学校の五十嵐さん
四谷幽奈は、この学校の生徒会長を勤めていた。とりわけ成績優秀と言うわけでは無いし、運動神経も抜群と言うわけでも無い。
成績は中の上と言った所で、運動神経に至っては下の下だろう。
……そんな幽奈が生徒会長に就任しているのは、どちらかと言えば……押し付けられた。と、言った方が正しい。
幽奈はパソコンモニターを見ながら資料を整理していた。
「やっほー!遊びに来たよー♪」
扉をガラッと開け、女生徒が一人入って来た。彼女の名前は一ノ瀬一花。幽奈の一番仲の良い友人であり、生徒会の書記を勤めていた。幽奈が生徒会長に就任した際、頼み込んで書記になって貰った。……と言う、経由がある。まあ書記と言っても、生徒会の仕事は全て幽奈一人でこなしていた。
「聞いてよー、私の従姉妹がこの学校に転校してくる事になったの!」
……幽奈はパソコンをいじりながら、資料が来てたのを思い出す。
「……そういえば資料、来てたね。後で見とくよ。」
「私の従姉妹、ちょっと変わってるけど……。可愛くて良い子なので、仲良くしてあげてね?」
……幽奈は、何が変わってるんだろ?と、思いながらも時に気にしない事にした……。
──5時半を周り、そろそろ帰宅の準備をする幽奈。
「えーと、これと……。後、これかな?」
明日から連休と言うこともあり、残りは家に戻ってから片付ける事にする。
「んー?今度の創立祭の準備?大変ね。」
この学校では、創立記念日が休みにならず、創立祭が催される。……ちなみに翌日はお休みになる。
「大変だと思うなら、手伝ってくれてもいいんだよ?」
「ムリかなー……。」
一花は目を逸らしながら言う。
「……だよね。」
……幽奈と一花は家が近い事もあり、一緒に帰った。家に到着し、一花と別れ。夕飯や入浴等で気が付くと、時刻は8時半を回っていた。そろそろ生徒会の仕事の残りを、片付けようと鞄を開ける。
「あれ……ない?」
……そんなはずは無い、きちんと確認して鞄に入れた筈なのだ。
「……おかしいな。」
しかし、無いものは仕方ない。多分生徒会室に忘れたのだろう……。
幽奈はノートを明日の朝に、取りに行こうかと迷っていた。
「まあ……いいか、散歩がてらに今から取りに行こう。」
家から学校までは徒歩20分、そんなに遠い距離では無かった。幽奈は服を着替え、学校に向かった。
──学校に到着すると、既に学校は閉まっていた。……幽奈は外にいる管理人さんに開けてもらい校舎に入って行った……。
「うわぁ、暗いなぁ……。こんなに暗かったっけ?」
その薄暗さに恐怖を感じた。
「は、早く電気を……。」
カチッ……。
しかし、明かりは点かなかった。
「え?壊れてるの!?」
幽奈は、持っていた懐中電灯を頼りに職員室に向かった……。
……しかし、職員室の明かりも消えており、誰一人いなかった……。
「えーっ、仕方ないなぁ。」
諦めて懐中電灯で行くしか無いようだ。二階に上がり生徒会室に入ると、一応確認の為にスイッチを押してみた……。
カチッ……。
スイッチと共に明かりが灯った……。
「良かったぁ……。」
電気が復旧したのか、それともブレーカーが落ちてたのか。理由は分からない物の、とりあえず一安心した。
幽奈は生徒会室に入り、ノートを探す。ノートはすぐに見つかる、普通に机に置いてあったからだ。
「おかしいなぁ、確かに鞄に入れた筈なのに……。」
ノートを鞄に入れ、電気を消して廊下に出た。どうやら電気は復旧したらしく、廊下は明るかった。
「良かった。」
