゃね? あったかくてほろ苦くて、ちょっと甘い、どした?」

 俺は葵斗にカップを戻すと、マロンフラペチーノを啜った。冷たくて、甘味が抑えられてて、上手い。カフェモカほどは苦くない。俺はこっちが好きだ。

「俺の声カフェモカみたいなんだって、それって褒めてるのかな?」

 そう言うことか、と妙に納得する。

「それ、誰に? まぁ、いいや、葵斗インスタとかやってねぇの?」

 俺はストーリーに葵斗との写真を載せながら聞く。映えてないけど、この写真の俺はなんかいいと思われる。

「アカウントはあるけど、ほぼほぼやってない。向いてない」

 葵斗はカフェモカを啜った。俺は中学時代からのバスケ繋がりで佐藤ももかとインスタで繋がっている。その佐藤さんのストーリーに瀬山さんが載っていて、このフラペチーノを飲んでいた。葵斗にはこの感じはわからないだろう。

「さすが共学は余裕ですね」と俺は嫌味を言う。多分これくらい葵斗は許す。好きな子が同じで、その子と同じ高校に通ってる葵斗だから。

「まぁ、とりあえず、報告だけど、秋大会の時、俺瀬山さんに聞いたんだ。でも何も教えてもらえなかった。以上」

 俺は本題を伝えた。

「……なんとなく」

 葵斗はためらいながも言った。

「そうじゃないかって思ってたよ。瀬山さんさ、何も言わなかったから。逸と連絡してるってこと。もし逸が聞いて連絡とってたら、多分話してくれてたと思うんだよ。逸と俺友達だから。瀬山さんって……そういう人なんだ」

 俺はケータイを置いた。葵斗はマグカップを左右に揺らす。俺は癪だけど教えてやろうと思った。

「俺、結構頑張ったんだよ。インスタ聞いて、LINE聞いて、お前と友達だってことも言った。けどさ、瀬山さんなんて言ったと思う?佐々木くんに勘違いされなくないからって」

 よし、もうこれで今日の本題は終わりだ。

「勘違い?」

 葵斗は右手で頭を擦る。こいつは本当に優しいやつだと思う。葵斗の癖は昔から変わんない。やるせない時、申し訳ない時、いつも右手で頭を擦る。

「葵斗、お前反応薄くねぇ? 俺にはさ、瀬山さんが佐々木君は友達以上って言っているように聞こえたぞ。……まぁ、俺的にはさ、始められずに終わったっていうか、俺の中でこれはノーカウント。だから、お前あんま気にすんなよ。俺速攻で彼女作るし」

 葵斗はまた右手で頭を擦った。そのまま二人で窓の外を見た。窓側だと外が見れて、気が紛れるかと思ったんだけど、もう外はすっかり暗い。肘を付き空を見つめる葵斗がやたらと目に映り込む。

 自分で言ってて可笑しくなる。始まってないこともないし、これがノーカウントとか、そんなわけない。通学で瀬山さんと一緒になるたび、勝手にドキドキしてた。心の中で、俺は窓に映る葵斗に言った。実はさ、葵斗。俺、一回だけ、瀬山さんの隣に座ったわ。一回だけ。その後冷静に考えて自分の行動を恥じたりしたけど、そんなのどうでもいいくらい、同じ学校のお前が羨ましいと思ったんだ。

「たぶんその勘違いって、逸が思ってるようなやつじゃない。瀬山さん部活熱心だから、俺にチャラついてるとか思われたくなかったんだと思うよ。俺らは部活同盟みたいな感じだから。それより、あのさ、マックの時……」

