29話
ミヤと二人で街の西側へ行く。
街の西側には広大な牧草地が広がっている。羊や豚や牛、そして鶏などいろいろな家畜が飼われ街の食糧への一助となっている。その牧草地を抜けてその先にはホス山脈という山脈がるのだが、その手前で立ち止まる。
「キナ爺、お墓どこだろう」
「カイラスさんもどこに遺体が埋められたかわからないし、目印もないって言ってたから見つけるのは難しいんじゃないかな」
「ん、じゃあ仕方ないからそれっぽいとこに墓標を作る」
そうしてそこらへんで拾ったいい感じの大きさの石にキナ爺と掘って置く。
「キナ爺、ご飯昨日ご馳走できなかったから。街の美味しいパンやさんのサンドウィッチ持ってきたよ。これほんとにおいしいから」
そうしてたてた墓標の前にサンドウィッチを置いて、その前で二人でサンドウィッチを食べる。
「おいしいね、ハナビちゃん」
「う、うん・・・・・・」
サンドウィッチを食べているとふと悲しさがまたこみあげてきて涙がこぼれてきてしまう。
「_____グスンッ_____
ポロポロと涙をこぼしながらサンドウィッチを口に入れていくハナビにミヤはそっとくっついて寄り添う。そうして食べ終わったと思ったらまた声を上げて泣き出してしまった。
「よしよし、泣きたいだけ泣いていいんだよ」
「ん、んん___」
そうして1日が過ぎていった。
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___んんっ
目が覚める。昨日ハナビちゃんは泣きたいだけ泣いてスッキリしたみたいだった。最初はキナ爺さんの死が受けれいられていなくてどうなることやらとても心配したのだが良かった。
あの調子なら今日はいつも通り狩りに向かうこともできるだろう。故人を偲ぶのも大切だしわたしももちろん悲しかったが、いつまでも引きずって休み続けるのは心身ともに良くないだろうから。
そうしてベッドの私の横、そして部屋を見渡すがハナビちゃんの姿がない。なんならハナビちゃんの装備などもない。加えていつもより外が明るい。
「まさか・・・・・・」
まずい。おそらくハナビちゃんは敵を討つために朝早くから出て行ったんだ。私が自分で目を覚ましたことからもおかしかった。朝に弱い私はいつもハナビちゃんに起こしてもらってるんだから。
急いで追わないと、ハナビちゃんが出てからもうすでに数時間経ってしまっているが急がない理由にならない。
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朝目が覚める。横にはいつも通りまだ起きておらず寝起きを立てているミヤがいる。
ミヤを起こさないようにそっとベッドから出て静かに準備をする。ギルドには寄らずに門が開かれるのと同時に門をくぐる。その際門兵にオーガが出てきたから注意するようにと注意されたがそんなことはわかっている。今から殺しに行くのがそいつだからだ。
昨日カイラスからオーガとキナ爺が遭遇したらしい場所を聞いた。そこは私たちが採取していたところからほど近くでキナ爺が採取に行っていたところとは離れた場所だった。
それにも関わらずどうしてキナ爺がオーガと遭遇したのか、きっと採取しているときにオーガの足跡をみつけたんだ。そしてそれが私たちの方へ向かっていた。だから注意をひくために、私たちからオーガを離すために戦ったんだ。
キナ爺は優しくていつまでも私に甘くしてくれてたからきっとそうだ。私のせいでキナ爺は死んだ。
その事実を知った時、己への怒りでどうにかなりそうだった。私が弱いせいでキナ爺が死んだ。私の弱さがキナ爺を殺した。
こんな弱い私のままではキナ爺も安心して逝けないだろう。だから私が敵を討ってキナ爺を安心させてあげるんだ。
森に入る。いつもよりも集中して気配を探る。森がいつもより静かな気がする。あの日もキナ爺はこれに気づいてたんだろうな。一方私はこの森の変化にも気が付かず呑気に採取をしていたのか。なんて間抜けだ。