幽奈は胸を撫で下ろした。……正直、夜の学校は怖かった。しかも、電気も無く懐中電灯だとさらに怖かった。
……幽奈は安心して歩き出した。
─────────。
突如電気が消えた。いきなりの出来事でびっくりし、懐中電灯を落としてしまった。
……カラカラカラ。
「ああっ!」
懐中電灯は、無情にもこの暗闇の中。……何処かに行ってしまった。
……真っ暗闇である。外からの明かりも無い。懐中電灯も無い。……急いで懐中電灯を探そうとするがこの暗闇の中では見つけるの困難だろう……。
……しかし、よくよく考えてみればおかしな話だ。ここは都会である。外の月明かりはともかく、学校の周りの建物の明かりが全く無いのはかなりおかしい。
幽奈は恐怖もあり、必死で懐中電灯を探した。
……その時、ゾッとするほどの恐ろしい寒気が幽奈の体を襲った。
カツンカツン……。
何処からともなく、足音が聞こえる。
カツンカツン……。
明かりも無い、その足音の主はこちらにだんだん近づいてくる……。
「……ひっ。」
幽奈の体は恐怖で震え動けなかった。
足音はぴたりと止まった。真っ暗闇で全く見えないが、恐らく……目の前にいる。
それも、顔に息を感じる程に。
そして……その何かに……幽奈は肩を掴まれた……。
「ひいっ!」
何者かに肩を掴まれた幽奈は、手を夢中で振りほどき、必死に走った。
すると目の前に懐中電灯の光が見えた。
「えっ?誰か人がいるの!?」
幽奈は藁をもすがる想いで、その懐中電灯の持ち主に近寄った。
……一人の女生徒が懐中電灯を持って立っていた。
「どうしたの?そんなに慌てて……。」
懐中電灯の主は……。五十嵐さんだった。
「そっ、そこに何か……。」
必死で説明するが、懐中電灯の光を当てて探してもその何か、は見当たらなかった。
「……あ……れ、おかしいな……。」
そう考えるものの、居ない方がいいので安心した。
幽奈は、落ちている懐中電灯を拾い上げる……。ふと、周りから指す明かりに気付く。
外は明るかった。校舎の電気は消えているものの、外から指す明かりは周りが見える程の明るさだった……。
その明かりを見て落ち着き、冷静さを多少取り戻した。
……「あれ」は、何だったんだろうか……。それと、
「五十嵐さんはどうして、ここに?」
まあ、私も居るわけだからそこまでおかしい訳ではないのだが。
「……今夜は月が綺麗だからね。色々出てくると思って。」
……色々?どう意味だろうか……。多少疑問が残るのだが、怖いからすぐに帰る事にした。
「待ちなさい、一人は危険よ。玄関口まで一緒に行ってあげる。」
「え?……あ、ありがと。」
玄関口に戻り、靴を履き替える。
「えーと、五十嵐さんはまだ帰らないの?」
振り向くと……誰も居なかった。
「あ、あれ?五十嵐さん?」
周りを見渡すが見当たらない、呼んでみても返事は無かった。
……そしてふと思った。
五十嵐なんて名前の生徒、三年に居たかな……。いや、まあ。居るとしたら一年か二年だろう。一応三年生は全員、顔と名前は把握しているのだから……。
──家に着き、部屋に戻ると携帯電話が光っていた。
「あ、あれ?私携帯電話置いて行ってたの?」
今気がついた……。携帯電話があれば多少の明かりになっただろう……。
しかし、携帯を見て凍りつく……。
「着信48件……?」
……少し、不気味さを感じた。そして鳴り響く携帯電話……。
幽奈は……恐る恐る電話に、出た。
「もしもし?」
「あ、私よ。五十嵐。」
───────五十嵐さん?
