祠が壊れていたので直したら、急に女神が出てきて願いを叶えてくれるらしい
俺の名前は古川圭吾、ただの大学2年生だ。
勉強も運動も人並みにできる俺なのだがそんな俺にはもったいないくらいの彼女がいる。
「ごめーん、また教科書貸してくれない?」
「またか…まあいいぞ」
「本当?ありがと!」
じゃあねと去っていく黒髪ロングの美少女、あの子が俺の彼女だ。ちなみに名前は高橋夏美だ。俺達は元々家が近所だったこともあって関わることも多かった。最初は仲良くこそはできなかったが時間が立つにつれて話すようになっていた。高校時代に俺が告白してから彼女も了承し交際を始めた。
ここまで交際関係に何も問題は生じていない、普通に仲良く接している。
「うぇーい、今日も仲いいじゃねえか」
羨ましいなと声をかけてくるのは大学に入ってからできた友達の瑛人だ。お調子者なのだがこれでも一応いいやつなので接していて嫌な気分になることは…
「もうヤったか?卒業したか?教えてくれよ?」
前言撤回、普通に不快だった。
「してないし人前で言うな」
俺がいやいやそう伝えると
「いやお前まじかよ、ヤることヤっておかないと取られるぞ〜?」
ととても悪い笑顔で囁いていた。
時計を確認すると後もう少しで講師が来る時間だった。
「う…うるさい!とにかくもう授業始まるぞ!」
「あ、逃げた〜。取り敢えずヤったら教えろよ〜」
ゲラゲラと笑いながら空いている席に着席する瑛人、相変わらずのお調子者ぶりだなと思いつつ自分の席に着席する。
自分以外誰もいない廊下で足音がこだまするのがよく分かる。
(…少しずつ持ち帰ればよかった、こんな小学生みたいなことをしてしまうとはな)
夏休み前に一気に荷物を持ち帰る小学生の気持ちを大学生になっても経験するとは思わなかった。
何故俺はこんな荷物を運んでいるのかと言うと、瑛人とじゃんけんして負けたからだ。荷物持ちってやつだな。それにしても押し付けすぎだろ…、夏美に話したら笑ってくれるかな。
(それにしても夏美に連絡しても何も反応がない…)
そう思っているとどこからか話し声が聞こえてきた。
「…なんだよね〜」
「マジ?やべえじゃん彼氏さん」
と会話しているのが俺の耳に入る。よくそういう話を聞くがまさか廊下でその話をするとは…。
というかこの声…
「今ブロックしちゃったけどもうたっくんがいればいいもん!」
「お前も悪い女だな、夏美」
なつみ…?
思考を放棄していたらばったり遭遇してしまったらしく、気まずそうな雰囲気には…ならなかった。
「あ、圭吾じゃん、ちょうど良かった〜。私達別れない?」
突然のことだった。何もかも考えられなくなっていた。
別れる…?
「だってぇ…いつまで経っても進展しないんだもん。もう圭吾に対する愛情はもうないなぁ」
俺が何も反応を示さないことを良い事に文句を言う。
「だからぁ、たっくんに機種変?しちゃいましたー!」
「おいおい、俺はスマホじゃねぇって」
と隣のいかにもチャラ男そうな男性はゲラゲラと笑っていた。
この言葉を聞いて俺はもう夏美に対する感情は何も無くなっていた。
夏美の答えを聞いた俺はその答えを受け入れることにした。
「…分かった。もう二度と顔を合わせたくないから変に連絡すんなよ?」
涙をこらえながらも返事をする。
だがそんな事は知ったことかと笑顔で返事をするのは夏美だった。
「言われなくても!今までありがとね〜、あと教科書」
「え、あ、うん…」
意外とあっけない別れだったからか何も考えられなかった。
こういうとき、俺はこうすることにしている。
とある山の奥、一人の青年がこの道を歩いていた。
「ここの道を歩いていると安心するんだよな」
何か辛いことがあったら俺は裏山に散歩していた。散歩している間は嫌なことを忘れられるからだ。とにかく歩いた。別れの辛さを払拭するかのように歩いた。だがどんなに歩いてもその思いは拭い切れることはなかった。
「…水?」
自分の顔に水が流れていることを感じ取った。水の流れる先をたどると目だった。気づかないうちに涙を流していたようだ。
