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第82話 罪を背負う布石

 誰ひとり犠牲にならず、この一件を丸くおさめる方法。

 それを探さないと、ダンテが罪を被りそうな予感がする。


「ひとまずダレッツォ修道士長さまに事の顛末《てんまつ》を伝えよう」

 ダンテが同意を求めるように僕とヴィヴィを交互に見た。

「包み隠さずに?」

 ヴィヴィが蔑《さげす》むような目でカリファを見ながら質問した。

「ああ、ありのままを話す」

 決意を伝えるように強い口調でダンテが答えた。


 全てを知ったダレッツォはどう出るだろう?

 ふと思った。

 ダレッツォは教会も孤児も大事にしている。

 だからこそ、悩むはずだ。

 その結果、僕たちと同意見になればいい。

 でも、異なったら?

 実直なダレッツォだから、正義を貫く可能性がゼロとは言えない。

 

「修道士長さまは正義を取るか、孤児たちを取るか……どう思う?」

 ダンテはカリファに質問を投げかけた。

 このなかでは、カリファが一番ダレッツォを熟知している。

「孤児たちを取るだろうな」

 少しも考えずにカリファが答えた。

「……俺も同意見だ」

「あたしも」

 ヴィヴィは賛同したあと、僕を見た。

 同意見だよねと目で訴えてくる。


 僕は……。

 

 首を縦に振らず、大きく息を吐いた。

 完全に同意見とは言えない。


『もしかすると、教会と孤児だけじゃなく、僕たちも守ろうとするかもしれない』

 脳裏に浮かんだ可能性をヴィヴィに伝えた。

 ダレッツォもまた、ダンテと同様の考えを持っているような気がする。


「どういうこと?」

 ヴィヴィが僕の言葉を伝えてから質問してきた。

『全部の罪を修道士長さまが被るつもりかもしれない』

 僕の推測に誰もが驚いた。


「待てよ、レオ」

 ダンテの声が震えている。

「修道士長さまが支援金不正の罪を被るって言うのか?」

『おそらく』

「じゃあ、偽ネウマ譜の件も?」

『犯人はカリファ修道士副長ではなく、ダレッツォ修道士長……』

 僕の考えをヴィヴィが伝えているさなか、カリファが床を足で蹴った。

「そんな、まさか。私の罪を被るだなんて……」

 カリファが唇を噛んだ。


「……それはないんじゃないかな」

 ぼそっとヴィヴィが言った。

「そうであってほしけど、修道士長さまの性格を考えるとあり得る気がする」

 ダンテが悔しそうにつぶやく。

「修道士長さまが犯人だって自白したら、教会への支援金が打ち切られるかもしれないだろう」

「た、たしかに」

 嬉しそうな声でカリファがヴィヴィの考えに同意した。


『僕が教会にいた頃から、修道士長さまは最悪の事態を考えていたような気がするんだ』

 ダレッツォの何気ない行動や発言が、今頃になってよみがえってくる。

 当時は気にも留めなかった。

 でも、さっき気づいた。

 あれは、いずれ来るべきに備えた布石だったのだと——。


『不正金のことがバレたら、小領主たちに支援金を打ち切る口実を与えてしまう……修道士長さまはそう考えていたんだと思う』

 複雑な考えをヴィヴィに託した。

 ヴィヴィは必死に僕の気持ちを汲み取ろうとしてくれている。

『だから、万が一に備えて修道士長さまは準備をしていた』

「準備?」

 カリファが首を傾げている。

 そんなことがあっただろうかと思案しているのだろう。


『僕に採譜の能力があると気づいたとき、計画を立てたんだと思う』

「えっ?」

 カリファはまだ気づいていない。

 その計画の重要人物であるにも関わらず……。


『僕を採譜師にして、修道士副長さまの負担を減らす。その空いた時間で修道士になる修行をさせた』

 そこまでヴィヴィが伝えたところで、カリファは目を見開いた。

「……あれは採譜師としての能力がレオに劣るからという理由じゃなかったのか?」

 この場にいる誰もが答えられない質問をカリファは独りごちた。


 当時、僕もカリファと同じように思っていた。

 僕の方が採譜師としての才能があるからだと。

 でも、違った。

 ダレッツォには別の思惑があった可能性が高い。


「もしかして、教会の陰が表沙汰になりそうになったら……」

 話している途中でカリファは黙った。

「自ら修道士長を辞めて、次の修道士長に告発させるつもりだったと?」

 ダンテは拳を強く握った。

「不正だけじゃなく、偽ネウマ譜の件も罪を被ったりしないよね?」

 ヴィヴィが激しく首を横に振っている。


『多分、そうだと思う。教会も孤児たちも、ダンテと僕、カリファも守ろうとするかもしれない』

 僕の推察がダメ押ししたように、この場にいる全員が肩を落とした。

 誰も異論を唱えない。


 ダレッツォならそうするかもしれない——。

  

 認めたくないけど、可能性は非常に高い。


 誰かが罪を背負わなければ、本当にどうにもならない問題なのか?

 手のひらに爪が食いこむほど強く拳を握った。 

 それは一番最悪な結末だ。

 回避できるなら僕が罪を背負いたい。

 でも、きっと受けいれられないだろう。

 ダレッツォだけでなく、ダンテも決意を固めている節がある。

 他の誰かが罪を被るくらいなら、自分が背負うと——。


 これを撤回させる方法はたったひとつ。

 偽ネウマ譜事件を丸くおさめる策を練ること。

 でも、思いつかない。

 商売人たちと三日で解決すると約束した。

 だから、この日までに策を探さないといけない。


「今後どうするか、修道士長さまに一任しようと思う」

 沈黙を破り、ダンテが発言した。

 ヴィヴィは戸惑った様子で、肯定も否定もしない。

 僕もどうするべきかわからず、ただダンテを見つめた。


「……それがいい。ダレッツォ修道士長さまが下した結論なら、誰もが納得するだろう」

 カリファが穏やかな口調で言った。

 その発言が呼び水となり、ヴィヴィが賛同。

 僕もゆっくりとうなずいた。


「じゃあ、俺から修道士長さまに全てを伝えてきます」

 ダンテはいつもの口調でカリファに言った。

「わかった。では、私は自室で修道士長さまの指示を待つ」

 カリファはゆっくりとドアに向かった。

 小屋から出ていこうとした矢先——。


「あっ、そうだ」

 カリファは足を止め、振りかえった。

「言い残したことがある」

 カリファの視線がまっすぐ僕をとらえる。


 言い残したこと?

 カリファが僕に?

 なんだろう……。

毎日更新。

*カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16817330647661360200)で先行掲載しています(毎日更新)。


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