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元侯爵令嬢の幼馴染

 それは、王立魔法学園の卒業記念祝賀会でアフリックが断罪され三ヶ月後…。国外追放となったアフリックが不慣れな仕事に悪戦苦闘している頃へ遡る。

「事の次第はサーシャ嬢の魅了が原因だ…」

 魔法研究所所長の一人息子オスカリが、窓からアフリックの部屋へ訪ねてきた。

 オスカリがアフリックの国外追放を知ったのは、アフリックが隣国へ逃れてから三日後のことだった。

 アフリックより四つ年上のオスカリは断罪事件の際、既に学園を卒業しており祝賀会へ参加しておらず、魔法研究所で新たな魔法の開発に没頭していた。

 黒髪に赤目のオスカリはスッキリとした顔立ちで中性的な魅力があり美しい。国一番の魔力の持ち主で魔法を自在に扱え、多くの貴族令嬢の憧れの存在でもある。

「…。左様でございますか」

 然程、興味もなさそうにアフリックは答えた。

 オスカリはアフリックのふっくらとした頬を両手で挟む。

「あぁ…。ところで…。お前、少し痩せたか?」

 アフリックは人よりもポッチャリとしていた体型だったが、前よりも少し細くなっていた。

 侯爵令嬢だった頃に比べて、アフリックの生活は一変している。一日中、アフリックは忙しく動いており、食事の内容もずっと質素になった。痩せるのは当然である。

「まぁ…。毎日仕事をしておりますし…」

 まだ二人が幼かった頃、お菓子を頬張るアフリックの姿はまるで愛嬌のある子リスのようで、美味しそうに食事をするアフリックを眺めるのがオスカリは大好きだった。

 当時、アフリックの溌剌とした頬を触っては、淑女の肌へ無闇に触れるものではないとオスカリはアフリックに怒られていた。

 無性に懐かしさが込みあげる。

 思えば…。オスカリはあの頃からずっとアフリックへ恋をしていた。オスカリが自身の恋心に気づいたのは、アフリックとリーアムの婚約が正式に発表されたあとだ。

 オスカリは王立魔法学園の卒業生で教師からの覚えがめでたかったので、希望すれば祝賀会へ参加が可能であった。だが、婚約者のいないオスカリは夜会などで令嬢たちの格好の餌食となってしまう。それが憂鬱でオスカリはパーティーの類いに進んで出席することはなかった。

 オスカリが祝賀会へ参加していれば、アフリックの唯一の味方でいられたに違いない。国を追われることもなかっただろうと後悔していた。

 誰よりも先に国外追放となったアフリックを探しだしたオスカリは、アフリックの冤罪を晴そうと一人で事件の真相を追究していた。

「艶々だった髪が乾燥してしまったな…。あのサラサラな髪、好きだったのに…」

「致し方ありませんわ…。貴族の頃と違って…。お金もありませんし、自分にかまけていられません」

「今からでも、オレと一緒に暮らさないか?不自由させない…」

 下ろしたアフリックの髪を一房人差し指へ絡めて、オスカリはクルクルと回す。すると、アフリックの髪はあっという間に輝きを取り戻した。

「私は十分自由です。全てが自分に委ねられる…。あの頃の私にはできなかったことですわ…」

 オスカリなりに愛を告白したつもりであったが、アフリックには通じなかった。

「そうだな…。昔は男を部屋に招くなんてことしなかったしな…。ましてや二人きりだなんて…」

 オスカリは熱を帯びた真紅の眼差しをアフリックへ向けるも、アフリックは気づく様子もなくオスカリを叱責する。

「それは、今でもいかがなことかと思いますわ…。貴方がいきなり押しかけてくるのではないですか?」

 オスカリは何故かアフリックが食事をしている時に前触れもなくやってくる。

 ある時は玄関から…。

 ある時は窓から…。

 ある時は台所の床から…。

 突然現れた魔法陣が光を放ち、オスカリが出現するのだ。

「えっ?だってそうすれば、お前の作った手料理が食えるんだぜ?あのクソ王子だって、食った事ないだろ?」

「くっ?…。リーアム殿下に失礼ですわよ?」

 アフリック、オスカリ、リーアムは幼馴染である。王太子であるリーアムへのオスカリの軽口は子供の頃から直っていない。

「だって、アイツ…。魅了にかかっていたとはいえ、婚約者だったお前をいじめたじゃないか?冤罪だけど、サーシャ嬢をお前がいじめたってことの内容より酷かったと思うぞ…」

「…。もう、過ぎた事ですわ…」

「あれが?廊下でお前が挨拶を伝えても存在しないかのように無視したり、お前のいないところで豚が王太子妃になるなんて世も末だなんて罵ったり、サーシャ嬢のためにお前が学校に来られらないよう教科書やら何やら破いたり捨てたり指示してたのはアイツだぞ…」

「思い出させないで…くだ…」

 オスカリの不用意な発言に傷ついた面持ちのアフリックは言葉に詰まる。

「あぁ…。ごめん…。そんなつもりは…。お前の挨拶はいつも完璧だったし…。ぽっちゃりしてるけど、愛嬌あってめっちゃ可愛いし…。オレがアイツの立場なら周りのヤツをぶっ飛ばして守ってやるのに…」

 涙を隠そうと両手で顔を覆うアフリックへ、オスカリが思いの丈を打ち明けるも、やはり告白として受け止めてくれない…。

「魅了されていたのですから…」

「それがどうした?魅了で唆されたまでは、まぁ許容範囲…。範囲か?けど、だからってソイツの言いなりになって人を攻撃するなんて、将来国を担う王太子がすることかぁ!」

「…。もう良いのです…」

 アフリックの声は震えていた。

 オスカリは慰めるようにアフリックの髪を何度も撫で下ろす。

「人が良すぎるんだよ…。はぁ…。でっ、どうする?」

 アフリックは手の甲で涙を拭い、オスカリへ告げる。

「このまま、サーシャ様と殿下が結ばれてしまえば…。サーシャ様の魅了のせいで陛下や王妃様にも害が及ぶかも知れません…。そうすれば、国は立ち行かなくなります…。国民も苦しむことになりましょう…。陛下へ進言くださいませ」

「もうしてる…。陛下はすでに異変に気づいて調査を始めていた…」

 国王も愚息が勝手にしでかした事態を重くみており、消息が掴めないアフリックの身を案じていた。

 場所をあえて伝えたりはしなかったが、アフリックが無事であることを報告すると、国王や王妃は共に安堵した表情を浮かべていた。

「なぁ?このパン…。中に何か入ってる?」

 オスカリが食卓の上、籠の中に山盛りになったパンへ興味を示す。

「カスタードですわ…。今日は定休日で仕事がお休みだったのですが、女将さんにパンの作り方を教えてもらったのです」

 アフリックへ断りなく、オスカリはパンを一つ手に取り齧りつく。

「美味しいなぁ…。おかわりいい?」

「えぇ…。お土産にも持って帰られますか?作り過ぎたので近所の方々へお配りしようかと思ってたのですよ…。カスタードは日持ちはしないようでして…」

 オスカリはパンの籠を奪うように取りあげた。

「これっ、全部オレ食う」

「えっ?全部ですか?ふふ…」

 呆れながらも微笑むアフリックを見つめ、笑顔が一番可愛いとオスカリはしみじみ思ったのだった。

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