↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
85/276

第85話 楽器がない!

 偽ネウマ譜なんてなかった。

 だから、事件は起きていない。


 ……商売人たちにそう思ってもらえるよう説明する必要がある。

 そのために重要なのは証明だ。

 ネウマ譜は偽物ではなく、本物であると——。


 そもそも偽ネウマ譜は書き損じの暗号ネウマ譜であり、偽物でも本物でもない。

 でも、このことは内緒だ。

 それを隠しつつ、書き損じの暗号ネウマ譜を本物に仕立てるしかない。


 もとを辿れば、暗号ネウマ譜は普通のネウマ譜に重音——ハモリを付加したものだ。

 暗号が仕込まれているとはいえ、譜面通り歌える。

 ……そう、歌えるんだ。


 カリファがすり替えた偽物はどうだろう?

 もし、僕の書き損じた暗号ネウマ譜をそのまま流用したのなら……。


『ヴィヴィ、お願いがあるんだ』

 ネウマ譜を興味なさそうに見ているヴィヴィの腕をつかんだ。

「うん? なになに?」

 目を輝かせ、ヴィヴィは楽しそうに答えた。

『偽ネウマ譜だけど……』

「ああ、それなら全部回収してあるよ」

 親指をぐっと立て、ヴィヴィが得意げな顔をした。

『さすがだね、ヴィヴィ』

「いやいや……あたしは回収を手伝っただけ。指示をしたのはダンテだよ」

『やっぱりヴィヴィは最高だ。商団員じゃないのに手伝ってくれたなんて』

「へへっ、あたしだってレオの手助けができるんだからね」

 鼻高々にヴィヴィが笑った。

『うん、ありがとう』

「いいってこと……で、偽ネウマ譜をここに運んできたらいい?」

 先読みをし、ヴィヴィが言った。

『僕の予想だと、偽物は数パターンしかないと思う』

「ふむふむ。じゃあ、それらを探して持ってくるよ」

『面倒くさいだろうけど、お願いするね』

 僕は軽く頭を下げた。

「了解!」

 ヴィヴィは楽しそうに敬礼のようなポーズを取り、小屋から出ていった。

 苦難を嘆くのではなく、楽しむヴィヴィがとても好きだ。

 僕もそうしよう。


 ヴィヴィが戻ってくるまでに、急いで考えなければならないことがある。

 偽ネウマ譜が通常のネウマ譜であると証明する方法だ。

 単音ではく重音表記されたネウマ譜だと説明し、かつ実演したい。

 実演するには修道士に歌ってもらうのが一番。

 だけど、初見——ネウマ譜を見てすぐに歌える能力がある修道士を僕は知らない。

 五線譜と違い、ネウマ譜だけで音階を把握するのは至難の業だ。

 初見はほぼ不可能。


 ただ、幸いなことに僕が書き損じた暗号ネウマ譜のベースは有名な聖歌だ。

 そこに僕が暗号となる重音を足した。

 だから、もとの聖歌を修道士に歌ってもらうのは難しくない。

 

 残る問題は足した重音部分だ。

 これは正確な音程を僕しか知らない。

 優秀な者なら、その部分を一度歌って聞かせれば覚えるだろう。

 でも、僕は歌えない。

 頭のなかにある旋律を伝えられない。


 ふぅ。

 ため息をついた。


 どうすればいい?

 歌う以外にメロディを伝える方法は?

 それが僕にとってネウマ譜だった。

 徐々に弱気になってくる。

 こんなとき、ヴィヴィがそばにいてくれたら……。


 弱気になっちゃダメだ。

 ヴィヴィが戻ってきたときに、心配をかけたくない。

 最低、嘘でも平気なふりをする。

 できれば、解決策を伝えたい。


 腕を組んだ。

 

 僕はこれまでどうしていたっけ?

 転生前の記憶を探った。

 譜面では、細かなニュアンスを伝えるのは難しい。

 メロディをどう表現するのかは、実際にやってみるのが一番だ。

 歌ってみる。

 演奏してみる。


 あっ!


 僕は手を打った。


 そうだ、演奏すればいいんだ。

 話せない僕にもできる。

 うまくはないけど、それなりの腕だ。


 道が開けた。

 そう思った次の瞬間——。

 道が閉ざされた。


 この異世界に来て、一度も楽器を見ていない。

 

 この世界に来る以前は、教会といえばどこにでもオルガンがあるイメージだった。

 でも、僕が暮らした教会にはない。

 近隣の荘園にある教会の状況は知らないけど、おそらくないように思う。

 楽器は高価だ。

 並外れた支援を受けている教会しか購入できないだろう。


 楽器がない。

 せっかく名案を思いついたのに……。

 あきらめるしかないのか?


 他にも方法があるかもしれない。

 僕は考えた。


 話せない僕が意思を伝える手段は、木札とヴィヴィのふたつ。

 木札には文字が書いてあるから的確に伝わるけど、言葉数が少ないのが難点。

 一方ヴィヴィは、僕のゼスチャーを理解して通訳してくれる。

 いつも正確に伝えてくれるので非常にありがたい。

 とはいえ、さすがに心で歌ったメロディは伝わらないだろう。


 ないものはない。

 楽器をあきらめるしか……あっ。

 そうだ。

 ないなら作るのはどうだろうか?

 時間がないから、簡単に作れて音階が出せる楽器がいい。

 

 鍵盤楽器——。

 考えるまでもない、無理だ。

 木管楽器——。

 笛の類《たぐ》いは木があればできる。

 でも、穴の位置が音階の決め手になるから、そう簡単に作れない。

 却下。

 

 ……。

 ダメだ。

 打楽器なら簡単にできそうだけど、それだと音階が表現できない。


 うーん。

 うん?


 鍵盤打楽器——。

 木琴はどうだろう?

 木の長さで音階が決まる。

 すぐにはできないけど、木管楽器よりは簡単そうだ。

 

 でも、時間は限られている。

 短時間で木琴制作が成功する確証はどこにもない。

 賭けになる。


 どうする?

 賭けにでるか、それとも別の方法をいちから考えるか……。


 脳みそが煮えたぎりそうだ。 

毎日更新。

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています(毎日更新)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。