 そういうと葵斗は息を深く吸う。俺はそうじゃないと思う、瀬山さんはあの時女の子の顔をしていた。だから、俺も引き下がろうと思った。

「あの日俺瀬山さんのLINEのID知ってたんだ。知ってたけど、逸に言わなかった。それ、ずっと気になってて、黙ってて悪かった」

 葵斗は背もたれに体重をかけ、まっすぐ俺を見ていった。

「誰か紹介してよー」

 俺は直視はできない。やっぱりお前が心底羨ましいよ。

「ごめん、俺仲いい女子あんまいない。マネージャーとかも彼氏いるしな」

 こいつは本当に人がいい。何回も頭を擦ってんじゃん。

「でも、瀬山さんとは仲いいんじゃん。実際どんな感じ?」

「瀬山さんって、バスケすごい上手いんでしょ? 逸からみてもすごい? クラスのバスケ部のやつがスリーよく決めるって言ってた」

 窓に映る葵斗は、今度は下を向いていて表情がわからない。

「すごいよ。ツーハンド。きれいなんだ。女子のシュートフォーム初めてきれいだと思ったよ」

 俺は彼女の綺麗なシュートフォームを思い出す。

「……そうだよな。すごい人なんだな」

 少しの沈黙があった。

「仲がいいとはちょっと違うのかな。話すことはあってもさ、別に大した話じゃないし。俺なんか……」

 そして葵斗はカップの中をじっと見つめている。

「LINEできるってだけで側頭するやついるって。お前自分がどんだけ……」

 俺はこれ以上言えなかった。実際、あの日、瀬山さんが試合でスリーを決めるたび歓声が上がっていた。俺はもはや見惚れてた。

「誕生日にさ、」

 葵斗はそこまでいうも急に口をつぐみ、左肘で顔を隠した。

「うん?」

 俺はなんとなく続きが予想できた。

「メッセージ、来たんだ。瀬山さんから。びっくりした。俺めちゃくちゃ嬉しかったよ。全部、全部がひっくり返るんだ」

 左肘から少しだけ顔が覗く。俺は葵斗のこんな表情を顔を知らない。

「瀬山さんはさ、なんかすべてにおいて一つ一つ丁寧に積み重ねてるんだよ。ものすごく慎重に丁寧に。すごい努力してるっていったらそこまでなんだけど、毎日を流してないっていうか。俺との関係もさ、その中の一つであって。俺はその世界に入れてもらえてるだけで満足っつーか。瀬山さんがさ、俺に見せてくれたいろんな瞬間を、一つ一つすげー大切にしたいって思うんだ。多分、瀬山さんはただ目標に向かって、前を向いててさ……それがわかっているのに、そういう瀬山さんの日常に俺なんかがさ、ガツガツ入り込んでくのは、なんか違うかなって思ってる」

 今までのことを思い出すように、一つ一つ丁寧に言葉を選んで話しているのがわかった。さらに続ける。

「俺さ、中学まで野球なんとなく流してやってたっていうか、でも今は野球がすげー楽しくてさ、俺も流したくないって思ったんだ。瀬山さんみたく、ちゃんと向き合いたいって。瀬山さんが困った時とか、落ちこんだ時とか支えてあげたいとか思うし、それは他の人に絶対譲りたくない。でも、それ以上踏み込むのは、なんか違うかなって。俺、もっと、もっと強くなってさ、瀬山さんの隣を堂々と歩きたいんだ。今はそれだけなんだ」

 葵斗は俯いたまま、脱ぎっぱなしの膝にあるコートのボタンをひしりになぞっている。ゴツゴツした手の平はマメだらけだった。

 隣が似合う人になるために自分を磨きたい。葵斗は本気でそう思ってて、その為にまっすぐ走ってんだなと思う。人生何週したらこんなことを思えるんだろう。いつか俺もこんな風に誰かを思えるのだろうか。こんな優しい表情をする葵斗は俺は知らない。学校での二人を俺は知ることができないが、二人が築いてきた時間や距離が少なくとも葵斗にとって、かけがえのないものだと俺は感じた。

「お前らしくていいんじゃね」

 俺は、空のカップを片手にとって、立ち上がる。去り際はスマートに、は父さんの口癖だ。

「紹介頑張る」

 葵斗は、らしくもないことを言った。俺は、カップを捨てて、足早に立ち去った。外の空気は冷たくて、マフラーを鞄から取り出した。それから俺はケータイを取り出し、葵斗に写真を送ってやった。フラペチーノとカフェモカの、あと瀬山さんが試合中にシュートしてるやつ。すごくきれいなシュート。多分あいつはきっと、あのゴツゴツした手の中で、あの優しい表情でこれをみる。

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