「ど、どうして私の携帯の番号を……知ってるの?」
………………。
無言だった。……しばらくして。
「貴方のね……一番の親友に教えて貰ったのよ……フフフ……。」
一番の……親友?……一番の親友と言えば、一花だ。
「一花……とは仲がいいの?」
…………。返事が遅い。
「貴方と……同じ位にはね。」
…………。
「と、ところで何の用?」
…………。
「廊下で財布を拾ったのよ、一花に見せたらやはり貴方のだって……。」
……あっ。財布無いや……。あの時落としたんだ。
「生徒会室の机の中に入れておいたわ。」
「あ、ありがとう。」
「……あ、それともう一つ。」
「今日はもう学校に来ちゃ駄目よ?さっきみたいに危険な目に会うわよ?」
……えっ!?
「……いい?絶対によ。……次は……命の保障は無いわよ。」
……え!?一体どういう事なの?意味が分からないし怖くなった。しかし、まあ。行くことも無いのだが。何故こんな話をするのか疑問だった。あの……「なにか」と関係があるのだろうか……。
それともう一つ気になる事が合ったので聞いてみた……。
「い、五十嵐さんは……何年何組なのかな?」
………………。
返事がない。……いや5分程度経過した後に声が聞こえ出した。
「3年……1組よ。」
…………。
「そう……財布の件ありがとうね。じゃあ切るね。ありがとね。」
「いい?絶対に来ちゃ駄目よ……次は……」
……プツンと、そこで電話は途切れた……。
「おかしいでしょ?3年1組?私のクラスよ?五十嵐なんて名前の人は居るわけがない!見たことも無い!それに……。私は学校から真っ直ぐ帰って来た。それなのに、私の家より遠い一花に会った?」
どう考えてもおかしかった……。
……そしてまた、すぐに携帯電話の着信音が鳴った。
「はい。」
とりあえず出てみる幽奈。内容は……。
「やっぱりすぐに、学校まで財布を取りに来てくる?」
…………?
「どういう事?さっきは絶対に来るなって……言ってたじゃない!?なんで?」
………………。
…………なんで。
「気が変わったのよ……来るの?来ないの?」
「行かない!別に何時でもいいでしょ?財布なんてっ!」
…………。
「良くないわよ……来ないなら……貴方の家まで行くわ……知ってるし……住所、くすくす。」
……………。
「な、なんで……知ってるの?」
…………。
「言ったでしョウ?あナタのオトモダチにキいたッテ……。くすくすクス。」
……………。
声が……おかしい……なんなの!?
「あ、貴方誰よ!?……い、五十嵐なんて名前の人、ウチのクラスにいないわよ!」
………………。
………………。
………………。
「くすくす……フフフ………あははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」
怖かった……泣き出してしまいそうだった……。
「来たくなければ、いいのよ?それでも。そうね……30分待ってあげる。それまでに来なかったら……命 ハ ナ イ !!」
ブツッ……ツーツー……。
そこで、電話は切れた。幽奈は泣きながら走った……。
──5分後……。
幽奈は自分の携帯電話の液晶を眺めていた。時間は後25分しかない……。急がねばならないのは理解していた。しかし、一人では心細かったので、誰かに助けを求めようと考えた……。でもこんな事に大切な友人を巻き込んでいいものなのか?……無論駄目に決まっている。……それでも何かにすがりたかった、助けを求めたかった。
……幽奈の精神状態はそれほどまでに追い込まれていたのだから。もしかすると、大勢いれば何事も起こらないかも知れない。
……いや、例えどんな理由があっても、大切な友人を巻き込むのは間違っている……それでも。
「お願い……学校まで……今から一緒に行ってくれない?」
「え?今から!?どうして?こんな夜中に……?」
「……駄目……かな?」
「いいよ。すぐに行くから……待ってて!」
……ごめん……一花……。幽奈は心の中で幾度も謝り、すぐに来てくれる一花に感謝した。
「ありがとう……ごめんね。」
家の前で10分程待っていると、一花が走ってやって来た。
「……学校に行くだけなのに、泣いてるなんて……どれだけ怖がりなの!?」
「あ……来てくれて、ありがとう。」
……抱きついて泣いてしまいたいのを我慢し、学校に向かった。
学校は……また電気が消えていた……。
管理人室には、誰も居らず。……校舎の扉も開けっ放しだった。
「あれ?夜の学校ってこんなに暗いんだー!知らなかったねー。」
探検気分でわくわくしてる一花に対し、幽奈はガクガクと震え、怯えていた。
(どうして管理人室に誰もいないのよ……開いてるのもおかしいでしょ……。)
……キィ…………ガチャリ。
玄関の扉が勝手に閉まる……。
慌てて扉とカギを確認するも……カギが回らない……。
(閉じ込められたの……!?)