オーガがいたらしい地点に到着する。そこにはキナ爺がいつも持っていた鉈とナイフが落ちていた。
これでキナ爺は戦ったのか。ナイフと鉈を拾おうとするが刃に何かがついていることに気づく。
「なんだろうこれ___」
緑色の粘液が所々ついている。
もしかしたらあれか。___エズ草だ。この時期に生える草で周りについている粘液が劇強烈な毒なのだ。
触るのは良くないので布で毒の粘液をふいて、鉈とナイフをしまう。これはキナ爺の墓に供えよう。
エズ草の劇毒を食らっても死ななかったらしいオーガは足を引きずりながら移動していったらしく。目立つ足跡が続いている。とりあえずこれを追っていこう。2日も経ってしまっているがそう遠くには行っていなさそうだ。
そうして足跡を追ってしばらくようやく見つけた。その姿は恐ろしい怪物そのものだが、その巨体をみても恐怖はわかずただただ憎悪がたぎってくる。
オーガは座って肉を齧っておりこれならすきを突くこともできるだろう。
すぐさまオーガの視界の外から静かに寄っていく。そしてそのままオーガに向かって飛び出した。
まずオーガの左肩目指して剣を思い切り振りぬく。左目が潰れているせいでこちらに気づく様子もないオーガは簡単に左腕を失った。
突然の痛みにオーガは立ち上がり、叫ぶ。経った姿を見るとますます大きい。
バックステップで素早く下がり私を捕捉して暴れ始めたオーガの攻撃を避ける。武器は持っていないがその巨体から放たれる格闘だけでも脅威だ。
片腕を失って、動揺していたオーガだったが落ち着いてきたのか、私の方をにらみつけきた。そして距離を置いていたのにも関わらずその距離を一瞬で詰めて殴りつけてきた。
「___つっ」
右腕からの殴りつけは速く鋭い。それをなんとか躱して反撃を狙う。が、オーガは殴るために突き出した右腕をそのまま振り払ってきた。
「ぅぐっ____」
勢いそのまま吹き飛ばされ地面を転がる。
「グッ____痛っ」
肋骨が折れたのか酷く痛む。ただここで動かないわけにはいかない。そのままではただサンドバッグにされてしまう。
すぐさま立ち上がり痛みを耐えながら走り出す。オーガからみて左側に回るように攻める。左目も左腕もない今はその方が攻略しやすいはずだ。
素早く左手に回って左足を軽く切りつけながら通り過ぎる。ただその程度の傷ではひるむ素振りも見せず、振り返ってまた殴りつけてきた。
オーガの周りを駆けるようにして避け足元に入って、振り払いも当たらないようにする。すると足が怖いが恐れずそのまま左足の腱を切りつける。左足の腱には軽く傷がついていた。これもキナ爺がつけたものだろうか。そこを狙って思い切り剣を払う。
オーガは左足で立つことがままならなくなり片膝をつく。
いいぞ。やれる。
しゃがんだせいで位置の下がった首を狙ってやろうとしゃがむ際に取った距離を詰めに行く。
ただそこを待っていたというかのようにオーガはにやりと笑って殴りつけてきた。
___ッ____まずいっ
とっさに左手を出して盾でいなそうとする。しかしこの巨体からの攻撃を完璧にはいなすことができず左腕から嫌な音が出る。
_____バキ、グチャッ
ただ真正面から受けることは避けられた。おかげでオーガと私との距離はそのままだ。左腕が使い物にならなくなっているが痛みなどもう感じていない。
そのまま突っ込み、仕留めきれなかったことに動揺しているオーガに肉薄する。
オーガは右腕は殴るために突き出したままな上左腕もないため、この攻撃を防御する術はない。ここから避けられるものなら避けてみろと私はどこか笑顔を浮かべながらオーガの首筋に向かって思い切り剣を振った。
_____ブシャアッ
半ばまで切り払われたオーガの首から鮮血が吹き上がる。そしてそのままオーガは倒れた。
「やってやった_____」
「安心して、キナ爺___私はもう大丈夫」
そうして私も意識が途切れ倒れた。




