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3話

 朝起きて食パンをかじり、すぐにゲームを開始する。


 目を開くと宿屋のベッドの上にいた。ベッドが固いせいで体がバキバキだ。


「ん……」


 軽く伸びをして食事のために一階へ下りる。現実で食べたばかりなのにこちらの体は空腹だから不思議な感覚だ。


 朝食を食べ、宿の女将に革袋に沸かした水を入れてもらって、傭兵ギルドへ向かう。朝にギルド集合という話だったが、街には時計といえば日に三度決まった時間に鐘を鳴らす巨大な機械式の時計はあるもののそれ以上に進歩したものは開発されいないため詳しい時間はわからない。


 魔法で魔道具のようなものを作れるのではないかと思うかもしれないが、魔道具はとても高価で一部の大貴族や王族にしか出回っていなく、その上時計ほど複雑なものまでは作れていないのが現状だ。


 ということで傭兵ギルドに到着しキナ爺を待とうと思っていたが、キナ爺はもうすでに到着し私を待っていた。


「お待たせ」


 「ああ、荷物も最低限は持っているみたいだしいくぞ。昨日言った通り俺の指示には絶対に従うようにな」


「うん」


ほとんど歯の抜けた歯茎をさらしながら不気味に笑うキナ爺に不安を改めて抱きつつ、ついていくことにする。


 南門をでて大森林へと向かう。2時間ほど歩いてようやく森に到着した。大森林を外側から見ると、手前は現実でよく見るような大きさの木々が生えているが、奥のほうは信じられないほど大きい木がたくさん生えているのが見える。


 森に入りしばらくは木こりがいたり人の気配も感じ、草も多くは踏まれていて歩きやすかったが、だんだんと人の気配も薄くなってきた。


 「そろそろ魔物に出会いやすいエリアに入る。その前に一度休むとするかい。まあ、まずそうだな。歩き方から直すとするか。後ろを見て足跡を見るといい。俺の足跡は草や石の上を歩くようにしているから目立つことはない。だがお前さんはンなこと気にすることなくどたどたと歩きやがる。魔物に情報を与えるな。お前さんは魔物をバカな獣だと思っているようだが、魔物は賢く狡猾だ。待ち伏せをして不意打ちを狙ってきたりする。だからまずは俺の歩った上を歩いて足音も消すようにしろ、いいな。」


「うん、わかった」


 干し肉を軽くかじり、革袋から水を飲む。干し肉は塩辛く。水は革袋のせいで臭い。休憩を終わりまた歩き始める。どうやらキナ爺がこの時期にしか生えない薬草の群生地に案内してくれるらしい。


 しばらく歩いているがもうすでに息が荒い。草木が茂って荒れ果てている森の中は思っていた以上に歩きにくく、私の体力を奪っていく。集中力も途切れ、キナ爺が道中生えている植物の特徴などを教えながら採取しているが、まったく頭に入っていかない。それでも根性でついて行っていると


 「伏せろ」


 突然キナ爺がつぶやく。何があったのか見渡すが何もない。


「何もなさそうだけど。なにがあったの?」


 「いいから伏せろ」


「ん、うん」


 「見てみろ。この足跡が見えるかい」


 よく目を凝らして見てみると、そこには18~20cmほどの足跡があった。


 「これはゴブリンだな。これなら3匹はいるはずだ。引き返すぞ」


「え?でも……」


 「俺の指示は絶対って話だったはずだ、いいな」


「うん……」


 やむなくキナ爺の言う通り引き返す。ただこれまでの道中で水は飲み切ってしまい喉がカラカラだ。


「喉乾いた」


 「ああ、それなら。そこの木にツルが巻き付いてるだろう。そいつを切ってやると……ほら水が出てくる。こいつを飲め」


「ありがとう」


 「こいつには特徴的な針のようにとげとげとした葉がついてるから覚えておけ」


 しばらくキナ爺についていくと木々が生えていない代わりに黄色の小さい花のついた植物が群生している場所に到着した。


 「こいつは今の時期にだけ生えるリンサという植物だ。こいつを焼いて灰にしたものを畑にまくと虫が寄り付かなくなり、よく育つようになる。大森林にしか生えないがそれだけ貴重で需要もある。要するに高く売れるってわけだ。今日、もともと向かう予定だった場所にも同じものが生えている」


 「じゃあ採るぞ。根ごととってしまっていい。生えてる分の半分の半分くらい残しておけば来年も生える」


 採取が終わり、帰路につく。キナ爺は私の倍以上の速さで正確かつ丁寧に採取していた。


 街に戻り、傭兵ギルドに向かう。受付にはカイラスがいたのでカイラスにリンサとほかの採取した薬草を換金してもらう。リンサは三束採取し、ほかの薬草と合わせて7500ギルだった。


 「よし、明日の朝も来な」


「今日はありがとう。明日もよろしくね」


 雑貨屋で干し肉を追加で買い、宿屋に戻る。昨日と同様夕食を食べて部屋に戻る。


 「明日は服も別なものを買いたいな。着替えは一つしかないし襤褸同然だし気持ち悪い」


 実際森の中を歩いている間は疲れでそれどころではなかったが、初めての森の探索に初めて見る植物、初めての経験にすごく興奮している。その興奮をそのままにベッドに横になりログアウトした。

リンサ 一束(10本) 2000ギル


 ログアウト中キャラクターは睡眠扱いでその場に残ります。そのため、ログアウト時は周囲の安全を確保することが必須です。何日もの間ログアウトで放置すると水分不足や飢餓で死ぬ廃人向けのゲームです。ゲーム内で睡眠をしても現実でも睡眠をとっているのと同じ状態になるので、食事と排泄だけすればあとはずっとゲーム内にいることも可能です。

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