「何してるの?行くよー。」
「……あっ、うん。」
……二人は、暗闇の中を進んだ。あるのは手に持っている懐中電灯一つのみ。
一応いるかも?と、職員室も覗いてみるが、やはり真っ暗で誰一人居なかった……。
一応電気のスイッチを押してみるのだが、職員室も廊下の電気も点かなかった。
「夜の学校って思ってたより、真っ暗なんだね。知らなかった……あはははは。」
……流石にそんな事は無いだろう、と言いたがったが。今はこの一花の明るさが何よりも有り難かった。
二階の生徒会室にたどり着くと、すぐに電気のスイッチを押した。
……カチッ。
明かりが、パッと点灯した。
(どうして生徒会室だけ、電気が付くのよ……)
「あっ、そうか。電気のスイッチ押せば良かったんだー。」
一花は何も知らずに、そう言った。
一刻も早くここから逃げ出したい幽奈は、机に向かい財布を探す。
「……確か、机の引き出しの中って言ってたよね。」
机の引き出しに、財布は入れてあった。すぐに逃げ出そう!……そう思って振り向くと。
「あっ私ちょっと、トイレ行って来るね。」
……えっ!?
一花は返事も待たずに飛び出した……。懐中電灯すら持たずに。
……ええっ!
「ひっ、一人にしないでよっ!!」
幽奈は叫ぶが、返事は無かった。……ちょっと追いかけて、廊下には出たものの……廊下は電気もなく真っ暗闇だった。
(で、電気も点いてるし。……ここで待っていよう。)
真っ暗闇の中、トイレの外で待つよりは良いのかと、考えた。
……しかし、何分待っても一花は戻ってこない。一花がトイレに行ってから既にもう20分が経過していた。
「ちょっと……長いかなー。」
ただでさえ、怖いこの状況。一花が全く戻って来ない状況に何とも言えない恐怖を感じていた。
……もちろん、一花の身の安全も心配していた。
──さらに20分後が経過した。
いくらなんでも、遅すぎる。……まさか一花の身に何か合ったのでは……そう考えてる矢先。
コンコン……。
扉をノックする音が聞こえた……。
「……えっ?何!?」
コンコン……。
またもやノックの音……。その後一分程何も音がしない……。
「何なの!?」
幽奈は怖くなり後退りした……。
「たっだいまー!」
一花の声だ!
