第49話 転生直後の現場へ
これから僕はひとりで小屋へ向かう。
そう、ひとりで。
だから、寄り道しても誰にも咎められない。
でも……。
いま行くべきなのだろうか?
不意に思った。
小屋の留守番が必要だとジェロに言われた。
だから、寄り道をすべきじゃないかもしれない。
どうしようか。
転生してから今日まで、その日一日を生き延びるのを優先して行動してきた。
だから、いまこうして生きている。
当面の目標だった自立への道も開けた。
そろそろ次の段階に進むときだ。
次の段階——。
チーロを助け、もとの世界に戻る。
そのためには情報が必要だ。
商人の弟子となり、教会にいたときより行動範囲も友好関係も広がる。
きっと欲しい情報が得られるはず。
すぐには無理でも、ジェロの仕事を手伝っていくうちに必ず願いは叶う。
しばらくの間、探る情報をひとつに絞ろう。
覆面男の正体と目的を知る——。
チーロと僕が転生した件の両方に関わっている謎の人物だ。
姿を目にしたのは全部で三回。
一回目は、僕がこの世界に転生した直後。
盗んだものを出せと僕を脅し、首を絞めた。
二回目は、深夜に小屋でカリファと密会している現場を目撃。
覆面男がカリファにお金を渡していた。
三回目は、僕が拉致された小屋から逃げだしたとき。
覆面男は矢をつがえ、僕とカリファを射た。
僕は三度、覆面男と遭遇している。
これらが同一人物である証拠はない。
でも、体格や雰囲気から同じだと思う。
もしそうなら、覆面男は最重要人物だ。
なにせチーロの件、僕の転生の謎について鍵を握っているのだから。
僕のふたつの目的を達成するには、覆面男を探す必要がある。
どうやって情報を収集しようか?
覆面男を追うには、ふたつの道がある。
ひとつはチーロが行方不明になった事件。
もうひとつは、この世界に転生して首を絞められた事件。
どちらも手がかりは少ない。
チーロが行方不明になったときの目撃情報はゼロ。
僕が転生したのを知る者はゼロ。
目撃情報はどちらからも得られない。
現場はどうだろうか?
チーロが行方不明になったのは教会。
自立したいま、理由なく行けない場所になってしまった。
仕事の一環として教会に行くときに探ってみよう。
僕が転生した直後の現場は……。
さっきジェロが教えてくれた。
ここからそう遠くない。
行けるのはいましかない気がする。
でも、留守番を任されているし……。
情報収集と仕事のどちらを優先するか悩んだ。
後日、転生直後の現場まで行けるだろうか?
採譜師と暗号師の仕事の忙しさがわからない。
万が一、ブラック企業並みに働かせられたら?
自由に行動できる時間が取れない。
そうなったら、転生直後の現場にいけなくなる。
だめだ。
僕は地図を見た。
ジェロと出会った場所を確認し、実際の方向に目を向ける。
あの辺りだな。
……行こう。
走って向かい、ささっと調べ、全速力で戻れば大丈夫だ。
心を決めた。
行こう!
転生直後の現場に行けば、もしかするとなにか思いだすかもしれない。
たとえ思いだせなくても、情報が得られる可能性は十分ある。
僕は走った。
ここがそうなのか?
目的地に辿りつき、辺りを見渡した。
僕の背丈ほどの草が覆いしげる草原と、土が剥きだしになった大地が広がっている。
十年前、僕はここにやってきたのか?
いくら景色を眺めてもなにも思いださない。
初めてやっていた場所に感じる。
でも、ジェロがはっきりと覚えていた。
ここで僕と出会った、と。
当時、命の危機を感じたのを覚えている。
そのあと、ジェロに助けられた。
この辺りの記憶ははっきりしている。
首を絞められていたときはどうだった?
覚えている。
はっきり思いだせる。
絞められる前は?
走って逃げていた。
なんとなく覚えている。
そのずっと前は……。
視線。
声。
……。
ゆっくりと記憶をさかのぼっていこう。
そうすれば、重要な情報が得られるかもしれない。
覆面男の情報は僕の記憶にきっとあるはずだ。
ゆっくりと目を閉じた。
転生直後の記憶の始まりは……。
ぼんやりとしてはっきりとしない。
だったら、記憶を逆再生だ。
脳裏にジェロに助けられたときの記憶を描く。
そこから巻き戻す。
覆面男に首を絞められている僕。
スタートはここだ。
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