第215話 同じ道をたどらないために
捕縛命令が出て半日足らずで同志たちが捕まった。
それも大勢……。
早すぎる。
俺は苛立ちの全てを拳に込めた。
大領主側の動きが素早すぎる。
これには裏がある。
たとえば、捕縛命令を出す前から準備が整っていたとか……。
昨日までに同志たちの素性を調べあげ、居場所を特定。
そこへ兵を配置し、ひとまず待機させる。
その後、捕縛命令が出ると同時に同志たちを捕まえさせた。
この方法なら短時間で捕縛可能だ。
でも、そのためには事前に同志たちの情報を入手する必要がある。
どうやって情報を得るのか……。
考えるまでもない。
俺は頭を抱えた。
サングエ・ディ・ファビオを結成にするため必要なのは、志を同じくする同志たち。
その選定には細心の注意を払った。
あのときと同じ轍を踏まないために……。
だけど、失敗したようだ。
あのときと同じく、同志たちのなかにスパイがいる——。
ファビオはスパイの存在により命を落とし、同志たちは離散した。
今回も同じ道をたどるわけにはいかない。
なにがなんでも。
「どうするんだ、ジェロ」
ピエトロが不安そうな表情を浮かべている。
「どうするもこうするもない。計画通り突き進むだけだ」
俺は腹に力を入れた。
ここで怯んだら大領主さまたちの思う壺。
権力に屈しない気持ちを庶民たちに見せなければならない。
「危険だ」
ピエトロが早口で言った。
「わかってる」
「だったら……」
「いまさら後には引けない」
「だけど……」
「今回の一件で同志たちのなかにスパイがいることがわかった」
「!」
「俺らの情報もすでに漏れている可能性がある。だから、その前に動くんだ」
俺は腕組みをした。
俺とピエトロがサングエ・ディ・ファビオのメンバーであることを、大領主さまは知ってしまったのか?
これが大きなポイントだ。
もし、知っているなら計画を急がなくてはいけない。
運良く気づかれていないのなら儲け物。
どちらにせよ、サングエ・ディ・ファビオの歩みを止めるつもりはない。
「……ダメだ。危険だからしばらくは動かないほうがいい」
ピエトロが必死に訴えかけてくる。
「いや、逆に動くべきだ」
「どうして? 同志たちに危険が及ぶのに?」
「同志たちの情報が漏れているなら、なにかしてもしなくても危険だ」
「……同じ危険なら、計画を遂行するって?」
不安そうな声でピエトロが言った。
小領主さまを襲撃し、大領主さまの鞍替えを突きつける——。
この計画を決して止めない。
だけど、スパイがいるから実行が難しくなる。
加えて、これからも同志たちの捕縛が続く。
俺とピエトロもいつまで無事かどうかわからない。
だから……。
時間がない。
捕まるまでになんとしても計画を実行する。
襲撃できるのはあと一回だろう。
その一回で成果を上げる必要がある。
どうすればいい?
思案しているさなか、またしてもあの言葉が思い浮かんだ。
——要求を飲んだところで現状は変わらない。
ザネッティが言っていた言葉。
俺らのやっていることは無駄だとはっきりと明言した。
他の小領主さまたちも口にはしなかったけど、行動で示している。
襲撃に遭っても大領主さまの鞍替えをしようとしなかった。
その代わりにパッツィ小領主さまも元へと向かった……。
パッツィ小領主さま——。
三人の小領主さま——キティ、デ・パルマ、ザネッティ。
いずれも襲撃された翌日にパッツィ小領主さまの邸宅を訪れている。
大領主さまではなく……。
そういうことか……。
おそらく小領主さまたちは結託している。
そうして無能な大領主さまをお飾りに仕立てた。
裏で小領主さまたちにとって都合の良い施作をするために。
結託している小領主さまは少なくとも四人。
キティ、デ・パルマ、ザネッティ、パッツィ。
ただし、この四人は同列じゃない。
荘園内の様子や庶民たちの噂話、襲撃したときの小領主さまたちの態度からそう感じる。
四人のなかに序列があるはずだ。
どのような並びかはわからないけど、中心的人物は明らか。
パッツィ小領主さまだ。
四人のなかで一番力を持つから、襲撃された小領主さまたちは真っ先にパッツィ小領主さまを訪ねた。
俺らの要求に対してどう対処するべきかお伺いをたてたのだろう。
その結果、小領主さまたちは動かず。
つまり、パッツィ小領主さまは俺らの要求を却下したということだ。
それなら、次に襲撃すべきはパッツィ小領主さま。
結託した小領主さまたちを動かすために、中心的人物のパッツィ小領主さまを襲う。
そうすれば、襲撃はあと一回で終わる。
残り時間が少ない俺には好都合。
最後の襲撃を終えたら、同志たちを急いで荘園から逃す。
ひとりでも多く助けるために……。
「計画を遂行する。次で最後だ」
俺は決意を固め、ピエトロを見つめた。
「最後って?」
「パッツィ小領主さまを襲撃する。そのあと、同志たちを逃す」
拳を強く握り、俺は覚悟を決めた。
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