幽奈は安心した。……一花のいつものいたずらだったようだ……。
「ここ、開けてよー。」
なんでこの子は、自分で開けないのよ?と考え、扉に向かった……。
普通ならおかしいのに気が付いた筈だ、この違和感に。
しかし、この時の幽奈は……。一花の声を聞き安心仕切っていた……。
ガラリ……。
扉を開けたその先に……。
……「ナニ」かが居た。
制服を着た、髪長い少女が立っていた……。
すぐに一花では無い事は理解出来た。体全身に見も毛もよだつ恐怖が襲い。恐怖に体がガタガタと震え、一歩も動けずにいた。
そのナニかは異様な雰囲気を放ち、人ならざるものである事を理解するには充分だった……。
「ひいっ!」
黒髪の少女の首は、あり得ない角度で曲がっており。その異様さを際立たせていた。
「い、嫌!」
……ゆっくりと少女の頭が……上がる。
ズルリ……。
少女の顔には……目玉が無く……口からは血を流していた。
「………………!」
幽奈はあまりの恐怖に、声にならない悲鳴を上げた。一刻も早く逃げ出したいが、体が鉛のように重く全く動かない。
その「ナニ」かは、ゆっくりと……ゆっくりと近づいて来る。
幽奈の怯える顔を覗き込み、腕を掴んできた。
「痛いっ!!」
恐怖で……泣く事しか出来なかった……。
「誰か……助けて……。」
周りを見回すが誰もいない、ここは深夜の学校なのだから。……もしかしたらトイレに行った一花が戻って来るかも知れないのだが、当然誰もいなかった。
「……誰かっ!!」
…………幽奈は、あまりの恐怖に目を閉じた。
怖い、怖い、怖い、怖い……。
「止めなさいよ、彼女嫌がってるでしょ?」
……声がした。一花が戻って来たのだろうか……?幽奈は、恐る恐る……目を開けた。
「五十嵐さんっ!?」
……どういう事!?
その異様状況に、既に頭は回らなかった。
「ナニ」かは、ズルリと五十嵐さんの方に頭を向けた。……そして幽奈から離れ、ヒタヒタと歩き出し……五十嵐さんの元へ向かって行った。先程と全く同じ様に「ナニ」かは、頭をぐるりと回転させ。……五十嵐さんの顔を凝視し、腕を掴んだ。
「汚い手で触らないでくれる?」
五十嵐さんは掴まれた手を振り払い、その振り払う手でそのまま拳を「ナニ」かの顔面に叩きつけた。!
ギヤァァァァァアアア!
「ナニ」かは、奇声を上げながら20メートル以上先まで飛ばされ、壁に激突した。
……そして、窓から指す朝日と共に……消えて行った……。
「ええっ!?」
……その異様な光景に、思わず声を漏らすも。全く頭が働かずただ、呆然と見ているしか無かった。
「……貴方、何で来たの?今日はもう来ちゃ駄目って教えたでしょ?」
……えっ?
「だって、五十嵐さんが電話で!やっぱりすぐに取りに来いって!言ってじゃない!?」
……五十嵐さんは、それを聞いて首を傾げた。
「私はそんな事、言った覚えは無いわよ?」
……えっ?どういう……事なの?
「たっだいまー!」
陽気で明るい声がした……。どうやら一花が戻って来たようだ。
「あっ!霊子も来てたんだー!」
……え?
……なんで、知ってるの!?
………………。
その時、幽奈は初めて五十嵐さんに会った時の事を思い出した!
……そう言えば私も、「会ったこともない」はずの五十嵐さんの事を認識していた。
私は五十嵐さんに、一度も会ったことも無ければ、話をした事も無い。それなのに、私は五十嵐さんの名前と、顔を知っていた。
もしかしたら、一花も同じなのかも知れないと考え。……深く言及せずにいた。
……三人は、玄関口で靴を履き替え外に出ようとした……。
「あれ?霊子は帰らないの?」
……一人、外に出ようとせずにこちらを見ているだけの五十嵐さんに、一花は声をかけた。
「私は……行けないから。」
五十嵐さんは、悲しそうに微笑む。
「もう、会うことは二度と無いかも知れないけどね。」
「あはは!何も言ってんのよ?もう、明後日学校で会うでしょ?」
