11話 キナ爺の過去
武器を新調してから2週間が経った。
今日もいつも通りキナ爺と森に向かう。もうリンサの取れる時期は過ぎてしまったので、今はスーズという調薬や錬金術でよく使われ、飲むだけでけがを治してくれる魔法薬の材料にもなる薬草やヒヨリ草という調薬でよく使われるらしい草をとっている。
ポーションは高価だがその効果は確かなもので傭兵にとっては必須アイテムだ。私も程度にもよるが骨折レベルの怪我も治すことが可能なレベルのものを一つだけ持っている。
ポーションは作られてから1か月ほどで効果を失ってしまうので消費期限の管理も必要だ。2週間も経てば効果もだいぶ弱まってしまうのでそのくらい経つと処分してしまうのがたいていだ。
採集を終えて街へ戻る道中キナ爺が私に語り掛ける。
「ハナビ、お前さんはいつまで薬草採取を続けるつもりなんだい」
「えっと・・・・・・いつまでとかは詳しく考えてなかったな・・・・・・私迷惑だった?もうついていかないほうがいいかな?」
「いや迷惑だなんては思っていねえよぉ。ただなもうなかなかに動けるようになったし、しばらくカイラスの奴にも戦闘を教えてもらってんだろう?それならいつまでもこんなしみったれた薬草採取にこだわる必要はねえ」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺はなあ。お前さんに初めて会って、森の知識を教えろなんて言われた時は嬉しかったんだよ。こんな俺の知識を誰かに教えることができるなんてな・・・・・・ってな」
「キナ爺の知識はすごいよ。そのおかげで私はたくさんの薬草をとってお金を稼げてるし」
「そうかい、それでも草が取れるだけなんだよ。お前さんは俺みたいにただ森を歩いて草取ってるだけで終わっていい人間じゃねえし、いつまでも俺について行かせるにはもったいねえ。そうじゃなきゃいつまでも使われない剣も泣くしな」
「だから明日からは俺についていかずに自分で森を歩くようにしろ。薬草とりをもうしばらく続けてもいい、魔物を狩り始めてもいい、ただいつまでもこんな草採りを続けたりはするなよ。俺みたいにはなっちゃいけねえぞ」
「・・・・・・キナ爺はずっと傭兵をやってるんでしょ?どうして魔物を狩って稼いだりはしなかったの?」
「俺は体が小さかったからな。・・・・・・・・・・・・そうだな。ハナビになら話してもいいか」
「なにを?」
「俺はもともと奴隷だったんだよ。昔から何もできなくて金も稼げなかった。そして借金がたまりにたまって奴隷に落ちた。奴隷としての生活はひどいもんだったぁ・・・・・・・・・飯もよこされずに肉体労働や雑用をやらされてどんどん疲弊したさ・・・・・・・・・そして結局病にかかっちまった。そんな使えない奴隷をいつまでもおいて置くわけがない。そうして俺は病のまま捨てられたんだ。」
「・・・・・・・・・でも今は生きてるでしょ?」
「ああ、運良く生き残った。捨てられても飯を食う金もないし稼ぐ手立てもなかった。そのなかでも死にたくねえって泥水すすって雑草を食って生活したよ、必死にな。そんなボロボロの俺が稼ぐ手立ては傭兵になるくらいしかなかったんだよ。まあ、傭兵になっても魔物を狩ることは出来なかったがな」
「そうやってただただこれしかできなかったから、薬草をとってきた。薬草採りなんてなあ、誰にだってできるんだよ。そんなことをいつまでも続けて奴隷の時から変わらず何もない人間のまま生きてきたんだ。それでもなあ、ハナビにこうやって俺が必死に生きてどうにか培ってきた知識を伝えられるのが嬉しかったんだ。俺の歴史をこうやって後に残せるのが嬉しかった。今まで俺のこんなわがままに付き合わせちまってすまねえなあ」
「わがままなんて・・・・・・・・・それを言うなら私のほうが・・・・・・いつまでもキナ爺について行ってたくさんのことを教えてもらって、キナ爺のおかげで私はこうやって生活ができてるんだから」
「そうか・・・・・・・・・それなら、良かったなあ」
そうしてキナ爺の過去を知り、街へ戻った。今日は二人で夜飯を食べ、あまりなれないが一緒に酒も飲んで過ごした。
キナ爺の過去の秘密を聞かせてもらって、ただの子弟ではなく一人の友人として距離が縮まった気がした1日だった。
奴隷制度は多くの国で存在しています。ただ異種族間での差別などはほとんどなく、奴隷も犯罪奴隷や借金奴隷などで誘拐して奴隷として売るような行為は規制されています。ただそういった違法な奴隷も少なからず存在しているのが現状です。
 