「…雨、かな」
雨のせいにしたかった。そのくらい辛いことだったんだなと心の底で実感する。
「…どうしてだよ!」
思いが止まらなかった。
「俺のことを…好きじゃなかったのかよ!」
あのときは我慢できていた言葉が止まらなくなったのか次々言葉に出てくる。
俺はその後も言葉を吐きまくった。30分してようやく落ち着いてきた。
「…何やってんだろ、俺。未練たらしく元カノ気にしてるって…」
今考えてきたら馬鹿らしくなってきた。
「…もう帰るか」
そう思った矢先に一つの物体に目が届く。祠のようだ。
「…何で壊されてん?いたずらか?」
誰がどう見ても祠が壊されていることに気付いた。
「…直すか、祠」
そう思い立った俺はホームセンターで材料を揃えることにした。
少し時間が経った山奥は完全に暗かった。
「…ここか、相変わらずひどいな」
その祠は完全にとは言わないが祠とは呼べないほどに壊されていた。
「…はじめるか」
修復作業を始めることにした。早速袋から資材を取り出すと時間を忘れて作業に没頭した。
「…出来たな!」
新しい資材と祠であったものを組み合わせて出来たものは初心者である彼にとっては史上最高の出来と言ってもいいかもしれない。
「何で俺、祠直そうってなったんだろ」
今考えると本当に謎だった。彼女に振られたから?今までの幸せな生活が無くなったから?
理由はいたって単純なんだろうな
多分、暇だったから
彼女と過ごしていた分の時間ができちゃったからやったことなんだろうな。
「…帰ろ」
こうして俺が帰ろうとした時…
「待ってください!」
女性の声が聞こえた。
振り返るとそこには女神と表現するのがお似合いな金髪、顔面国宝と呼ばれても何も不思議ではない整った顔立ち、完全な美少女が白い布を着た状態で立っていた。
「祠を直してくれたのはあなたですよね?」
と質問をされる。
「確かに祠を直したのは俺なんだが…なぜだ?」
「あなたみたいな善者にお礼をしたいのです。そうですね…何か一つ、願いを叶えて差し上げましょう」
多分木こりの泉みたいな感じなんだろうな。
そう思ってしまうのかこの不思議な状況も納得できてしまう。
「…願い、か」
「そうです、願いを一つだけ、なんでもよろしいです」
俺はその言葉を聞いて一つの答えを導き出した。
「…そうだな、一生俺の隣にいてほしいな」
俺は、彼女との思い出を消してほしいとか、そんな彼女とやり直したいとかではなく、今の俺と接してくれる人と過ごすことを決めていた。
「わ…私とですか?!」
「あぁ…」
俺の願いを聞き入れた女神さんは顔を赤くして恥ずかしそうに、そして逃げるように下に目を逸らす。
「…分かりました。不束者ですがお願いします」
お願いを聞き入れたのか少し煙を出しながら変身…はしなかった。あの女神さんのままだった。
「…今のは」
「今のはこの世界に適応するための反応なので気にしないでください」
と言いながら説明してくれる。ちょっと心配しちゃうじゃん。
「…そうだ、ちょっと見てほしいものがあるんだ。そういえば名前は…」
「名前はディアーナで大丈夫です」
「ディアーナさん、ちょっと来て」
と俺は無意識のうちに彼女の手を引いてとある場所につれてきていた。
それは裏山の頂上、街を一望できる場所だった。
「…キレイね」
「そうでしょ?この景色は俺だけ知っている場所だから見せたかったんだ」
元々は夏美といっしょに見る予定だったし、プロポーズするための場所だった。だが浮気されてしまったので見せる相手がいなかった。
「へぇ〜、ありがと」
彼女は笑顔でそう言う。
「…元カノさんにこの景色、見せる予定だったでしょ」
「よく分かったな」
「これでも女神だもの」
ふふっと笑うディアーナ、それに重ねるように俺も言う。
「…元々は大事な人に見せようって思ってた景色だからな」
「つまりそれって…」
「そう、今の俺の大事な人はディアーナだからな」
俺がそう言うと顔を赤くしながら
「…馬鹿」
とディアーナは圭吾に聞こえない声量でボソッと呟いた。