「もう、時間が無いわ……お行きなさい。」
私は深々と五十嵐さんに頭を下げた後、一花の手を引いた。
「……行きましょ」
「……え?霊子は?えっ!?」
「いいからっ」
──学校から外に出ると、もうすっかり朝日が昇り、夜が明けていた。
顔に当たる風がとても気持ちが良かった。あれほど怖い目にあい、泣いていたにも関わらず。……今は晴れ渡る空の様に清々しい気持ちになった。
……五十嵐さんは「もう会うことは無い」と言っていた……。少し悲しい気持ちになる。
それにしても五十嵐さんは一体何者なんだろうか……。そう言う考えも頭を過ったのだが、幽奈は微笑みながらこう言った。
「また、五十嵐さんに会いたいなぁ……。」
「またすぐに会えるわよ!」
一花もまた……笑いながら答えた。
学校の五十嵐さん 終
~エピローグ~
いつもの日常に戻り、教室にある自分の席につく。隣には一花がニコニコしながら座っている。
「おっはよー」
「……いや、一瞬に学校に来たよね?」
そう言った下らない話をしながら、ふと先日の夜の事が頭を過る。
一花は五十嵐さんの事を覚えているのだろうか……?いや、あまり「あの夜」の話はやめておいた方がいいと思った。……嫌な予感がしないでもないからだ。……うん、やめておこう。
「ねー、それより聞いてよー。私の今日の運勢最悪だってー。」
「え、そうなんだ……大変だね。」
「なによそれー!私の今日の命運が掛かっているんだからねっ!一大事よ?一大事!霊子もそう思うよね?」
「……ええ、私もそう思うわ。」
五十嵐さんも、一花の意見に同意の様だ……。
「!?」
「だよねー!霊子もそう思うよねー!」
「その通りよ、一花の今日の運勢はかなり悪いわ。今日は冥王が2000年に一度、ブラックホールに一番近付く日よ!カタストロフィーがゲシュタルト崩壊を起こして一花の身にも災いが降りかかるわ!だから今日は真っ直ぐにお家に帰りなさい!もし、寄り道なんてしようものなら……命は無いわよ?」
……五十嵐さん!?
「でも、まあ。霊子の占いなんて当たった事一度も無いから、まあいっかぁ。今日はさ、帰りにケーキ屋さんに行こう。うん、決定!」
……五十嵐さん……いるし……。
「えっ!ええっ!?」
私はあたふたと取り乱した……。
「幽奈は昨日会ったよね?私の従姉妹の霊子よ。ねー?変わってるでしょ?中二病なの……それもかなり深刻な……。」
……え?……いやいやいや……え?
従姉妹?……あっ、ああっ!?転校生?そうだ転校生だ!幽奈は転校生の資料と、生徒手帳の写真と名前を思い出した……。
なんだ、考えて見れば簡単な事だった。生徒手帳の顔写真で、顔と名前を知っていただけなのである。クラスも同じ、今日から同じクラスなのだから何も間違っては、いなかった。
……えーと、じゃあ私の携帯電話の着信は……?
「あー霊子ね、使い方が分からないからって何回もやり直したみたいなのよ、履歴残るの知らなかったみたい。」
……私はポカンと口を開けたまま、言葉を失った。
──その後、特に何事も無く。三人はケーキ屋さんに寄り、家に帰った。
幽奈は夕食や入浴を済ませ、部屋に戻ると携帯電話が光っているのに気が付いた。着信……24件……五十嵐さんかな?履歴を確認すると全て一花だった。……そしてすぐに鳴る着信音。
「はい、何の用?一花。」
「ちょっと聞いてよー。最悪よ!今日のケーキ高かったのに、全く美味しくなかったよー。」
あー、それは最悪だ。一花にとっては最悪な1日だろう。
全ては私の思い過ごしだった様だ。五十嵐さんはただの普通の人間で、一花の従姉妹で同じクラスメイト。何一つ不思議は無かった。
……幽奈は、灯りを消しベッドにダイヴした……。
学校の五十嵐さん 完
な、訳無いでしょ!?幽奈はベッドから起き上がり叫び出す。
「あの化け物、パーンしてたよね?パーンって吹っ飛ばしてたよね?パーンって!!」
どうしても突っ込まずには、いられなかった幽奈でした。