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元侯爵令嬢のこれから

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 上目遣いで少年がアフリックを様子を伺っていた。アフリックは子供の頭を優しく撫でた。

「先ほどはごめんなさい。怖かったでしょう?ありがとう…。皆さんもありがとう…」

 見渡せば、いつも温かく見守ってくれている客たちがアフリックを囲んでいる。

「アフリックちゃんはお貴族様なんだろう?何があったか知らないけど…。一生懸命に働くアフリックちゃんにいつも元気を貰ってんだ!」

 食堂に勤め始めたとき、何もできないアフリックを客たちは小馬鹿にしていた。話し方も上品な口調で庶民とは全く違う。どこかの没落した貴族令嬢がおままごと気分で出稼ぎにきたのだと誰も期待をしていなかった。

 すぐに辞めてしまうだろうと思っていたのだが、直向きに仕事をしているアフリックの姿を見て、いつしか客たちは応援したいといった気持ちを持つようになった。

「こんなことがあって…。ここが嫌にならなきゃいいけど…」

「あたい、あんたにやめてほしくない!」

「ふぉふぉふぉ…。アフリックちゃんの笑顔はじじいの秘薬でな。アフリックちゃんを見ていると元気がでるんじゃ!じじいが長生きするためにもいてほしいのぉ」

「僕、お姉ちゃんが大好きなんだ!だって、いつも優しいもん!」

「癒されるんだよね。アフリックさんの笑顔…」

「ほら…。最近、嬢ちゃんの周辺が騒がしかったじゃろ…。ワシら、嬢ちゃんが本来の場所へ戻ってしまうんじゃないか?心配しておったんじゃよ…」

「でも…。こんなことがあったから…。仕方ないよね…。お嬢様が働くような環境ではないし…」

 口々に皆は自分の気持ちを声にして伝える。アフリックは涙を堪えて微笑んだ。

「いいえ…。私はこの職場が大好きなのです…。だから、ずっといたい…」

 和やかでほんわかとした空気に食堂は包まれ、幸せな気分に客たちは浸っている。

「アフリック!好きだ!愛している!」

 唐突にオスカリが叫んだ。湾曲な表現ではアフリックに伝わらない。客たちを見習い、率直な言葉で告白しようとオスカリは試みたのだ。

「えっ…」

 アフリックは目を丸くして驚いている。

 学園での出来事があったため、アフリックは自分の容姿に対して自己評価が低い。自分は他の令嬢たちに劣るのだと劣等感を感じており、自分の容姿に異性が惹かれることはないだろうと考えていた。

 だからこそ、オスカリがアフリックへ囁いていた愛の言葉も冗談あるいは慰めだと考えていた。

 告白だと受け止めて、リーアムのように態度が突然豹変することがあるかもしれない。もう同じような思いをして傷つきたくない。アフリックは恋を恐れていた。

「乗じて、何を言っているんだ⁉︎」

 リーアムが呆気に取られている。

 アフリックがオスカリへ意識を向けてくれたこの機会を逃すわけにいかない。畳みかけるようにオスカリは続けた。

「ここでずっと仕事してくれて構わない!オレがここから研究所へ通う!だから結婚してくれっ!絶対に幸せにしてみせる!」

 オスカリは手を差し伸べるとアフリックの指先を軽く握り、手の甲へそっと接吻を落とした。アフリックの耳朶が赤くなる。

 アフリックはオスカリの愛の告白に戸惑っているものの、喜びを感じて柔らかく微笑んだ。

 アフリックが失踪したとき、オスカリは真っ先にアフリックを見つけだした。家族から遠く離れた場所で悲しくて辛かったとき、オスカリはアフリックの傍らにいて勇気づけてくれた。

 学園の皆がアフリックを非難していたが、オスカリだけはアフリックに罪はないと信じて疑わなかった。全て濡れ衣だったことも証明してくれた。

 オスカリは仕事が多忙でも、何度もアフリックに会いに来てくれ、他愛のない話で笑わせてくれる。二人で過ごす時間が楽しみになっていたことをアフリックは気づいていた。オスカリは時間をかけて、アフリックの気持ちをゆっくりと溶かしていった。

 いつの間にか、アフリックの心をオスカリは占めていたのだ。

「むっ!僕も!僕も!お姉ちゃんのこと大好き!」

 傍観していた少年がハッと我にかえり、自分の意見を主張した。すぐ近くにいた青年が力強く挙手して告げる。

「黒髪の!抜け駆けは許さん!オレもアフリックちゃんが好きだ!」

「ずるいぞ!俺も結婚を申し込む!」

「おいこらっ!ここはオレを立ててくれ!一世一代のプロポーズなんだからっ!」

 我も我もと群がる客たちをオスカリは牽制するも誰も引く様子はない。

「…。じゃあ…。望みは薄いかもだけど、私も立候補しても構わないかな…」

 混乱の最中、リーアムが名乗りをあげる。それを見咎めたオスカリがリーアムを睨む。

「待て待て待て!お前こそ、どさくさに紛れて何をっ!許さないぞ…」

「いやいや、妹の面倒はお兄ちゃんがしっかり見るから…」

 いつの間にか、エイノもアフリック争奪戦の輪の中に入っていた。シネイドのおかげで無事に治安部隊から解放されたようだ。

「「エイノは黙って(ろ)!」」

 オスカリとリーアムの声が揃った。



 シネイド食堂

 女将の料理はいつも絶品です。今日も元気な看板娘が出迎えます。

 ぜひ、一度お食事に来てくださいませ。


 追伸,

 看板娘に手を出したら…。番犬が噛み付くかもしれませんのでご注意を!

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