私はいつか怪物になる
「君はいつか、怪物になるね」
目の前の男は突拍子もなくそんなことを言った。
私は一体何を言われているのかわからなくて、持っていた万年筆を置いた。
「『山月記』で李徴は虎になったが、君はおそらく怪物になる」
原稿用紙にびっしり描かれた私の物語を一瞥し、男は再び口を開いた。
「君はいつも船を見送る係だ、そのくせ常にその胸中には嫉妬心がとぐろを巻いている」
だからどうした、と私は彼を無視して再び万年筆を手に執った。
今ちょうどいいところなのだから、邪魔をしないでほしかった。
「嫉妬心があるのは構わないが、君のそれは冒険に出る勇気が足りない。圧倒的に不足している。だのに、なんだって成功するだなんて妄想するのかね? 毎回毎度懲りないねえ」
煩い。
「臆病なだけさ、君のそれは。恐れ抱き怯み続け一線を越えることもせず、延々と同じところ巡るだけの、なんて無様な冒険譚。もう嘲笑うのも飽きたよ。そろそろ終わりにしてはどうだい」
煩い。
「終わらせられないのか、残念だ。未だ向かっているその物語だって献上したところで空気のように溶けて消えるだけだよ。インクで汚れた紙なんぞより白紙の方が価値があるだろうに」
煩い。
「指先も頬もインクで汚して、君は一体何を目指しているのだね? 頂点か? 栄光か? ――いずれにしても怪物になろうとする君には不似合いだよ」
煩い。
「大人しく洞窟の奥底で呻き声でも上げながら、物語を膿んでは捨てて膿んでは捨てていけばいい」
煩い。
「――まあ、生まれたその子たちが幸福であることぐらいは、祈っておこうかな」
「煩いッ!!」
堪らず叫んで気づいた。
この部屋に私しかいない。あれは、なんだったのだ。
私はふと手を見た。物語を書き連ね続けて黒いインクに汚れ、ペンだこだらけだった。
「これは……」
無様であっても人間であった私の、裸電球に照らし出された私の手は、指先から黒が染み込んで、