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「元同業者」

「どうだ? 大丈夫だっただろ?」

「す、すごい! すっごーく、すごいよ黒木君!」


 少女は興奮覚めやまぬと言った感じだ。


「そうだ、俺は結構すげーんだぜ? 良かったら聞かせてくれるか? こいつらはなんだ?」

「……ごめんなさい、それは言えないの……」

「何で? 俺なら平気だぞ?」

「うん、黒木君が強いのは分かったけど……こういう人達は、任務に失敗すれば、次はもっと強い人達を送り込んでくる……それでもダメだったらもっともっと強い人を……無限ループなの」


 少女はとても辛そうに語る。

 少女の言うことは尤もだ。任務を遂行するために優秀な人材を送り込むのは定石だから。


「あっれー? オッチャンやられてんじゃーん」

「ほんとだー、何が「お前らの出番はないっ!」だよ、だっせー」


 どうやら新手らしい。

 瓜二つの容姿に、痩せ細った体躯。違うとすれば髪の毛の色がそれぞれ赤と青という事だけ。声まで同じという事は、この二人は血の繋がった兄弟か何かだろう。


「ぐっ……気をつけろ、あいつは何かがおかしい、俺の風を難なく避けたんだ」


 そう注意を促す角刈りに対して、「ぶぁーか! 何が気を付けろだよ、たかだか中級の分際で!」と赤頭がバカにする様に罵り、その隣で青頭が「中級の分際で僕達に指図? ありえねーんだよッ!」と角刈りを蹴りとばす。


「ったく……大の大人が雁首揃えて女一人連れてこれねーなんて、だから、あんたらは三軍なんだよ」


 そんな、ニューフェースの左耳には双頭を持つ狼の様な彫刻が刻まれたエンブレムが揺れていた。


「やっぱりこうなるよね……。黒木君お願い、逃げて。今日会ったばかりの私にここまで付き合う事ないよ……」


 自分の言った事が現実になっている事に対して少女は苦笑いを浮かべる。


「嫌だね」

「どうしてよッ!? 私と君は他人なのよ? 私、嫌なの、私のせいで傷つく人を見るの、もう嫌なの!」


 少女の両目いっぱいに涙が溢れる。


「だーかーらー、俺は大丈夫だって言ってんじゃん。それに、俺とあんたはもう他人じゃねーよ」


 俺は、少女に背を向け敵さんの元へと一歩踏み出す。


「もう、顔見知りくらいにはなってんだろうよ」

「黒木君……」

「待たせたな」


 俺は、赤頭と青頭の目を真っすぐ見据える。


「ねぇ、もしかして僕達に勝てると思ってんの?」

「こんなクソ雑魚共に勝ったくらいでちょーしにのってんじゃねーよ」

「別に調子にのってるわけじゃないさ。お前ら【オルトロス】の傘下の【ヘルハウンド】のしかも中級精霊術師くらい、勝って当たり前だろ?」

「「――ッ!?」」


 俺がこいつらの組織名と精霊術師を口に出した事で、その場は一瞬で緊張に包まれる。


 【オルトロス】とは、俺の所属していた【ベエマス】同様に裏家業を生業としている元同業者で構成員の数だけが無駄に多い古参組織の一つである【ケルベロス】の傘下の組織だ。

 【ケルベロス】の下に【オルトロス】、そして、その更に下に【ヘルハウンド】という下部組織を持っており、さっきの角刈りがそれにあたる。


 まぁ、【ケルベロス】は組織全体の幹部のみで構成されているため、数えるくらいの人員しかいないため、ほとんどの構成員は【オルトロス】と【ヘルハウンド】に所属している。


 そして、精霊術師とは?


 一般的には知られてはいないが、この世界には火、水、風、土、雷、闇、光の七つの特性を持つ精霊が存在しており、裏世界に足を突っ込んでいる者なら何かしらの精霊と契約している。


 因みに精霊にはランクがあり、下級は重い物を動かしたり、飲み水をだしたり、焚火の火を起こしたりなど簡単な魔法を発動でき、先ほどの角刈りの様に攻撃の手段としての魔法を発動できるのが中級、そして、今俺の目の前にいる二人……こいつらは上級だろう。

 何故なら赤頭の肩には、火を纏ったトカゲがちょこんと座っており、青頭の首には真っ青な蛇が巻き付いている。

 こうやって、精霊を具現化できる者達は、上級精霊術師として位置づけられる。


「何で、僕達の組織の事を……しかも、精霊術師の事まで……」

「まさか、てめぇ……こっち側の人間か?」

「こっち側の人間かぁ……俺は、一般人だよ。明日から高校にも通うんだぜ?」

「んなわけあるか!? ふん、どうせ名前も知らねぇ弱小組織のペーペーだろうよ。魔力も微塵もかんじねぇしな」


 もう一つ付け加えると、下級、中級、上級の区分は魔力内包量によって決まる。

 魔力内包量が多ければ多いほど強い精霊と契約できるからだ。

 だから、各級内でもピンキリの強さなのだ。


 因みに、こいつらの精霊は、フレイムリザードに、スノウスネーク。上の下だ。


 殺伐とした雰囲気を紛らわすために、俺は後ろを振り向く。

 少女が涙を流しながら、心配そうに俺を見つめていた。


 そんな少女に俺は大丈夫だと言わんばかりにニコッと笑みを向け、赤頭達に視線を戻す。


「俺達を前にして、随分余裕だな?」

「兄貴、こいつ許せないよ!」

「だな、後悔させてやる!」


 赤い方がアニキか……と思っていると、俺の目の前にサッカーボール大の火球が迫る。火球を躱そうとしたがいつの間にか俺の足元は膝の上まで氷漬けにされていた。

 弟君の仕業だろう、まぁ気づいてたけどね。本当だよ?


 俺は迫りくる火球を避けようともせず、両手をクロスさせこの身で受け止める。

 うん、ノーダメージ。


「こんなもんか? 折角避けずに喰らってやってるのに熱くもクソもねぇぞ?」


 自分の攻撃が効かない事に驚く赤頭だが、俺の挑発にまんまと乗り顔を真っ赤にして憤る。


「なめんなああああああ!」


 赤頭の魔力が膨れ上がる。

 先程とは比べ物にならない程の巨大な火球が赤頭の頭上に形成される。


「ちょっと、やりすぎだよアニキ! 後ろの女まで消し屑になるよッ!?」

「うっせえええ、このクソ野郎はぜってええ許さねえええ!」


 そう言って、赤頭は俺に向かって巨大な火球を放つ。


「宗次! 奴を凍らせろおおお」

「分かったよ、アニキ!」


 弟君はそーじ君というのか、とどうでも良い事を思い浮かべながら俺は成すが儘にされる。


「いやああああ、黒木君!」

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